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7.檻に眠る愛奴(ペット)

一触即発の女たち

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 ARISAから発せられた言葉に、恭子とケイは目を丸くする。

 「しっ……知らない?でも史織さんは……」

 「そんな!?史織さんが愛理に執心するARISAさんの事をこころよく思ってないのは既に分かってるじゃないですか!」

 矢継ぎ早にARISAに問い掛ける2人だが、ARISAは表情を変えずに答える。

 「ええ、確かにそれはそう。でも、と今回の件は全くの別問題だったってコトよ」

 ARISAの言葉に、史織は視線を落としたまま黙っている。

 「ケイ、あなたには以前言ったわね?〝このサークルは一枚岩じゃない〟……って」

 「それは……ARISAと史織さん、サークルの核である2人の意見が……愛理を巡って食い違っているって意味かと……」

 「それも正しいわ。目指す場所は同じでも、私と史織はそので意見が食い違う。それはケイにも説明したわね?」

 ケイは無言のまま小さく頷き、ARISAは目を細めて微笑む。

 「あなたたちがここに着くまでの間、史織と話していたの。今回の事件と、そののコト……」

 ARISAはソファの背もたれに身を委ねながら3人の顔を眺め回すと、諦めたような顔で深く溜め息をついた。

 「そしたらビックリ!このサークル、一枚岩どころか……ともすれば……!」



 口を手で覆いながら目元で笑うARISA。半ば困惑したような、呆れたような、されど〝怒り〟の温度も読み取れるその冷めた笑いに、その場の空気はキンッと張り詰める。

 「史織」

 ARISAはニヤニヤと笑いながら、顎で史織の方を指す。
 促された史織は苦虫を噛み潰したような表情で、ポツポツと語り始めた。

 「……ARISAちゃんに愛理ちゃんの事をアレコレされるのが面白くなかったのは確かよ。愛理ちゃんを半ば無理矢理にEl Doradoエルドラードに参戦させたのも、ARISAちゃんのになる前に、愛理ちゃんを〝私の色〟に染めたかったから……」

 そこまで話した時、恭子が割って入る。

 「だからARISAさんや私たちの手の届かない場所に愛理を拉致した……そういう事じゃないんですか?」

 「違うッ!」

 恭子の問い詰めに、史織は首を振って否定する。

 「私は別に愛理ちゃんを憎んでいるワケじゃないわ!追い詰めて、おとしめて、愛理ちゃんの持つ一流のマゾ性をいち早く引き出したかった!それだけよ!」

 「……ふっ」

 史織の身勝手な言い分を、隣で聞いていたARISAが鼻で笑う。

 だが史織はそんなARISAを横目で一瞥するだけで、さらに続けて語り続ける。

 「これは私とARISAちゃんの問題だと思ってたわ……でも、そうじゃなかった」

 「?」

 僅かな、しかし永遠のような沈黙──。

 恭子とケイの視線が史織に向けられたまま、壁掛け時計の秒針の音だけが妙に耳障りに響いていた。

 「他にもいたってコトよ……知らない間に……愛理ちゃんを狙うヤツらが……」



 ミニバンは早朝の街道を縫うように走る。

 運転するのは、昨夜に散々愛理の口内を茶髪のギャル女だ。

 「夏樹さん、例の場所でいい?それかインター出口の……」

 昨夜までの妖しげなヴェネチアン・マスクをビッグフレームのサングラスに変え、何食わぬ顔でハンドルを握っている。

 「どこでも構わないから。すぐ終わらせる」

 愛理と夏樹は後部座席に座り、互いに言葉を交えないまま窓の景色を見つめ続ける。

 愛理は未だ昨夜のハルミとの試合に挑んだ時の裸同然のコスチュームのままだ。

 毛布を肩から掛けているとはいえ、朝方の時間帯にこの変態的なコスチュームでいる事に今更ながら羞恥を覚える。

 試合で、その後の凄惨な輪姦で、あらゆる体液に汚れきったコスチューム……。

 (夏樹が……なんで……?)

 愛理にはこの状況で現れた夏樹の目的が分からない。

 この間の復讐リベンジ?それとも、また史織の差し金?

 どちらにしろ、夏樹が先程口にした「おしまい」という不穏な言葉に、愛理は恐怖をつのらせていた。

 「夏樹……あなた、史織に言われてこんな事を……?」

 かすれた声で愛理が夏樹に問いかけると、夏樹は目線を前に向けながら無表情に呟く。

 「あのは関係ないでしょ。アタシとアンタの問題だし」

 「私と….…夏樹の……?」

 もだが、愛理には夏樹に恨みを買うような記憶は一切ない。

 それゆえに夏樹の急襲は史織の仕掛けた計画だと思ったし、今回の誘拐にも当然史織が絡んでいるものだと思っていた。

 「あなた、あの時……史織に言われて私を襲ったんじゃないの?」

 「しつこいんだよ。史織は関係ないって言ってんの。ホント頭悪いよね、アンタって……」

 夏樹が吐き捨てるようにボヤいた言葉に、愛理は暫し呆然とする。

 あの夜に刻まれた恐怖と、史織や夏樹に対する恨み。

 あの時の屈辱と、打ちひしがれた尊厳の回復のために〝El Doradoエルドラード参戦〟という険しい道を選んだのだ。

 「着きましたよ」

 車が到着したのは、地方都市の郊外にある、モーテルタイプの寂れたラブホテルだった。

 愛理の鼓動が痛いほどに早まる。

 (まただ、また犯される……)

 昨夜から延々と輪姦まわされ続けたのち、着いた先がラブホテル。

 終わらない。いつまでも終わらない。

 夏樹に首輪を引っ張られながら車を降りる。

 「3時間後ですね」

 「終わったら連絡入れるから」

 ギャル女を車内に残して、愛理と夏樹は入室してゆく。

 「3時間もてばいいけどね……❤︎」

 「……ッ!」

 蔑む視線で舌舐めずりをする夏樹。

 愛理の表情は絶望に歪んだ。



 寒々しい、殺風景な部屋。

 タバコのヤニとエアコンのカビ臭さが、安い場末のラブホの共通点なのだろうか?

 「ふぅ……ほら、愛理」

 夏樹は革のジャンパーをハンガーに掛けると、次に愛理の首輪の鍵を外してやった。

 「……え?」

 愛理は戸惑い、思わず小首を傾げた。

 これから行われるはずの陰惨な折檻と、理不尽な強姦レイプの光景……。

 だが、その象徴である〝愛奴の首輪〟が外された。

 「夏樹?」

 「とっととシャワー浴びてきなよ。アンタ自分で気付かない?車ん中でもさ、隣座っててめちゃめちゃクサいから」

 「あ……」

 好き放題に穢された己の肉体を、改めて見る愛理。

 白い肌は生臭く粘っこい体液にまみれ、自慢の長い黒髪もつやを失いベタベタだ。

 「……うん」

 汗と体液で肌に張り付いたロンググローブとストッキングを剥ぎ取るように脱ぎ捨て、愛理は言われたとおりにシャワー室へ向かった──。

 シャワー室の前で、ふと洗面所の鏡に写る自らの姿と対峙する。

 「……ひどい顔」

 髪は乱れ、メイクは剥がれ落ち、寝不足と泣き明かしたせいで目元は赤く腫れぼったい。

 持って生まれた美貌には確かな自信があった愛理だが、こんなにも醜く無様な自分の顔を見たのは初めてだった。

 カチャ……

 シャワー室に入ると、タイルの冷たい感触が愛理の足裏を刺す。

 寒く、孤独な空間。

 それでも蛇口を捻ると、温かな湯が愛理の全身を濡らしながら流れ落ちていった。

 「あっ……あぁ……気持ちい……」

 身体を包む温もりに、思わず溜め息が漏れる。「シャワーを浴びる」という当たり前の行為が、こんなにも幸せな事だったなんて……。

 肉体の血行が促進されると、愛理の思考も徐々に正常へと戻り始める。

 (夏樹の目的は、私との決着をつけること?それとも他に何か……)

 愛理を拉致した3人組の女が、夏樹の指示で動いたことはまず間違いないだろう。

 つまり、夏樹には明確な「愛理への敵意」がある。

 彼女の真の狙いが判明するまでは、まるで油断できない。

 (まずは落ち着いて……絶対に策はある……!)

 たわわな胸元を泡立てたボディソープで洗いながら、愛理は事態の転換を模索していた。



 シャワーを浴び終えた愛理は、濡れた髪をバスタオルで拭きながらベッドへと向かう。

 長髪をポニーテールに結いた全裸の夏樹が、ベッド横の小さなシングルソファに腰掛けていた。
 
 浅黒い肌と華奢な身体、淡く浮かび上がる乳輪の色と、その横の小さなホクロ──。

 夏樹の裸が、あの夜の記憶を嫌でも思い起こさせる。

 「……座りなよ」

 夏樹は対面のシングルソファに目をやりながら、愛理に着席を促す。

 「……ええ」

 愛理は髪を拭きながらソファに座る。

 互いの顔を見合ったまま、暫しの沈黙。

 先に切り出したのは夏樹だった。

 「どうだった?とのプレイは。随分と可愛がってもらったんだ」

 「!?……ッ」

 (この女……!)

 夏樹の言葉に、愛理の怒りが沸々と湧き上がる。

 突然、身柄を拉致されての輪姦。暴力と恐怖で支配され、人権すら蹂躙される屈辱……。

 「……プレイですって?誘拐に、暴行に、集団レイプ……単なる犯罪じゃない!」

 「そ、アンタが邪魔だから痛めつけてやろうと思って。目障りなんだよね。コレに懲りたら、サークルから出てってくれる?」

 「なッ……!?」



 「サークルから愛理を追い出す」──。

 夏樹がこの事件を企てた動機は、あまりにも単純明快で自己中心的だった。

 だが、夏樹に恨まれるような接点さえ無い愛理は戸惑いを隠せない。

 「わ、私があなたに何をしたっていうの?だってそうよ、初対面なのにいきなり押し掛けてきて、はるかと2人で私を襲ったんじゃない!」

 怒りと恐怖に声を震わせながら、愛理は夏樹に問い掛ける。

 夏樹は面倒臭げに小指で耳を掻きながら、愛理の言葉を聞いていた。

 「もし、私が何か知らない間にあなたに迷惑をかけていたなら謝るから……それだって、ちゃんと話してくれないと分からないわ」

 愛理は対話によって夏樹の原因不明の憤りをなだめようと、一歩引いた態度で語りかける。

 だが、その愛理の姿勢が逆に夏樹を大いに苛立たせていた。

 「愛理……」

 「え?」

 夏樹はソファから立ち上がると、対面に座る愛理に歩み寄る。

 そして、有無を言わさずに愛理の首元を両手で掴んで絞め上げた。

 ギュウウ……!

 「あぐッ……!?ぐぇッ……」

 脅しではない本気の首絞めに、愛理の顔がみるみる赤くなる。

 「アンタ……本気でバカなの?アンタがサークルに来てから、ARISAも史織もおかしくなったんだよ。どいつもコイツも愛理愛理って……調子乗んなよマゾ豚のくせに!」

 夏樹の細い指が、愛理の首にメリメリと食い込む。
 一重で切れ長の夏樹の瞳がギラギラと見開かれ、圧倒的な憎悪を孕んだ〝狂気の匂い〟をまとっていた。

 「ぐゥッ……そんな……知ら……!」

 愛理は何とか夏樹の腕を引き剥がそうと必死にもがくが、上から体重を掛けられた夏樹の腕力を振り払う事ができない。
 目は充血し、視界が霞み、力なく開いた口からは飲み下す事が叶わなかった唾液がダラダラと滴り落ちる。

 明らかに危険な状態であるが、それでも夏樹は腕の力を弛めない。

 「でもね、アタシが一番許せないのは……使なんだよ」

 「ぅ….…??」



 (恭……子……?)

 夏樹の口から出た、意外な名前。

 (私が恭子に……?な、何言って……)

 愛理は夏樹の言葉の意味が理解できない。

 確かに恭子は、愛理がこのサークルに加入するきっかけの人物でもあり、サークル内で最も信頼できるメンバーだと思っている。

 愛理にとって「特別な存在」なのは間違いない。

 だが、それと夏樹が愛理を恨む話がどう繋がるというのだろう。

 私と恭子の関係は、夏樹には関係がない。勝手に恨まれるなんて、お門違いもいいところだ。

 (こ……の……いい加減に……!)

 いよいよ意識が遠のく間際、愛理は咄嗟とっさに右脚を上げ、覆い被さる夏樹の腹部を目掛けて思い切り蹴り込んだ。

 「….…ふんッ!!」

 ドスッ!!

 「ぐゥッ!?」

 蹴り足のつま先が、深々と夏樹の腹に突き刺さる。

 予期していなかった愛理の思わぬ反撃に、夏樹の細い腰つきがに折れた。
 同時に愛理への首の絞めつけは解かれ、夏樹は後方にあるベッドの縁まで突き飛ばされる。

 「あぐッ!?ごはッ!……くッ……」

 冷たいフローリングにペタリと尻餅をついた夏樹は、想定外のダメージに目を白黒させて顔を歪ませる。

 「ぐッ!……愛理ッ……てめェ……!」

 それでも夏樹は怒りの眼差しを愛理から逸らさず、なおも立ち向かおうとよろめきながら起き上がろうとする。

 だが、愛理はひと足早くソファから立ち上がると、夏樹を見下ろすように眼前に立ち塞がった。

 「ゴホッ!ゲホッ!……さっきから聞いてれば……全部あなたの逆恨みじゃない……!そのおかげで私がこんな目に遭わされてるなんて……許さないッ!」

 グイッ

 「やめッ……ッ!!」

 愛理は夏樹の長髪を掴んで無理矢理に引っ張り上げると、そのままねじるようにして夏樹をベッドに倒す。

 「クソッ!絶対許さないッ!絶対にッ!」

 パァンッ!パァンッ!

 「いぎッ……あぐッ!うぁッ!」

 ベッドに捩じ伏せた夏樹の上に馬乗りになった愛理は、左右の平手で何度も夏樹の顔を叩く。

 腕を大きく振りかぶり、力任せに叩きつけるたびに、夏樹は痛みから逃れるべくジタバタと身をもがく。

 だが、愛理は攻撃の手を休めない。

 バシィッ!パシィンッ!!

 「ふーッ、ふーッ……クソッ!クソぉッ!!」

 呼吸を乱し、目に涙を浮かべながらありったけの怒りを込めて夏樹を叩き続ける愛理。

 からの屈辱、怒り、そして恐怖……。

 決して言葉だけでは言い表せない、愛理の中の〝なにか〟が壊れ始めたあの日。

 (この女のせいでッ!!私はッ!!)

 愛理が、完全にた。



 「ふーッ……ふーッ……」

 肩を大きく揺らしながら息を切らせる愛理。

 馬乗りになり、怒りに任せて夏樹を叩き続けた手のひらは赤く腫れてジンジンと痺れている。

 「私は……アンタのせいで……!」

 込み上げる悔しさが止めどない涙となって頬をつたう。

 「……ハッ、だからなんだってのよ」

 だが、そんな愛理を夏樹は鼻で笑う。
 
 頭をかばっていた両手を左右に放り出すと、無防備に天井を仰いで愛理の顔を下から睨んだ。

 「お前みたいな売女ばいたのババアが浮かれてんじゃねーよ。たまたま恭子に声掛けられたのを勘違いしちゃった?スケべ心丸出しのチンポ狂いが、ARISAにまで媚び売って可愛い子ぶってんだ?キモいんだよッ!」

 夏樹は愛理を罵倒しながら身をよじって馬乗りの体勢から抜け出そうと試みるが、夏樹の力では愛理の身体を押し除けらない。

 「ああもうッ!さっさとどけよッ!重てーんだよデブッ!!」

 夏樹はさらに苛立ち、不利な体勢から愛理を二度、三度と殴りつけるが、愛理にダメージを与えることはできない。

 愛理はそんな夏樹を見下ろしながら、先ほど疑問に思ったことを問いかけた。

 「夏樹……アンタさっき、私が恭子に色目使ってるって言ったわよね。アレ、どういう意味……」

 「そのまんまの意味だけど?オメーみたいな売女が恭子に馴れ馴れしくすんなって言ってんの。身の程わきまえたら?」

 愛理の質問に、半ば食い気味に反論する夏樹。

 その言葉に、今度は愛理が噛みつく。

 「別に私は媚びてなんかない!恭子のおかげでこの世界を知れたから、私なりに精一杯恩返しをしたいだけ!そもそも、私と恭子の関係をアンタなんかにとやかく言われる筋合いはないわッ!」

 「その良い子ちゃんみたいな考えがキモいって言ってんの!オメーのその恭子の事を分かってるみたいな態度がムカつくんだよッ!クソ女ッ!」

 「なによッ!!」

 ガシッ!

 「ぐぅッ!?」

 互いに一歩も譲らない罵り合いの最中、愛理が再び夏樹の髪を手荒に掴んで掛かる。

 そして、愛理の放った何気ない言葉が、夏樹のプライドにとして突き刺さった。

 「あぁ、分かった。夏樹、アンタ恭子のことがなんでしょ?だから恭子と親しくしてる私に嫉妬してるんだ?フフッ、惨めな女!バッカみたい!」

 「……ッ!?」

 夏樹も、完全にた。



 シティホテルの一室では4人の女が顔を突き合わせたまま、重くよどんだ空気がその場を支配していた。

 ARISAと史織、サークルのツートップが口を揃えて認めざるを得なかった「組織崩壊」の予兆……。

 だがその渦中にいるのはサークル加入して間もない、たった1人の〝ウリ専レズビアンの女〟なのだ。

 「とりあえず……今回のこと、史織には管理者としてそれ相応のをとってもらわないとね」

 脚組みをしたARISAは気怠けだるそうに前髪を指で触りながら、史織への〝処罰〟の可能性を伝える。

 「……ええ、分かってる」

 告げられた史織は一瞬眉をしかめるも、目を瞑るとこの現状を受け入れるように小さく頷いて応えた。

 「ケイと恭子は帰っていいわよ。また進展があったら連絡するわ。朝からわざわざありがとね」

 史織への態度とは対照的に、無言のままで座る2人に対しARISAは笑顔を向ける。

 「はい……でも」

 その時、恭子が小さな声で話し始める。目線は伏せたまま、床を一点に見つめている。

10

 「このサークルはARISAさんのカリスマ性と、史織さんの敏腕で運営できていたのが事実だと思います。この2人だからここまで大きなサークルになった」

 「恭子……」

 ケイは恭子の膝の上で固く握られた拳が、微かに震えるのを見た。

 「でも、そのサークルが今、愛理という1人の女の影響で内部崩壊の危機に陥っているなら、それには私自身の責任もあります」

 恭子は顔を下げたままだが、発せられる声は徐々に大きくなってゆく。
 その声には先程までの怒りや悲壮感は無く、内に秘めた情熱のようなものを感じさせる〝覚悟〟があった。

 「愛理はもともと私がスカウトしたから、私がサークルへの加入を勧めたから……愛理が〝ただの女〟じゃない事は知っての通りだけど……でもそのせいでサークルがおかしくなるなら……私が……私が責任を持って」

 「恭子」

 呼ばれた声に恭子はハッと顔を上げた。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 声の先には、ARISAの顔があった。

 「恭子、愛理が帰ってきたら……今後はあなたの管轄で愛理の面倒を見てもらうわ。私は以後なにも口を挟まないし、もちろん史織にだって挟ませない」

 ARISAが下した決断。

 それは、独善的な絶対女王が組織の未来と、〝1人の女〟の成長を見据えた決断だった。

 「今現在をもって、恭子の役職は〝スカウト兼愛理専属教育担当〟よ。あなたが、愛理を……それが責任よ❤︎」

 「……ッ……は……はいッ!」

 恭子の覚悟に応えた、ARISAの決断──。

 恭子は勢いよくソファから立ち上がり、ARISAに一礼すると部屋のドアへと向かう。

 (待ってて……愛理……!)

 その足取りには、もう迷いは無かった。
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