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3.堕ちてゆくオンナたち

マゾヒズム

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 「私、そういう場所って初めて」

 「そっか……まぁ、基本的にはお酒飲みながら、キャストがやるSMショーを観て楽しむ…って感じかな。お客が参加するイベントもあるけど、任意だからあまり緊張しなくても大丈夫だよ。主催には愛理の事も話してあるし、楽しみにしてる!って言ってたから」

 金曜の夜10時。

 花金の繁華街は眩しい程の街の灯りと道行く人々の喧騒で、白昼にも増してこの街を煌びやかに彩る。
 眠らぬ街、とは云うが、ともすればこの街は、夜にこそ本来の姿を持ってのかもしれない。

 飲食店が居並ぶメイン通りを足早に抜け、街灯もまばらな裏道に入ると、辺りの空気は一変する。
 ホテルやバーの看板を照らす、虚ろにぼやけるネオンの灯りたちは、人々を欲望の世界へといざなう道しるべのようでもあった。

 そして、待ち合わせの風を装い路上に立ち、女たち。
 恭子や愛理にとっても、こちらの世界こそが〝主戦場〟である。

 二人が歩いて向かったその先に、目当ての店はある。
 雑居ビルの5階、目印といえばビルのエントランスに標された「Sodomソドム 5F」という店名札のみ。

 エレベーターの中で恭子はスマホをチェックしながら、横にいる愛理に呟く。

 「まだ主催は来てないらしいけど、店の雰囲気とか感じてもらえれば……」

 少しばかり予定が狂った、という風な恭子の表情。愛理は口元に笑みを作るも、緊張からか目は中空を泳ぐ。

 エレベーターの扉が開くと、すぐ目の前に店舗のドアが待ち構える。扉の向こうでは、複数の女性の笑い声。

 「ここだけど……まぁなんか……入りにくいよね?」

 「うん……知らないと……ちょっとね」

 「あはは……」

 互いの顔を見合って苦笑する恭子と愛理だが、恭子はドアノブに手を掛けると店内を窺う事なくそのままドアを開け放つ。

 店内は暗く、明かりといえばバーカウンターの青い照明と、店内の奥端に設けられた、小さなステージを照らすスポットライトのような白い照明くらいのものであり、隣り合うキャストや客の顔すらも、はっきりと視認はできない。

 踏み込む恭子の後ろを、離れまいとすがりつく愛理。二人の存在に気付いたのは、カウンターに座っていた一人の女だった。

 「あっ、恭子さんいらっしゃい!早かったね!」

 恭子に歩み寄り、ハグで迎える女。

 「奈美なみちゃん久しぶり~、ちょっとARISAさんと話があってね」

 恭子から〝奈美〟と呼ばれたその女の出で立ちはギラギラと艶かしいボンデージファッション……俗に言う〝女王様スタイル〟であった。

 黒いエナメルのコルセットをフロントジッパーで留め、極小のレザーTバックは履く、というよりも局部にという風で、引き締まった小尻を主張する。
 四肢はスラリと長く、光沢のあるロンググローブとニーハイブーツの装備は、スタイルの良さをより際立たせる。

 淡い茶髪のウェーブロングヘアをサイドで纏めたポニーテール。やや面長な顔立ちで、スクウェアフレームの黒縁メガネの奥に、切れ長の細い目が輝く。

 物腰が柔らかで、快活な口調。頬に笑窪えくぼをたたえ、困ったように眉尻が下がる、くしゃっとした笑顔が特徴的だった。
 
 奈美は恭子と談笑していたが、ふと恭子の横に寄り添う愛理と目が合う。

 「あっ、この娘が……?」

 「そ、話してた愛理。ARISAさんに紹介しようと思って」

 「はじめまして、愛理です……」

 奈美という女、恭子ほどでは無いにしろ身長が高い。おそらく160cm代半ばはあるし、ブーツのヒールのために、その上背は恭子に匹敵するほどだ。
 そんな高身長の二人に見下げられ、小さな愛理は文字通り肩身が狭い。

 「えっ、すっごい美人さん!どうもはじめまして~、Sodomソドムの店長やってる奈美ですっ!店長……というか女主人ミストレスって呼ぶんですけどね」

 店内が暗いためか、腰を屈めて愛理の顔を間近で見据える。
 嗅ぎ慣れないキツめの香水の薫りが、ぷぅん、と愛理の鼻腔をくすぐった。

 「イベントは0時からだから、まだフツーのスナックみたいだけどね……」

 店内を見渡すと、フロアのキャストは奈美を含めて5人、客は団体の5名と、個人の1名で6名、恭子と愛理を含めて8名。

 レズビアンサークルが経営するこの店は、もちろん客も女性限定である。

 奈美は〝普通のスナックみたい〟と言ったが、キャストは皆一様に刺激的なボンデージファッションに身を包み、団体客の席では一人の女性客が女王様2人掛かりによる即興の緊縛実演の餌食となっている。

 一番奥の席に座る個人客はトップレスでショーツ一枚の情けない姿。
 女王様とマンツーマンで寵愛を受けるが、煙草の紫煙を燻らせソファでくつろぐ女王様の足下にひざまずき、ブーツの爪先を丁寧に舐めている。

 「なんか……すごい……」

 官能映画やアダルトビデオでしか見た事のない、「Master and Slave主人と奴隷」の世界が今、目の前で繰り広げられている。

 「そうですね、アブノーマルな欲望を満たすための空間提供が、この仕事の存在意義なので」

 非現実的な狂宴に思わず息を呑む愛理の後ろから、奈美が声を掛ける。

 「愛理さん、SMプレイの経験はあります?」

 「えっ!?いや……ない……です……」

 突然の予期せぬ質問に、思わず声が上擦る。その様子に、隣の恭子が笑う。

 「愛理はいつだってSMプレイだよ。セックスに主従関係を求めてる」

 恭子に指摘されてハッとなる。

 自らの美貌とテクニックに過剰なまでの自信を抱いていた愛理は、パートナーから性奉仕される事やパートナーを性的快楽に陥れるセックスばかりを求めては、そこに他者との優位性を感じていた。

 「鞭や蝋燭を使うのだけがSMじゃないんですよ。道具なんて無くても、もっと言えば、肉体的な性感なんて無くてもも、精神の快楽のみで絶頂することもできちゃうんです」

 (精神のみで……絶頂……?)

 奈美の言葉を、内心いぶかしげに反芻する愛理。そんなの、まるで宗教やオカルトのようだ。

 「そうだっ、愛理さん……ちょっと体験、してみませんか?❤︎」

 眼鏡の奥が、冷たく笑った。



 「体験……ですか?SMの?」

 「はい、でも道具は使わずに、私とお話ししながらです」

 〝SM〟と言えば、縄で縛られ、猿轡を嵌められ、鞭で打たれ……という、誰もが思い描くようなイメージの印象しか無かった愛理は、奈美の提案にいささか戸惑う。

 奈美はソファに深く腰を下ろし、長い両脚を左右に開くと、股の間にできたスペースをポンポンと叩き、愛理に着席を促す。

 「愛理、座って……」

 終始穏やかで明瞭だった奈美の口調が、途端に低く艶やかな声色に変化する。
 目の据わった鋭い眼光は、戸惑う愛理の視線と交わる。
 愛理は、訳も無く鼓動が早くなるのを感じ取った。滲む手汗、唇の渇き……。
 無言のまま、着ていたジャケットを脱ぐ愛理。促されるままに奈美の両脚の間に座ると、奈美はすぐさまその長くしなやかな手足を愛理の胴体に絡めるように抱きつく。

 「ゆっくりと深呼吸して……肩の力を抜きなさい」

 愛理の小さな身体を包み込むように背後から抱きつく奈美。愛理の耳元で、小さく呟く。
 奈美の指示通りに全身を脱力させる愛理。深呼吸を繰り返すたび、五感が研ぎ澄まされてゆく。
 抱擁される柔らかな感触、奈美の髪や肌の匂い、耳元に掛かる吐息の温もり。
 
 そして、愛理自身の力強い鼓動──。

 団体客で賑わう店内に、半径50センチの静寂の世界。どこまでも深く、どこまでも暗い、愛理と奈美だけの世界……。

 「愛理、怖い?でも、もう逃げられないよ?これからどんどん堕ちてゆく……誰も助けに来ない、二度と戻れない、快楽の淵に叩き落としてあげる……❤︎」

 吐息交じりに奈美が呟く。強く抱かれた胸の中で、唇が耳に触れる。愛理は無意識に目を閉じて、神経を耳元に集中していた。

 「はぁ……はぁ……あっ……あァ……❤︎」

 ただ抱かれているのが、こんなにも気持ち良いなんて。
 奈美の発する音、匂い、体温そのすべてが、愛理の肌や骨格をすり抜けて沁み渡る。まるで〝媚薬の泉〟に頭まで浸かっているような、甘く痺れる快楽……。

 「気持ちいいでしょ?まだまだ、もっと快楽に身を預けなさい。感じるままに、欲望にすべて委ねてしまいなさい……」

 愛理の唇に奈美の指が触れる。くすぐるように輪郭をなぞると、愛理の口内に侵入してゆく。
 舌で感じる、エナメルグローブの滑らかな感触と、繊維の味。
 愛理は無意識に、侵入した奈美の指を咥えて舌を絡め、唇を窄めて吸い付く。

 「何も言わずにおしゃぶりしちゃうんだ。愛理……スケベな女……欲しがって堪らない、破廉恥なマゾ女……❤︎」

 「チュパ……うっ……!ふぅン……❤︎」

 無意識の愛撫を耳元でなじられ、愛理は羞恥に悶える。だが、そんな奈美の罵倒の言葉さえ、快楽の波動となって脳にじんわりと沁みる。

 愛理は次第に、肉体が火照ってゆくのを感じていた。顔は紅潮し、脇や背中には発汗の染みができている。
 奈美の指を懸命にねぶる、クチュクチュという唾液の粘着音が耳の中でやたらに響く。酷く卑猥な音色に、愛理の劣情がみるみる昂まってゆく。

 「マゾ愛理……気持ち良くなりたいなら欲しがりなさい?与えられるのを待つんじゃないの。貪欲に、我がままに、快楽を求めてもがき続けなさい……❤︎」

 「んッ❤︎……ふぁ……うぅン……❤︎」

 愛理は太腿を擦り合わせ、下半身をしきりに捩る。
 堕ちゆく先の、その奥底から昇ってくる〝何か〟を必死に押さえ付けようと抗う。

 「あァッ❤︎んッ❤︎おォ❤︎」

 いよいよ声が抑えられない。内側から湧き上がる快感に肌が粟立つ。もはや快楽しか見えない。最高の瞬間が、目の前に見えた。

 その時──。

 「チュピッ❤︎……ハァッ❤︎ハァッ❤︎……えっ……?」

 愛理の口内から奈美の指が引き抜かれた。勢いで、唾液の泡が一つ、唇から滴り落ちる。
 ぽんっ、と後ろから肩を叩かれ、愛理は思わず首をすくめた。店内の騒音、照明の眩しさが、やけに煩わしく感じる。

 「はいっ!こんな感じです❤︎どうでした愛理さん?」

 背後から顔を覗くように、愛理に問い掛ける。

 そこに居たのは先程と同じ、困り顔が特徴的な、微笑みをたたえた奈美だった。



 夢を見ていた──と言われれば信じてしまいそうな、不思議な感覚だった。深く仄暗い海の底へ沈んでゆく、得も言われぬ心地良さの中で、誰かに手を差し伸べられ、ボートの上へと引き上げられた。

 「ハァ…ハァ…ハァ……あぁ……」

 まるで微睡まどろみから覚めたばかりのように、頭がよく回らない。ただ、〝肉体の疼き〟だけははっきりと残っていた。恥ずかしいくらいに、身体がもどかしい。

 「お……終わり……ですか……?」

 堪らない疼きに、愛理は思わず不満げに口走る。自らの身体を強く抱き、震えを誤魔化す。

 「ん?もっと続けてほしかったですか?愛理さん、ありますね……!」

 クスクスと笑う奈美を見て、自らの言葉の意味する所に気付き赤面する愛理。隣に座っていた恭子が、感心した口調で漏らす。
 
 「愛理、すごくヤラしかったよ。見てるこっちがイキそうになるくらい…❤︎」

 冗談めかして股間を抑えるポーズを取る恭子。それを見て、奈美も笑う。

 「ホント、愛理さん美しかったです。官能的な表情……ずっと見ていたいくらい」

 奈美はうっとりとした目付きで愛理に抱きつき、頬を寄せる。

 「愛理さん、怖かったですか?気持ちよかった?」

 慈しみの笑顔で問い掛ける奈美に、愛理は視線を合わせず言葉を選びながら答える。

 「味わったことない感覚で……初めは怖かった……でも、宙に浮いたような、水の中にいるような、すごく不思議な感覚。私自身が外の世界と切り離されて……奈美さんの言葉を頼りに、暗闇を彷徨っていて……そこに辿り着きたくて必死にもがいて……」

 愛理の言葉を聞き、奈美は細い目を見開いて大きく頷く。

 「愛理さん、すごいです!それ、ですよっ!」

 「あと一歩……」

 愛理には、奈美の言葉の意味が分かった。まさに今先程、愛理の肉体はまで追い詰められていた。

 「はじめてなのに、その感覚を味わえる人はなかなかいません。本当に……愛理さんには素質がありますよ」

 素質がある、という言葉に、愛理は怪訝な表情を浮かべる。その言葉の意味する所はつまり、〝マゾの性癖を持っている〟という事である。
 それを、愛理自身は認めたくなかった。

 「わ、私は……マゾなんかじゃ……!」

 愛理の訴えを遮るように、奈美が語りかける。

 「人間って、サドとマゾ両方の性質を持ち合わせていると思うんです。どちらかが100%は有り得ない。そしてその比重は、プレイのパートナーや、その時の心情に依ったりして明確な物ではない。私自身も、緊縛や拘束なんかは、するのもされるのも大好物ですからっ❤︎」

 あっけらかんと語る奈美に、しばし呆然とする愛理。恭子が言葉を続ける。

 「つまりね、マゾはその人のなんだよ。恋愛だって、相手によってアプローチが違うように、プレイも相手によって趣向を変えるのはおかしな事じゃないでしょ?より気持ち良くなるため、より愛されるためにマゾに堕ちても、それは屈辱では無いと思うよ」

 恭子とのハードセックスで見えた〝支配される悦び〟そして、奈美に見せられた〝堕ちてゆく快楽〟……。

 それはどちらも、恭子や奈美にようであり、しかしその実、愛理自身が激しく快楽だった。

 「そういう……ものなの……?」

 釈然としないといった風に小首を傾げる愛理と、そんな愛理を見て微笑み合う恭子と奈美。

 愛理は、テーブルの上のカクテルグラスを勢いよく傾けた。



 時計の針が深夜0時を指し示した時、予定していたSMショーのイベントの為に、フロア端のステージにスモークが焚かれた。

 「今から奈美が、あそこで緊縛ショーをやるから」

 「奈美さんって、普段の喋りと女王様やる時の雰囲気がガラっと変わるから、ドキッとしたわ」

 ソファに座りながら、恭子が愛理の肩に手をまわしながらステージを指差す。
 愛理は店内の雰囲気にすっかり慣れたようで、酒も手伝って話し声も無意識に大きくなっていた。

 荘厳なピアノ曲が流れる中、やがてステージ袖から、片手に荒縄を携えた奈美が登場する。
 凛とした面持ちで、ヒールを高らかに鳴らしてステージ上を練り歩く姿は、先程とは違う気高さを感じさせる。

 その後ろから、おぼつかない足取りで奈美を追い掛ける女が現れた。
 真っ赤な太い首輪を嵌められ、鎖のリードは先導する奈美女王様の手中にある。
 殆どつま先立ちのような白いエナメルブーツを履かされ、同じく脇の下まである白いエナメル素材のロンググローブを身に付けている。

 だが、衣装といえばそれだけで、他は局部すら隠さない全くの全裸であった。

 「奈美さんステキ❤︎」

 「はるかちゃんエローい❤︎」

 フロア客が口々に声援を送り、ショーを盛り上げる。
 〝はるか〟と呼ばれたのが、つまり首輪のM嬢の事であろう。背は低く、色白でぽちゃぽちゃとした体型、黒髪のおかっぱヘア。
 乳房はサイズこそ無いが、形の良いお椀型で、薄紅色の大きめの乳輪がぷっくりと膨れて白い肌に一層際立って主張していた。

 丸い輪郭で、垂れ目に小さな鼻、ぽってりとした唇の童顔は、これから身に起こる〝緊縛刑〟を恐れてか、節目がちに憂いの表情で、助けを求めるように客席を見渡す。

 「はるかちゃんは現役の大学生なんだよ。M嬢志願でこの店に入ったの」

 「ふぅん、なら彼女はマゾでいる方が気持ち良い……と感じたワケね」

 先程のSM論に未だ納得のいかない様子の愛理は、言葉に含みを持たせながら恭子に返事する。

 ステージ上で〝奈美女王様〟と〝愛奴はるか〟が向かい合い、奈美が首輪の鎖を手繰り寄せると、愛しさを込めたキスを交わす。

 「可愛く飾ってあげるわ、私の奴隷ちゃん❤︎」

 「んっ……❤︎」

 2人の身長差は20cm近く。並び立つと、まさしく〝女王と奴隷〟……表題の通りの一枚絵である。

 奈美は手にした荒縄を解いて伸ばすと、慣れた手付きではるかの首に引っ掛け、そのまま丁寧に乳房、腕、胴体に荒縄を食い込ませて、固く緊張させる。
 肉体が軋む痛みに、はるかの表情が歪む。

 前に垂らした荒縄を、股下を通して背後に持っていく。
 奈美が縛る握り手に力を込めた瞬間、はるかの花肉の割れ目、安産型の大きな尻の溝に深々と荒縄がめり込み、無言を貫いていたはるかが思わず淫らな嬌声を上げる。

 「はゥッ❤︎……くゥゥ……あン……❤︎」

 それを聞き、客席の女達は色めき立つ。囃し立てるように拍手や指笛を鳴らす。
 それに投げキスで応じる〝女王様〟の余裕と、瞳を潤ませて好奇の衆目に耐え忍ぶ〝奴隷〟のコントラストが美しい。

 羞恥に身をよじるほど、身に纏った荒縄が白肌に食い込んでゆく。
 両手を後ろ手に固く縛られて、程なくはるかは上半身の自由を奪われた。

 一本の荒縄に囚われた肉感的に艶めく若い女体を、スポットライトが容赦なく照らし出す。
 縄酔いに恍惚とする奴隷の表情、締め付けられて不細工に歪む乳房、もがくほどに割れ目にめり込み、衆目に晒される〝オンナの弱点〟……。

 剥き出しの性器オンナを晒し、逃げる事も隠す事もできず、今にも泣き崩れてしまいそうにか弱く震えるはるか。
 だが、そんな心の抵抗とは裏腹に、肌は熱く火照り、白い肌は濡れたように汗が光る。乳房先端のは甘い刺激を求めて強く張り詰め、赤く開いた肉欲の花弁はぽたりぽたりと涎を床に垂らし続ける。

 はるかの肉体は正直に、被虐をたのしんでいた。

 「綺麗……」

 ショーが始まってから、声も出さずに見入っていた愛理がふと呟く。その声に、隣に座る恭子は横目でちらりと愛理の顔を見るが、愛理は自らが呟いた事すら気付かぬほどに、ショーの顛末に集中していた。

 その時、恭子の視界に一人の女が現れた。

 「隣、座ってもいいかな?」

 全身黒いコーディネートの、フェミニンな雰囲気を醸す女。
 足組みしていた恭子は、反射的に姿勢を正した。

 「あ、ARISAさん!お先してます」

 「恭子、遅れちゃってゴメンね」

 恭子と女のやりとりを、キョトンとした顔で眺める愛理。

 「ARISA……さん?この人が主催の……」

 サークルの〝絶対女王〟と、〝セックスの天才〟が、今宵出会った。
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