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痛みと快楽

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 弥助によって、舌や身体を縛っていた縄はすべて解かれていった。藍華の身体には、縛られた跡があちこちに付いていた。

 その跡を物足りなそうに見つめると、「お願い、縛って」と熱っぽい眼差しで、弥助に頼んだ。弥助に懇願したその声は、どこまでも甘く、倫子にとって聞いてはいけない禁断の声に感じた。縛られることに悦びを感じる、マゾ性が開花した牝の女に見え、それが、未来の自分と重なった。

 そんなの嫌だと心の奥で反発しながらも、何者に屈しない強い意志をもった瞳が、妖しく潤み、媚びたように見つめる姿を見て、倫子の心に強い衝撃を与えたのだった。

(藍華さん、どうして……)

 弥助は、はっとするような美貌で微笑むと、両手首を身体の前で合わせて縛り上げると、縄を梁のフックに掛け、上へと引っ張り上げた。藍華の縛られた両手が、頭の上へと持ち上げられていった。

 諸手を拘束され、裸体を隠すことも、逃げることもできない。まるで、時代劇のドラマや映画に出てくる囚人のようだ。手首には、ぎっちりと縄が締まり、引っ張られているため、痛みもあるはずだ。

 それなのに、藍華の目元はほんのり色づき、恍惚とした表情をしている。丸窓から降り注ぐ月光が、スポットライトのように藍華を美しく照らす。

 弥助の縄は、藍華の形の良いお椀型の乳房を縛り出した。豊かな乳房が、麓から縄によって括り出され、官能的な丸みと色気が増していく。無骨な荒縄が、弥助の手によって、妖艶で煽情的な装いへと変えていった。

「はうぅっ……ぁぁぁっ……」

 乳房を美しく飾り、背中でぐいっと締めつけられると、半開きの肉感的な唇から、甘い吐息を零した。乳房の先の尖りは、昂ぶったように充血し、太腿を擦りつけ、腰が揺れた。手を縛る縄が、ユラユラと振れる。

 倫子の隣にどっしりと座る松田は、厳格な表情から好色なものへと変わっていた。ギラギラと野獣のような目をし、舌舐めずりをしている。牡の匂いを身体中から漂わせていて、とても70代の年寄りには見えない。

「くくくっ、弥助、もっと狂わせろ」

 松田の声は、熱を含み、発情していた。

 甘いお香の匂いに包まれる。障子や襖は開いているのに、すぐ近くにある香立から絶えず匂いが部屋を覆った。

 倫子は、鼻腔に香りが吸い込まれるうちに、身体の奥が疼いてくるのを感じた。

(このお香ってまさか……)

 間違いなく、催淫効果のあるお香だろう。香りだからすぐには効果がないが、これだけ長時間体内に入れしまえば、効いてしまうのも仕方がなかった。ノアや克也、隆一も妖しい雰囲気を醸し出していた。

(身体が熱い)

 直火でじっくり炙られたように身体が火照り、甘い息を吐いてしまう。口の中が乾き、乾燥した唇を舐める。下腹部がジンジンと疼き、刺激が欲しいと、身体が容赦なく訴えてくる。それは、藍華も同じはずだ。

 お香の白い煙が、妖しく舞い、淫靡の世界へ誘う。






 藍華の太腿に縄が這い回る。彼の縄は愛撫だ。これまでに何度も縛られ、身も心も縛られることを欲していた。

 縄は、弥助の手の一部となり、繊細な動きで刺激する。縄が、藍華の柔肌を滑ると、太腿を舐め回す。しゅるしゅるっと縄の動く音でさえ、卑猥で妖しく響かせた。

 荒縄の表面は、滑らかで柔らかい肌をチクチクと刺すが、それすらも心地良い。

 膝を閉じ、太腿と膝下を一つにさせられると、縄が、何重にも巻き付いていく。縄が、自由を奪い、屈服を強いる。

 足の付け根から先を、膝から半分に折り、巻き付け終えると、弥助は、顔を上げた。丸窓から照らされる月の明かりが、弥助の美貌を映えさせた。目が合うと、優しい眼差しで微笑んできた。藍華の胸が、ドキンと跳ねた。

(この笑顔だ。この笑顔がわたしをダメにする)

 藍華は思った。

 だが、禁断の悦びを知った藍華の身体は、抗えないことを知っている。それどころか、魅力に取り憑かれた身体は、縄の責めを自ら求めてさえいる。

 弥助の縄を掴む手が、締めつけてきた。手がプルプルと震えるほどに、力が入っている。

「はぁんっ」

 縄が肌に食い込み、痛みが走った。その痛みが、どうしようもなく身体を疼かせ、快感へと変わる。恥ずかしいほどに、花弁を濡らしている。きっと顔が淫らな貌になっているだろう。

 それを見透かしているかのように、弥助は、締めつけながら、瞳の奧に嗜虐に満ちた光りを輝かせていた。口角が上がり、虹彩が妖しく揺れる。

「ぁああっ……はぁぁっ……ぅ゛ぅんんっ」

 さらに縄がキリキリと締めつけ、縄跡を身体に刻みこむ。

 もう片方の足も、縄を這わせ、括り、締めつけ、足本来の機能を失わせていく。

 弥助は、乳房や足を縛った残りの麻縄を梁のフックに引っ掛けた。

「あぁぁ……またわたしを辱めるのね」

 藍華は、次にされることを予想し、頬を赤く染めた。言葉とは裏腹に、期待に目が潤んでいる。弥助は、嗜虐の悦びに震え、藍華の媚態を笑って聞き流すだけだ。

 梁に引っ掛けた縄を下に引き、縛りつけた藍華の身体と両足を引っ張り上げていった。

「いよいよだな。弥助の縄で、勝ち気で、女優のプライドの塊が、どんなふうになっているか楽しみでならんな」

 松田は、ゴクッと唾を飲み込み、目を充血させて食い入るように見つめている。

 縛られた手首や乳房、足に体重がかかり、縛りがきつくなっていく。ミシミシと梁から吊された縄が、藍華の身体で軋む。縄が、無慈悲に襲いかかり、柔肌にさらに食い込んだ。

「あ゛ぁ゛~~~っ」

 痛みに陶酔し、仰け反ると、半開きの唇から涎がツゥーーと垂れ落ちた。

 膝で縛られた足が、宙に浮きながら、左右に開いていく。やがて、M字に開いた中央にある花弁から、淫らな蜜が溢れ、太腿に垂れて雫になっているのが目に映った。

「くくくっ、すごい濡れようじゃないか。初めてのときはあんなに嫌がって暴れたのに、今じゃただの縄狂いの女か」

 松田の酷い言葉に、藍華は自分が堕ちたことを自覚した。だが、それさえも無性に藍華を昂ぶらせ、身体を熱くさせた。

 弥助の腰の付近で横になったように吊られると,淡く青白い月明かりが、華藍の均整の取れた裸体を抱き締めるように照らした。息を飲むほどの美しさに、しばし我を忘れた。

 丸みを帯びた柔らかで、肉感的な身体が、月の光で陰影を生み、モノクロ写真のような芸術的な官能美がそこにはあった。

 お香の煙が月明かりで陽炎のように揺れ、藍華の艶やかさに一層男達の獣欲を昂ぶらせた。下半身を、凶暴に怒らせ、天を衝かんばかりに勃起している。

「たまらんな~」

「たまりませんね。早く味わいたくて我慢できないですよ」

 男達の淫らな視線を浴びた藍華は羞恥に悶えた。それとともに、舌舐めずりし、欲望を隠そうともしない野獣たちの視線が、藍華の身体の奥底にある淫靡な感情を刺激し、止められない疼きとして藍華を淫らにさせた。

(早く抱いて欲しい。身体がめちゃくちゃになるくらい激しく苛めて欲しい)

 自分が、これほど淫蕩に溺れることになるとは想像もしなかった。自分のプライドと思っていたものが無残に砕かれると、皮肉にも自分を雁字搦めに縛っていた誇りから解放された気分になった。すべてを忘れ、快楽に溺れることの気持ち良さといったらなかった。

 それを知らなければ、何事もなく平凡な人生を過ごせただろう。だが、知ってしまった今、この快楽なしでは、無味乾燥な人生としか思えなくなっていた。
 
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