142 / 171
16章 十六日目 テスト勉強
16-7 いつもとは違う場所でのカレーの香り
しおりを挟む「……」
「……」
静かな部屋の中に、カリカリと筆記具がノートの上を走る音だけが小さく響いている。
そしてときおり鉛筆を投げ出し、消しゴムを使う音。
教科書や参考書のページをめくる音も、ときどき小さく聞こえていた。
「あー、もう限界。そろそろ休憩にしようぜ」
最初に音を上げたのは部屋の主である近藤。
いつもいる場所だけあって、緊張感が保てなかったのかもしれない。
とはいえ、俺の方もそろそろ集中力が限界だった。
ときどき部屋の外から聞こえてくるビンゴの鳴き声が、少々気になり始めていたのもそのあらわれだろう。
「そうだな。俺もちょっと疲れてきたわ」
パタンとノートを閉じる。
そんな俺に同調したかのように、砂川や佐郷たちも次々に筆記具を手放しはじめた。
「ふえー、つかれたびー」
「たまにしか勉強しないから超つかれるぜ」
「甘いもの補給しないとねー」
言いながら砂川が、人数分のドーナツを取り出す。
「はい差し入れー」
「おお。さすがスナ」
「まずは新城選んでいいぞ。お前が一番働いてるからな」
「サンキュー」
男6人がドーナツに群がる。
ちょっとばかり気持ち悪い絵面だが、うまいものはうまいのだから仕方がない。
そうして俺たちは糖分を補給し、しばらく休憩したあと再びそれぞれの苦手教科と向かい合った。
* * *
コンコンコン。
窓の外がうっすら暗くなってきたころ、近藤の部屋のドアがノックされた。
「おにいちゃーん。友達来てるんだってー?」
扉の外から聞こえてくる女の子の声。
それは、近藤の家に来たときに出迎えてくれた千歳ちゃんの声ではなかった。
「入るよー」
ガチャッと扉が開かれる。
そうして部屋を覗き込んできたのは、近藤の上の妹さんである藍子ちゃんだった。
「あれ、思ったより人数いる」
ちらっとこちらを一瞥し、部屋にいる人数を数える藍子ちゃん。
「こんにちわー」
「おじゃましてます」
「やっほー、藍子ちゃーん」
「いよっ」
「……」
そんな藍子ちゃんに、俺たちは五者五様の声掛けをする。
ちなみにモジモジして黙っているのは佐郷だ。
それらの言葉にペコっと頭だけを下げる藍子ちゃん。
近藤に視線を向けると――
「カレーならできるけど、それでいい?」
と聞いた。
「悪いな」
兄妹ならではの言葉少ななやりとり。
それだけ言うと藍子ちゃんは、ドアを閉めて階段を降りていった。
「もしかして近藤、夕飯か?」
「ん? ああ。食べていくだろ。もうこんな時間だし」
「え、でも」
この中では一番の常識人である新城が断りそうになる。
それを制止するのは意外なことに佐郷だった。
「も、もう作り始めちゃってるし、遠慮するほうが悪いってばさ」
「そうか……それもそうだな」
とはいえ男5人、急に増えたりすれば食材の方も大変だったりするだろう。
俺は近藤に買い出しにでも行ったほうがいいかと尋ねた。
「気にするなって。うちはバスケ部の連中のたまり場になってるから、食材は買い置きがあるんだって」
「そうか」
「でも明日来るとき、食ったぶんだけ持ち込んでくれよな。うちそんな金持ちじゃねーし」
「おう。了解。みんなもそれでいいな」
「うん」
「わかった」
「ふふふふ。任せてよ」
そうして俺たちは再び勉強を再開した。
これを乗り切ればカレーが食べられるというご褒美からか、その集中力はそれまで以上のものだった。
ただし、それが続いたのも、階下からカレーのいい香りが漂ってくるまでではあったが。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ただの黒歴史
鹿又杏奈\( ᐛ )/
青春
青春ジャンルではありますが、書き手の青春的な意味で高校時代に書いたポエムとかお話とかそういったものを成仏させようかと思ってます。
授業中に書いてたヤツなので紙媒体から打ち込むのに時間がかかるとは思いますが、暇であったら覗いて見て下さい。
偶に現在のも混ぜときます笑
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
疾風バタフライ
霜月かずひこ
青春
中学での挫折から卓球を諦めた少年、越谷廉太郎。
高校では充実した毎日を送ろうと普通の進学校を選んだ。
はずだったのだが、
「越谷くん、卓球しよ?」
彼の前に現れたのは卓球の神様に愛された天才少女・朝倉寧々。
輝かしい経歴を持つ彼女はなぜか廉太郎のことを気にかけていて?
卓球にすべてをかける少年少女たちの熱い青春物語が始まる!
*
真夏の冬将軍という名義で活動していた時のものを微修正した作品となります。
以前はカクヨム等に投稿していました。(現在は削除済み)
現在は小説家になろうとアルファポリスで連載中です。
何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない
釧路太郎
青春
俺の親友の鬼仏院右近は顔も良くて身長も高く実家も金持ちでおまけに性格も良い。
それに比べて俺は身長も普通で金もあるわけではなく、性格も良いとは言えない。
勉強も運動も何でも出来る鬼仏院右近は大学生になっても今までと変わらずモテているし、高校時代に比べても言い寄ってくる女の数は増えているのだ。
その言い寄ってくる女の中に俺が小学生の時からずっと好きな桜唯菜ちゃんもいるのだけれど、俺に気を使ってなのか鬼仏院右近は桜唯菜ちゃんとだけは付き合う事が無かったのだ。
鬼仏院右近と親友と言うだけで優しくしてくれる人も多くいるのだけれど、ちょっと話すだけで俺と距離をあける人間が多いのは俺の性格が悪いからだと鬼仏院右近はハッキリというのだ。そんな事を言う鬼仏院右近も性格が悪いと思うのだけれど、こいつは俺以外には優しく親切な態度を崩さない。
そんな中でもなぜか俺と話をしてくれる女性が二人いるのだけれど、鵜崎唯は重度の拗らせ女子でさすがの俺も付き合いを考えてしまうほどなのだ。だが、そんな鵜崎唯はおそらく世界で数少ない俺に好意を向けてくれている女性なのだ。俺はその気持ちに応えるつもりはないのだけれど、鵜崎唯以上に俺の事を好きになってくれる人なんていないという事は薄々感じてはいる。
俺と話をしてくれるもう一人の女性は髑髏沼愛華という女だ。こいつはなぜか俺が近くにいれば暴言を吐いてくるような女でそこまで嫌われるような事をしてしまったのかと反省してしまう事もあったのだけれど、その理由は誰が聞いても教えてくれることが無かった。
完璧超人の親友と俺の事を好きな拗らせ女子と俺の事を憎んでいる女性が近くにいるお陰で俺は恋愛が出来ないのだ。
恋愛が出来ないのは俺の性格に問題があるのではなく、こいつらがいつも近くにいるからなのだ。そう思うしかない。
俺に原因があるなんて思ってしまうと、今までの人生をすべて否定する事になってしまいかねないのだ。
いつか俺が唯菜ちゃんと付き合えるようになることを夢見ているのだが、大学生活も残りわずかとなっているし、来年からはいよいよ就職活動も始まってしまう。俺に残された時間は本当に残りわずかしかないのだ。
この作品は「小説家になろう」「ノベルアッププラス」「カクヨム」「ノベルピア」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる