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第八話王国の新たなる名物

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最近、俺には悩みがあった。

「お兄さま、どうかなさいましたか?お食事が進んでいらっしゃらないご様子ですが・・・。お口に合わないようでしたら作り直させましょうか?」

「いや、料理はどれも美味しんだ。それに僕たちのために一生懸命作ってくれたんだから」

俺はそう言いながらフィレ肉にナイフを入れる。

そう、どれも美味しい。さすがは王族の食事だ。

だがさすがに毎日フレンチのような料理のフルコースは飽きる。

以前も感じたことだが・・・。

(あ~っ!米が食べたい!!死ぬ前にせめて牛カルビ弁当だけでも食べておきたかった。あと生ビール!)

この世界に転生してから俺は主食にパンしか食べていない。

小麦があるんだから米だってあるはずだ。

最近は忙しくて米について調べるのを忘れていた。

俺はとりあえずメイドのアリスに訊ねてみた。

「オコメ・・・ですか?すみません、わたくしでは存じかねます」

(まあ、そう簡単には見つからないよな)

そう思っていた矢先だった。

「はい、存じておりますわ」

リディアが答えた。

「どこに行けばその米が食べられるかな?」

「えっ!?」

リディアはひどく表情をしかめながら訊ねた。

「召し上がられるのですか!?レアードさまが!?」

「そうだけど、何かおかしいかな?」

「おかしいです。だって、『お米』というのは家畜の餌ですから・・・」

「なんだって!?家畜のエサ!?」

「はい、小麦のようにパンにもなりませんし、使いみちがありませんから」

なるほど。たしかにそのままでは米粉にもならないな。

それから俺は父様にお願いしてみることにした。

「なに?新たな農作の実験だと?」

「はい、小麦の収穫が終わり次第その畑を使いたいのです」

ちょうど今は初夏。すぐに田植えすれば間に合うだろう。

「ふむ。まあ、レアードからの数少ない願いだ。わかった。好きにするがよい」

「ありがとうございます、父様」

そして俺はすぐに玄米を取り寄せ発芽させることに成功した。

「これが、オコメ?の苗ですか」

メアリーが不思議そうに眺める。

俺は王命により畑を貸してくれた農家へと足を運んだ。

「レアードさま、この度はわが畑を選んでくださりありがとうございます。わたくし達もできる限り協力させてください」

「ありがとう。ではこれから稲作についての概要を説明する」

それから俺は魔法で畑に水を張り田んぼを作った。

(魔法って便利だな)

「お兄さま、畑をこんなに水浸しにして大丈夫なのでしょうか」

「ああ、お米は水田じゃないと美味しく育たないんだ」

それから用意しておいた苗を農家の人たちに植えてもらった。

田植え経験のある俺が一緒にやろうと思ったのだが、それはメアリーに強く止められてしまった。

それから数週間経ち、俺は並行してあるものの研究に勤しんでいた。

「やった!!ようやくできた!」

俺が叫ぶとすぐにメアリーとリディアが入ってきた。

「お兄さま?なにができたのですか?」

「レアードさま?」

最近はリディアがよくメアリーに会いにやってきている。

どうやら二人とも恋愛小説とやらにハマッてるらしい。

「麹菌だよっ!これがあれば米麹が作れる!」

「なんですかお兄さま?その、『コメコージ』というのは」

「何と言われると説明が難しいんだけど、遠い異国の調味料『味噌』と『醤油』の原料かな」

「ミソ?ショーユ?わたくしも初めて耳にする言葉です」

さすがのリディアも知らないようだ。

とにかく、これで原材料が揃った。

あとは米の収穫を待つばかりだ。

そして時は流れ、水田は黄金色の稲で埋め尽くされていた。

農家の人に収穫方法を教え、数日後。

「みなさん、本当にお疲れ様でした!」

「いえいえ、レアードさま。我が家にもこんなにくださり感謝しております」

「いや、みなさんの協力がなければここまでできませんでした。特に精米が大変だったでしょう」

そう、苦労の大半は脱穀と精米なのだ。

現代みたいな精米機はないため手作業となる。

「さあ、お待たせ!さっそく試食会といこうじゃないか」

農家のおかみさんがやってきた。

米の定番、アレが乗ったお盆を持って。

「レアードさまに言われた通りに作ったけど、こんな簡単で良かったのかい?」

「ああ!もちろん!!」

それを見て俺は感激しながら叫んでいた。

「まあ・・・白くてツヤツヤしてますね」

リディアがつぶやく。

「お兄さま、どのように召しあがればよいでしょう?」

「そりゃあ、オニギリはこうやって食べるんだよ、あむっ」

(ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!)

「うんま~っ!!!!」

オニギリを両手で頬張った俺はおそらく今までで一番大きな声で叫んでいた。

それを見て、メアリーとリディアも同じように手づかみでオニギリを口にした。

「まあっ」

「美味しい・・・」

そして手伝ってくれた農家の人たちもオニギリを口にする。

「これはなんと美味ですな。塩気がありながら噛むと甘みが広がるなんて」

「たしかに。これが家畜のエサになってたなんてもったいないね」

その後、米俵を持ち帰るとさっそく両親に食べてもらった。

「これが・・・レアードが作ったという『白米』・・・。美味い!」

「そうですわね。淡白ながら味わい深いですね。あなた?これを王国全土で作れないかしら」

「うむ、そうだな。『二毛作』?と言ったか。時期によって麦と同じ場所で作れるのは良いな。さっそく麦農家全体に通達しよう」

こうして、王国の新たなる名物として『米』が登場したのだった。

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