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11章 十一日目 マニアな日々

11-1 いつもと少しだけ違う朝の音

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いつものように朝が来た。
窓の外ではチチチと小鳥が……鳴いていない。
とはいえ、雨の音も聞こえない。
と思っていたら、アーオアーオと猫同士の威嚇し合う声が聞こえてきた。
どうやら、鳥たちはそれを警戒して黙っているようだった。

と、そんなことを考えていたタイミングで枕元のスマホがピピピとアラームを鳴らし始めた。

「はいはい、起きてる起きてる」

画面をタップしてスマホのアラームを止める。
レム睡眠とノンレム睡眠のサイクル的なタイミングがよかったのか、今日はやけに寝覚めがスッキリしている。
俺はためらうことなくベッドから降りると、カーテンを開けて朝の光を部屋の中に取り込んだ。

「あ」

それはちょうど、窓の向こうとまったく同じタイミングだった。
俺の部屋の向かいにある咲の部屋。
そこでも、カーテンが開けられ部屋に朝の光が取り込まれていた。
方角的な関係で俺の部屋ほどの明るさは望めなさそうだったが。

『起きた?』と咲が口パクで俺に聞いてきた。
朝の忙しい時間でわざわざ窓を開けてまでそれをするのは、少し面倒くさかったのだろう。
俺は無言でサムズアップし、ニヤリと口角を軽く上げて起きていることの意思表示とした。
うんうんと頷きながら、咲が部屋を出ていった。
一方の俺は、パジャマを脱いで着替えを始める。
頭には珍しく寝癖がついていたが、直すのはあとでいい。
せっかくいつもより少しだけ早く目覚めたのだから、今日はゆとりを持って行動しよう。

    *    *    *

着替えて階下に降り、顔を洗ってリビングに向かう。

「おはよう悦郎」
「おはようかーちゃん」

そこには、ほぼいつもの面々が揃っていた。
新聞を読んでいる(というより見出しに目を通している)かーちゃん。
テレビに見入っている美沙さん。
朝食とお弁当の準備をしてくれている咲。
大量の洗濯物と格闘している鈴木さん。

「悦郎、なんかすごい発見されたらしいよ?」
「え?」

テレビの画面を見たまま、美沙さんが俺に言ってきた。

「国内初の恐竜の全身骨格だってさ」
「ふーん」

特に興味のない俺はそのまま聞き流していた。
美沙さんもそれ以上はよくわかっていないのか、テレビの中で繰り返されている説明を黙って聞いていた。

「新聞もその手の話題?」

俺は納豆をかき混ぜながら、かーちゃんに聞いてみる。

「いや、特に載ってない。朝刊には間に合わなかったのか……」
「その手の学術的な話題は特ダネ扱いにならなかったのか、だね」
「なるほど」

咲が朝食と弁当の準備を終え、キッチンからリビングへと2つの弁当箱を運んできた。

「はい、今日のぶん」
「ありがとう」

俺はそれを受け取り、かばんの中に入れる。
そして再び納豆をかき混ぜはじめる。
咲が茶碗にご飯をよそい、俺の前に出してくれる。
俺は手を合わせ、軽く頭を下げた。

「いただきます」
「はい、召し上がれ」

美沙さんがテレビに見入ってくれているおかげか、今日の朝はなかなかに静かな感じだった。

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