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第1章 エルフの町〈アルフ〉

第8話:食の旅【前編】

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「お、主役の登場だな!」

名前も知らないエルフの男が叫ぶと同時に宴はさらに盛り上がる。

杯を俺に持たせる。中にはワインのようなものが入っていた。

前世でも酒とか飲んだことがない俺だ。絶対酔ってしまうのだろう。すぐ寝落ちしてくれることだけを願って一気飲みする。

『おおぉ!』

精霊たちが声をそろえる。ほとんどの奴はもう顔を真っ赤にしている。

そんな中俺は、一ミリも酔う事はなかった。

ただのぶどうジュースじゃないか・・・。

しかし、精霊たちはなんで酔っているのだろうか。疑問が浮かぶ。

「たのひんでるかぁ~!タクミ~」

顔を真っ赤にしたロビンが俺の元に来た。まさに飲み会で酔っぱらう元上司のようだ。懐かしい時が脳裏に過る。

「飲みすぎじゃないか?ほれ、水」

ロビンに水を渡す。とはいえロビンとほぼ同じ大きさの杯をロビンは持つことはできない。だから俺が飲ませてあげる。

「ほい!お待ちどうさま!猪のステーキだよ!」

肉汁たっぷりに溢れ出しそうなお肉が運ばれてきた。いい香りが鼻の奥までくすぐる。

早速、お肉を一切れ頬張った。

すると肉汁が口の中で広がり、香ばしいさが広がる。この香ばしさに少量の辛みがあるとさらにおいしいのが想像つく。

お肉を平らげると次に来たのは焼き魚だった。

「赤魚の素焼きだよ」

運ばれた魚はタイのような魚だった。いや間違いなくタイだろう。しかも50cmを軽く超えている大きさのもの。

赤魚と言われるほどの赤い魚の表面には焦げが付いている。スプーンを入れるとほろりと身が崩れる。

アツアツの赤魚を頬張る。

あ、タイだった・・・。

まさか本当にタイだったとは。今更ながら目の前の赤魚に輝きを感じてきた。

しかし‥‥‥塩気が欲しいものだ。

俺はどちらかと言えば味は濃い方が好きだ。そんな俺にただ焼いただけの魚は非常に空しい。

「すいません」

俺はお盆にぶどうジュースを載せた人を呼び留める。

「どうかしましたか?」

丁寧に対応してくれるエルフの女の子。大体、17歳くらいだろうか。それにしても、その服は目のやり場に困る。

「塩ってありますか?」

「塩ってなんですか?もしかして!彼方の食べ物ですか!それとも飲み物ですか!」

女の子が身を寄せて俺に聞く。

「えっと調味料ですけど」

「どんな調味料なんですか?」

更に身を寄せてくる女の子。俺は両手を軽く上げながら後ろに退く。

「こら、仕事をしなさい!」

女の子の頭をお盆で軽く叩く、女の子そっくりのエルフ。しかも迫力が女の子と同じくらい凄い。姉妹なのだろうか。顔つきがよく似ている。

「えへへ、つい」

女の子は叩かれた頭を開いている手で押さえて笑って誤魔化す。

「えっとどんな調味料ですか?」

女の子は改めて俺に尋ねてきた。

「えっと、白くてしょっぱいやつなんですけど」

塩をどう説明したら良いのか分からずあやふやな説明になってしまう。

「すまない。多分、塩というのはないな」

そうか‥‥‥塩が無いってどういう世界なんだ!

塩がない?近くに海があるのに?

何て世界だ!
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