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9.焔(ほのお)に包まれて

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 ズッ……プ……ッ❤︎

 「んくゥゥ……❤︎おッ❤︎ほォ……❤︎」

 背中に流した長い黒髪を揺らしながら、愛理がゆっくりとスクワットの要領で腰を落としてゆく。

 仰向けに横たわる恭子の身体を跨いで大きく開いた両脚、そのの部分で、愛理と恭子は繋がった。

 「ひッ❤︎ふッ❤︎太いィ……ッ❤︎」

 竿の根から先まで、芯が通ったようにパキパキと張り詰めた恭子のペニス。

 コンドームを装着してもなおカリ高な亀頭は、愛理の柔らかな膣壁をゴリゴリと掻き立てながら、奥へ奥へと突き進む。

 「愛理ッ……膣内なかがヒクヒクしてるッ❤︎……挿入いれただけでイッちゃった?❤︎」

 「へぁッ!?❤︎ちがッ❤︎そんな……ぁ❤︎ぉ❤︎」

 必死に首を振り否定する愛理だが、恭子は愛理の肉体の機微をペニスで察知していた。

 「違うなら……下から突いてもいい?❤︎」

 「ぇッ❤︎あッ!?❤︎待っ……ダメッ!❤︎」

 ズンッ!!❤︎❤︎

 「~~~~~ッ!?!?❤︎❤︎❤︎」

 容赦ない恭子の突き上げに、愛理の小さな身体が跳ね上がる。

 膣奥への強烈な一撃で体幹が一気に崩れると、愛理は前のめりに膝をついた。

 (ヤバッ……❤︎意識……トぶッ❤︎)

 「ぁ…………はァッ!?あッ❤︎あゥッ❤︎」

 バランスを崩した愛理の身体を、恭子が下から抱き止める。

 「愛理、大丈夫?今一瞬、剥いてたけど?❤︎」

 「フーッ❤︎フーッ❤︎あッ❤︎はぁッ……❤︎」

 「ふふッ、聞いちゃいないね……」

 胸の中で悶える愛理の頭を、優しく撫でてやる恭子。

 「ほら、しゃんとしてよ?El Doradoエルドラードッ❤︎」

 ズプゥッ!!❤︎



 「くォォッ!?!?❤︎❤︎」

 愛理の身体をきつく抱き締めたまま、再び深く突く恭子。

 抱かれた上半身は力の逃げ場がなく、硬いペニスの先端が〝オンナ〟の一番深くを一直線に突き上げた。
 
 「子宮ゥゥッ❤︎❤︎❤︎」

 そう一言だけ叫んだ愛理は、恭子の腕の中でガクガクと痙攣しながら、それでも健気けなげに「なんとか一矢報いてやろう」という気概だけで、目の前に見えた恭子の乳首に、舌先を這わせようとする。

 レロ……❤︎

 「んッ❤︎……ぅ……ジュル……❤︎」

 「あはッ❤︎責めたいの?可愛い……❤︎」

 だが恭子は、そんな愛理の顔を掴んで引き剥がすと、仰向けの身体を反転させて愛理を逆に組み敷いてしまう。

 グイッ

 「あンッ!?」

 「愛理…………❤︎」

 愛理の身体を包み込むように覆い被さる恭子が、耳元で囁いた。

 次の瞬間──。

 ドチュッ!❤︎ドチュッ!❤︎ドチュッ!❤︎ドチュッ!❤︎ドチュッ!❤︎ドチュッ!❤︎

 抉り込むように腰を大きく突き動かして、愛理の膣内を無慈悲に蹂躙する恭子。

 「ほォォォッ!?❤︎へぁッ❤︎あ"ァ"ッ❤︎あがッ……んあ"ァ"ァ"ッ!!!❤︎やッ❤︎やめッ❤︎ごめッ❤︎なさッ❤︎ひィィィィィィッ❤︎❤︎❤︎」

 幾度かの絶頂の余韻さえ醒めやらないうちに、またもや犯される〝オンナの急所〟の震えるような快楽に、愛理の意識は混沌に堕ちた。



 「ぅ……ぁ……?」

 ふと、愛理は目を覚ます。

 未だ判然としない意識と、下腹部に残るに、先程までの燃えるようなセックスを思い出す。

 「ぁ……恭子……?」

 ぼんやりとした頭で部屋を見渡す愛理。

 だが、〝いつぞやの時〟とは異なり、シャワー室からの音もない。

 (何よ、なの……?)

 ベッドの片隅にはヌメりを纏ったコンドームが捨て置かれ、中には白濁液がたっぷりと注がれていた。

 「….…チッ」

 愛理は行為中の自らの不覚を悔やむと同時に、気を失ったままで身勝手に犯された事に恥辱を覚え、思わず舌を打った。
 
 ガチャッ

 「!……恭子」

 廊下のドアが開く音に愛理が顔を向けると、スマホを片手に恭子がベッドルームに入ってきた。

 恭子は何やら神妙な顔つきで頭を掻きながらベッドにスマホを投げ置くと、愛理の横に腰を下ろした。

 「なんだ、電話してたの?急に居なくなったからビックリした……」

 愛理は先程までの悔しさなど忘れ、恭子の腕に寄り添って安堵の表情を浮かべながら話し掛ける。

 「あ、あぁ……ごめん……」

 だが、恭子の様子は些か妙だ。

 何か言うタイミングを見計らうように、愛理と目線を合わせては逸らす、という態度を繰り返す。

 「愛理、シャワー浴びたら……出よう。事務所に戻らなきゃいけなくなった」

 「え?」

 いきなりの恭子の言葉に愛理は戸惑うも、〝異様な空気〟を察して恭子に問いかける。

 「何かあったのね?教えて……」

 「……」

 愛理の問いかけに、恭子は黙ったままでいる。

 事態が深刻な事は明白だが、愛理はそれでも問い続けずにはいられなかった。

 「恭子、すべて話すって約束したでしょ?サークルのこと、今起きている問題、全部私にも関わりある事だから……お願い、包み隠さずすべてを話して」

 気丈な愛理の瞳。

 覚悟を決めた彼女の表情に、恭子も頷く。

 「愛理、落ち着いて聞いて……綺羅が、史織の事務所にいるみたいなの」

 「えっ……!?」



 張り詰めた空気が生ぬるくよどむ部屋。

 黄ばんだ壁紙のヤニ臭いビルの一室で、綺羅と史織はソファに座り、テーブルを隔てて対峙する。

 「ふふ……」

 史織は滑らかなボブヘアーの毛先を時折指で弄びながら、目の前に座る綺羅の顔を見つめたまま笑みを浮かべる。

 「……ッ」

 もうどれくらいこうしているだろう。
 
 無言という苦痛に耐えかね、綺羅が口を開く。

 「……一体何が目的なの?もし私を愛理を呼ぶためのおとりにしたいなら、それは無理な話だけど?」

 綺羅は声を振るわせながら、それでも憎悪と軽蔑の意志を込めて史織を強く睨みつけた。

 「あはッ、それはどうかなー?」

 史織はそんな綺羅の「なけなしの勇気」を嘲笑うように、真っ赤な紅を引いた大きな口をぱっくりと開いて不気味に笑う。

 「あなたと愛理ちゃんの〝El Dorado〟での闘い、私も見せてもらったのよ。とてもステキだったわ……❤︎」

 「……そりゃどうも」

 「元恋人同士なんですって?お互いのカラダを知り尽くした二人が、大観衆の前であんな本能剥き出しのセックスを魅せるだなんて最高よね……❤︎」

 「何が言いたいのよ」

 「あんな快楽と興奮を知ってしまったら、まだまだ愛理ちゃんに未練が残っちゃうんじゃない?あんなスケベな女、誰だって……」

 「いい加減にしてよッ!!」

 明け透けな史織の言葉に綺羅が苛立ちを覚えて立ち上がると、それに合わせて史織も立ち上がり、腕を組んで真正面から綺羅を見据える。

 「〝愛理ちゃんを離したくない〟……それがあなたのなんでしょう?綺羅……いえ、美雪ちゃん?」

 「なっ……」



 史織の言葉に、綺羅は二の句が出ない。

 鋭い目線はまるで鋭利なやいばのように冷たく、鼻先にピタリと突き立てられたような緊張感に薄ら寒ささえ覚える程だ。

 拳をギュッと固めて、綺羅は言葉を絞り出す。

 「そっ、そんな事ないッ!私はもう決めたの!私はEl Doradoを最後に愛理とはもう……」

 「美雪、正直になりなさい?」

 ビクッ

 「…………ッ」

 気付いた時には、史織は綺羅の隣にいた。

 ゆっくりと肩に手をまわし、綺羅の震える身体を抱きしめて耳元で呟く。

 「遠慮なんていらないわ……欲しいものは力尽くでも手に入れるのよ?はそれが許されるの……❤︎」

 綺羅の頬を、首筋を、史織の指が撫で付ける。

 幼子を愛でるような、温かく優しい手触り。

 だが、その裏にある女の凍てつくような妖しい〝素顔〟は、決して拒むことを許さなかった。

 ジュルッ……❤︎

 「んふ……ッ」

 不意に唇を重ねられ、分厚い舌が捩じ込まれても、もはや綺羅は抗えない。

 この女のは、綺羅が心の奥底に沈めたはずの〝愛欲〟を、再び拾い上げて目の前に突きつけたのだ。

 「んむッ❤︎ジュルッ❤︎チュパ……んはぁッ❤︎」

 ジュルッ❤︎ジュルルッ❤︎

 捨てたはずの愛、諦めたはずの女……。

 断たれた未練を再び繋ぎ止められた時、人はもはや我慢などできない。

 「飢えているんでしょ?あなたも立派な〝淫乱〟だから……❤︎」



 夜──。

 都心の闇に一際ひときわ輝く繁華街の賑わいを、女2人が歩いてゆく。

 紅花は煙草の煙を跡に引きながら、ヒールを高らかに鳴らして大股に人並みを突き進むと、そのやや後ろを夏樹が早足で追う。

 2人はとある雑居ビルに入ると、エレベーターに乗り込みすぐさま4Fのボタンを押す。

 「……」

 両者とも無言のまま、されど行き先に迷いがない。

 2人の間に、目的は既に共有されていた。

 エレベーターのドアが開く。

 目が眩むようなどぎつい蛍光色のネオンと幾何学模様の壁紙。

 頭が割れるような爆音のトランスミュージックが真っ暗なフロアに鳴り響き、円形ソファの内側から素っ頓狂な笑い声が方々から聞こえてくる。

 フロアに足を踏み入れようとした時、スタッフらしき女が前を遮ったが、紅花の顔を一瞥いちべつすると、驚いたような表情で慌てて通路を開け渡した。

 (……この女)

 その様子を見ていた夏樹は、薄々感じていた憶測が恐らくは正しいものであると半ば確信した。

 (の……)

 紅花は首だけで振り返り、不敵に夏樹に微笑みかける。

 「ほら、行こ❤︎」

 「ん……」

 細い顎をクイっと振ると、再び前を向いて歩き出す。

 細長いシルエットを包んでひるがえるコートが、まるで死神のローブに見えた。



 「なにそれヤバくない!?」

 「あの娘マジで飢えてっから~!!」

 「ほんとアイツ何でもアリなんだね~❤︎」

 フロアのほぼ中央に位置するテーブル席では、若い女達の集団が品のない話題で盛り上がっている。

 かなり酒も廻っているらしく、けたたましいBGMに負けないくらいの大声でゲラゲラと狂ったように笑い合っていた。

 コツ……コツ……

 「……?」

 背後を覆う影にいち早く気付いたのは、ソファにほとんど寝そべるようにもたれかかっていた1人の女。

 「あ?」

 睨むように後ろを振り返ったその顔は美麗ながらも幼さを残し、豪放な夜遊びとは無縁なはずの未成熟な「少女」である事は一目して認められた。

 「未成年なのにこんな夜中まで遊び回って……悪いコだね❤︎」

 「……は?アンタ誰?」

 見慣れない長身の女に背後から声を掛けられ、少女はさらに苛立つような目線を向ける。

 「うざ、醒めるわ~」

 「ウチらお説教とかムリなんで他あたってもらっていーですかぁ?」

 少女の仲間らも口々に悪態を放ち、見知らぬ訪問者に不満をぶつける。

 だが、背後の女はただ薄く笑いを浮かべて1人の少女だけを見下ろしていた。

 「アタシは単なる史織のおつかい。迎えに来てあげたよ、日菜ひなちゃん❤︎」



 「!!?」

 日菜、と呼ばれた少女の顔が一変する。

 日菜はソファにもたれて振り向いたまま硬直し、酔いで火照った顔は蝋人形のようにみるみる白くなってゆく。

 「あれ?相方は今日一緒じゃないんだ?ホラいたよね?柚月ゆづきって娘さぁ」

 睨んだ日菜の大きな瞳は不安げに中空を泳ぎ、唇は微かにふるえていた。

 「え……日菜、知り合い?」

 異変に気付いた仲間の1人が、小声で日菜に囁いた時──。

 ガバッ!!

 日菜はソファから勢いよく立ち上がり、テーブルの上のグラスが倒れるのも構わずに、フロアの出口へ向けて一目散に走り出した。

 だが、通路にはもう1人の女が立ちはだかる。

 「……どこ行く気?」

 「うッ!?」

 日菜はその女に見覚えがあった。

 「お前ッ、ARISAさ……むぐッ!?」

 だが、その言葉は大きな手によって遮られる。

 「ん"ッ!?んぐッ!!んんッ!!」

 ジタバタと全身でもがき、何とか逃れようと必死に抵抗する日菜。

 だが、背後から伸ばされた蜘蛛のように長い腕は日菜の身体の自由を完全に奪い、非力な少女から〝逃亡〟の二文字を無情に奪い去った。

 「ゴメンね~❤︎日菜ちゃん、ちょっとだけ借りてくネ❤︎」

 吊り上がった細目をにんまりと歪ませ、女は仲間の少女たちに微笑みながら日菜を抱えて連れてゆく。

 「……!!」

 有無を言わさぬ女の迫力に、少女たちはただ黙ってその背中を見届けるしかなかった。



 「んんッ、んふッ……!」

 「はいはい、すぐ終わるから大人しくしな❤︎」

 バタンッ!

 紅花は暴れる日菜を抱えたまま、本来ならば立入禁止の、外へと繋がる非常階段へと引きずり混んでゆく。

 「んぐッ、んうぅ」

 抵抗する事に疲れたのか、あるいは絶望的な窮地に心が折れたのか、日菜は小さく首を横に振りながら、時折唸るような声をあげるだけだ。

 「夏樹、見張ってな」

 紅花はそう言い残すと、非常階段へと続くドアが閉ざされる。

 「はぁ……クソッ」

 夏樹は一つ溜め息をつくと、胸に込み上げる苛立ちを言葉に吐く。

 (褒められたような子じゃないとはいえ……ガキ相手にここまでやるのか)

 ドアに背をもたれながら、夏樹はそれでも我が身可愛さに見て見ぬ振りをする自らの弱さを恨んだ。

10

 ギシッ!

 「うぐッ!?ッ……!!」

 前髪を掴まれた日菜は腕尽くで顔を向けられ、潤んだ瞳で紅花を睨んだ。

 「日菜ちゃん……だっけ?別にアンタに個人的な恨みはないんだけどさァ、ウチのがアンタを〝許さない〟って言うから、形だけでも反省したフリしてくんない?」

 紅花はヘラヘラと薄笑いを浮かべながら、日菜の顔を真正面に見据えて睨み返す。

 その赤褐色の濁りを纏った瞳の奥には、会話や道理など一切通用しない〝悪魔〟のような女の本性が見て取れる。

 だが、日菜は口元で笑い返すと、紅花の顔を目掛けて唾を吐いた。

 「プッ!!」

 「……!」

 「アンタ、史織の?あのババア、ずっと根に持ってんだ!?アハハ!!マヂウケるんだけど!!」

 腹は括ったとばかりに紅花に向かって啖呵を切る日菜。

 「あの身の程知らずのババアが欲掻いたのが全部悪いんだから自業自得だし!!ウチらARISA様の命令でやっただけだから恨まれる筋合いないんだよ!!それを自分の手は汚さずにワケわかんない女こっちに寄越して……頭おかしいんじゃないの!?」

 目には涙を浮かべながら、手足は小刻みに震えながら、目の前の恐怖を必死に振り払うように大声で捲し立てる。

 「……ふんふん、なるほどね」

 紅花は唾で汚れた顔を指で拭いながら、日菜の言葉に空返事で応じる。

 次の瞬間──。

 パァンッ!!

 「ひぎッ!?」

 乾いた音が非常階段の踊り場に響いた。

 紅花の放った右手のビンタが、日菜の冷たい頬に鋭く突き刺さった。

 日菜は顔を抑えてうずくまるように前屈みになるが、紅花はそれを許さず再び日菜の前髪を掴んで顔を上に向けさせた。

 「アンタの言う事も一理あるわ。じゃあ今からは……史織は一切関係ナシ」

 「ふん、それで」

 パァンッ!!

 「ぶッ……!?」

 有無を言わせぬ二発目のビンタ。

 あまりに強烈な打撃に、日菜は視点をフラつかせながら膝から崩れ落ちる。

 「今からは個人的な……オトナ怒らせると怖いよ?お嬢ちゃん❤︎」

11

 紅花は常にニコニコと笑みをたたえながら、しかし無遠慮に日菜の胸ぐらを掴んで力任せに立たせた。

 「こ……のォ……!!」

 フラフラとおぼつかぬ足取りで立ち上がった日菜は、歯を食いしばりながら紅花を睨みつけて抱きつくように腰に腕を絡ませる。

 「よっ……と」

 「あがッ……!?」

 ガシャァン!!

 だが、紅花は片手で乱暴に日菜の顔面を鷲掴みにすると、力尽くで引き離して非常階段の手すりに背中ごと打ち付けた。

 「オラ、逃げてみな♪」

 「あッ……ぎィ……ッ」

 上体を仰け反らされ、ひたすらにもがく日菜。

 視界を遮られながらも、手探りに掴み掛かろうと両腕を振り回す。

 しかし紅花の長い伸腕リーチは、日菜が指一本触れる事さえ許さなかった。

 「あはッ、超よっわ❤︎そのまま首ブチ折ってやろうか?」

 「ん"ん"ッ!ふん"ん"ッ!!」

 ギリギリと万力のように力を込めてゆく紅花の大きな手のひらが、日菜の端正な小顔を握り潰して醜く歪める。

 まるで猛禽類に捕らえられた野兎の如く、食い込んだ鋭い爪があとは非力な命をさらうのみ……。

 だが、追い詰められた野性の本能は死に物狂いに活路を見出す。

 「ふん"ッ!!」

 ドゴッ!

 「うぐッ!?」

 やけっぱちに振り上げた日菜の右脚のつま先が、紅花の腹部に突き刺さった。

12

 「ぉ……ッ!!」

 日菜が履くのは、ずっしりと重量のあるラバーソールのショートブーツ。

 息が止まるほどの衝撃に、紅花の長身がガクン、とに折れ曲がる。

 「ハァッ、ハァッ……うらぁッ!!」

 それを好機と見るや、日菜は前のめりになる紅花の正面から首に腕を回して、脇の下に抱え込む。

 ギリッ……

 「ぐゥッ!」

 「このォ……死ねッ!デカ女ッ!!」

 ガバッ!

 日菜はそのまま紅花に飛び付き、両脚を胴体に回してガッチリとホールドすると上半身を反り返り、全身のバネを使って渾身の力で紅花を絞め上げた。

 「おおォォるらァァァッ!!」

 ミリッ、ミリッ……

 「~~~~~~ッッ!!」

 完全に極まったフロント・チョークに、脱出する方法は存在しない。

 暴力に慣れているのは紅花だけではない。

 一瞬の隙を見逃さずに最も効果的な技を繰り出す日菜もまた、世間のいわゆる10代とは異なる非日常を生きる、した危険な少女だった。

13

 「ハァッ、ハァッ……落ち……ろ……ッ!!」

 単純な腕力では紅花に敵わない事は、日菜自身が身をもって理解していた。

 それ故に、この不意急襲的に掴んだ好機を逃せば、恐らく「二度目」が無い事も分かっていた。

 (られる前にるッ!!今ここでッ!!)

 ギリッ、ギリッ……

 極めてから5秒、6秒、7秒……。

 屈強な男が掛ければ瞬時に技だが、非力な少女の細腕ではやはり多少の時間がかかる。

 それでも日菜はひたすらに、ただただ全力を込めて紅花の首を絞め上げた。

 「落ちろッ!落ちろッ!死ねッ!!」

 「くッ……ぉ……」

 抗う紅花の力が、徐々に抜けてゆくのが分かる。

 身体を支える長い脚が、今にも崩れそうに揺らめいでいた。

 (勝ったッ!!)

 勝負の決着を確信した日菜。

 だが、ある異変に気付く。

 「……えっ」

 視界が、先程より随分と高い。

 見えていたはずの紅花の背中が、今は目線の真下にある。

 「は?」

 いつの間にか、日菜の身体は宙高く担ぎ上げられていた。

 (ヤバい)

 ブゥンッ

 瞬間、身体から重力が抜け落ちる。

 「いッ……」

 バガァンッ!!

 「おごッ!!?」

 深夜のビル街に響いた、けたたましい衝突音。

 担がれた日菜は、踊り場の床面にしたたかに叩きつけられた。

14

 「ぁ……ぁ……ぁ……」

 「ハァ~……ハァ~…こンのクソガキ……」

 荒ぶる女は首をさすりながらコキコキと左右に振って鳴らす。

 170cmを超える紅花が繰り出した、技と呼ぶにはあまりにも力任せな暴力。

 体重を浴びせた投げは、日菜の華奢な肉体をたった一撃で抵抗不能に陥れた。

 (……ムリ……立て……な……)

 耐久力の範疇を遥かに超えたダメージに、日菜は大の字に倒れてピクピクと痙攣しながら泡を吹く。

 幸い意識はあるものの、強烈に叩き潰された肺への衝撃で呼吸がままならず、溢れ出る唾液も飲み込めない。

 ジンジンと全身に響く激痛に、指を動かす事すら敵わなかった。

 「さぁ……て、どうしよっかな❤︎」

 朦朧もうろうとする日菜の上に影が落ちる。

 仰向けに倒れた日菜を跨いで見下ろす紅花は、赤い舌を出してほくそ笑んだ。

 長らく頸動脈を絞め付けられたにも関わらず、顔色はすでに元の血色に戻っており、呼吸も一切乱れていない。

 (バケモノ……)

 自らの全力を持ってしてもまるで歯が立たない、圧倒的なパワーとスタミナ。

 そして何より、暴力に対して一切の躊躇ためらいがない残虐性……。

 敵に回してはいけない女。

 この時、日菜は〝死〟さえも覚悟した。

15

 「初めっから大人しくしときゃ、痛い目見ないで済んだのにネ……」

 紅花は虚な目で睨む日菜の頬を2、3回軽く叩くと、日菜のシャツの襟に手を掛けた。

 「ぁ……や…め……」

 「ホントは素っ裸にひん剥いて土下座でもさせようと思ったんだけど……こうなっちゃ仕方ないよね❤︎」

 腕ずくで日菜の衣服を脱がし始める紅花。

 縫い目から音を立てて引き裂け、弾け飛んだボタンは非常階段を転がり落ちてゆく。

 チェックのフロントプリーツスカートも、まるで赤子がを取り替えられるように、瞬く間に脱がされて投げ捨てられる。

 ブラも、ショーツも、紙でも破り棄てるが如く簡単に引き剥がされた。

 「ふふん、お似合いだねぇ……ほら、もっと脚広げなきゃ❤︎」

 カシャッ……カシャッ……

 (クソッ……クソッ……)

 薄れゆく意識の中で、微かに聴こえるスマホのシャッター音だけが、彼女に「完全敗北」を認識させた。
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