FIERCE GOOD -戦国幻夢伝記-

IZUMIN

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第 弐拾弐 話:大罪と争い

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 真斗達は蔭洲升いんすますから朝廷と恐山に大海蛇を討伐のふみを送った後は頼姫よりひめから豪華な褒美を貰い十日かけて会津へと帰った。

 晴天の会津、兜を脱いだ状態で甲冑を着こなした真斗達は愛馬で城下町をゆっくりと進んでいると多くの人達から明るく帰還をまるでお祭りの様に出迎えた。

「おお!ここまでの出迎えだと少し困っちゃうなぁ」

 愛馬の轟鬼ごうきに乗り先頭を進む真斗は少し困った心境を口に出しながらも笑顔で出迎える人々に手を振る。

「はははっ!わか、それだけ会津の民達はわかの事を愛していると言う事です」

 真斗の隣を飛鷹ひように乗り笑顔で言う源三郎の姿に真斗はフッと笑う。

「ああ、そうだなぁ。それよりも早く竹取かぐやと愛菜の元に向かわないとな」
「そうですな。では少し急ぎますかわか?」
「ああ、そうするよじい。平助!左之助!忠司!少し急ぐぞ‼︎」

 真斗は笑顔で振り向き、後に続く平助、左之助、忠司に言うと三人は笑顔で頷く。

「分かりましたわか様」
「そうですね。少し急ぎましょう」
「なんならわか様だけでも行って下さい」

 忠司からの提案に源三郎は同感する様に頷く。

「確かに忠司の言う通りだぁ。ではわか、ここは我々に先に城に行って下さい」
「分かったじい。では後は頼む」

 真斗は笑顔でそう言うと手綱を軽くしならせ轟鬼ごうきの早歩きにし会津城へと向かった。

 草鞋を脱ぎ、城屋敷へと上がった真斗はウキウキとした気分で私室へと向かう。そして私室の襖の前まで来ると引き手に手を掛ける。

「おーーい!帰ったぞぉーーーっ!うおぉ⁉」

 襖を開けた真斗の目に飛び込んで来たのは綺麗な着物を着こなし正座をし、楽しく会話をする竹取かぐやと愛菜、そして竜宮城に居るはずの乙姫の姿がそこにあったのである。

「あ!兄上、お帰りなさいませ」
「ああ!真斗!お帰りなさい」

 愛菜と竹取かぐやが笑顔で帰って来た真斗を出迎える一方で真斗は驚きを隠せずにいた。

「お!おい‼竹取かぐや!そそそそそっ!その人は⁉」

 驚く真斗を不思議そうな表情で竹取かぐやは乙姫を紹介する。

「この方は私の幼馴染で名は乙姫と言う。乙姫、こちらがこの城の城主で名は・・・」
「真斗⁉」

 湯飲み茶わんに入った緑茶を一口、飲み襖の方を見た乙姫は驚きの余り湯飲み茶わんを落とす。そして急に立ち上がると乙姫はいきなり真斗に抱き付くのであった。

「真斗!ああ!また!またお会い出来るなんて!」

 乙姫が嬉しそうに真斗に抱き付く光景に竹取かぐやと愛菜はポカーンっとなるが、瞬時に我に返り竹取かぐやは真斗に問う。

「ねぇ真斗、乙姫と知り合いなの?」

 竹取かぐやからの問いに真斗は冷や汗を流し、慌てながら手振りをする。

「いや!これは!その!あの!」

 すると乙姫は答えが出ない真斗からゆっくりと離れ満面の笑みで真斗の代わりに答える。

「実はね竹取かぐや、真斗は私の愛する人で夫なの」
「「はっ‼」」

 それを聞いた竹取かぐやと愛菜は少し顔を歪ませ、一方の真斗は両手で顔を覆い膝から崩れる。

⬛︎

 それから真斗は蔭洲升いんすますで起こった事を竹取かぐやと愛菜に全て話し、深々と正座をする三人の前で土下座をしていた。

「じゃ沈んでいるところを乙姫に助けられたけど、出された料理と酒に仕込まれた青珊瑚サンゴの毒で意識が朦朧となった挙句に乙姫に自分の身を預けて既成事実セッ●スを作っちゃたと」

 真顔で言う竹取かぐやに対して真斗はゆっくりと頭を上げ、物凄く申し訳ない表情で頷く。

「ああ、本当に申し訳ない竹取かぐや。愛する者を裏切る行為!この鬼龍 真斗にとっても許しがたい大罪!ここは死をもって償うしかない‼」

 すると真斗は自ら着ていた胴を外し、下に着ていた小袖で姿となり両手で前を大きく開く。そして腰に提げている赤鬼あかきと小太刀を抜く。

「愛菜!すまないが、俺の愛刀!赤鬼あかきで介錯を頼む!」

 それを聞いた竹取かぐやと乙姫は驚き、一方の愛菜は真顔で頷き、立ち上がると着ている着物の上着だけを脱ぎ腰巻姿となり、真斗の左側に置かれた赤鬼あかきを手に取り抜くと両手で上段の構えをする。

「兄上、この鬼龍 愛菜!兄上の後を継ぎ会津とこの奥州を!政宗の伯父上をお守りします!」

 愛菜の強く固い決意の表情を見た真斗は笑顔で頷く。そして覚悟を決めた表情で抜いた小太刀を両手で持ち刃先を鍛え抜いた腹部へと向ける。

「父上!母上!じい!皆!そして伯父上!すみません‼ですが、この鬼龍 真斗!最後まで武士としての儀を通します‼」

 そして真斗は小太刀の刃先を勢いよく腹部に向けて押すのと同時に愛菜は赤鬼あかきを真斗の首に目掛けて振り下ろす。

「馬鹿な真似はやめなさい‼真斗‼愛菜‼」

 これまで見せた事ない竹取かぐやの怒りに満ちた表情で真斗の切腹と愛菜の介錯を止める。

「真斗!貴方の私に対する懺悔は裏を返せば私を心より愛している証。それを示したのであれば切腹の必要はなし!」

 そして竹取かぐやは立ち上がり真斗へと近付き、片膝を着くと先程の表情が噓の様に消え、笑顔になる。

「この戦乱の世で武士が人身の血を絶やさない為に側女そばめを何人を持つのは当たり前。そこは私も理解しているから心配しないで」
「そ!それじゃ!」

 真斗が確信した表情となり持っていた小太刀を捨て両手を床に付ける。その光景に竹取かぐやは笑顔で頷き、そして折り畳んで持っている扇子でビシッと真斗に向ける。

「鬼龍 真斗!貴方様の正室である鬼龍 竹取かぐやが命じます!貴方様の犯した罪を全て許します!ただし!また切腹をするのであれば!その時は容赦いたしません!私の義妹いもうとである愛菜もよいですね!」

 真斗に引け劣らない勇ましい武士の様な態度と表情に真斗は感銘し、赤鬼あかきを持った愛菜もすぐに刀を捨て、彼の横に正座する。

「「ははぁーーーっ!」」

 真斗と愛菜は深々と竹取かぐやに向かって頭を下げるのであった。

 一方の見ていた乙姫は竹取かぐやの姿に心をときめかせるのであった。

竹取かぐや、会わない内に大きく成長したわね。ところで竹取かぐや、もしかして私の事を真斗の側女そばめだと思っているの?」

 乙姫は笑顔で問うと竹取かぐやは振り向き笑顔で頷く。

「ええ、そうよ。もしかして正室だっと思ったの?武士の正室はただ一人よ。側女そばめになれただけでも光栄だと思うけど」

 それを聞いた乙姫は右目の下をピクッとさせると持っている扇子を広げ、口元を隠しながらクスクスと笑う。

「あらあら、いつから正室は一人だけと決めたのかしら?まぁーいいですわ。いずれ私も正室になりますので」
「ふふふふっそれは楽しみですわ。そんなお花畑の様な考えが実るのはシワクチャのババアになる頃かしら」

 竹取かぐやと乙姫は笑顔で笑いながら静かに怒りのオーラを出しながらバチバチと睨み合う。

 その光景と感じて来るオーラに頭を上げる真斗と愛菜は少々、冷や汗を流しながら生唾を飲むのであった。

⬛︎

 それからは真斗の大広間に集まった源三郎達に乙姫の事を全て話し、改めて彼女を自身の側女そばめとして家入させる事となった。

 さらに海中の竜宮城は突貫工事で会津城の一部を拡張させ場所に術を使い移し、女官達は乙姫だけでなく鬼龍家一門の従者達として仕える事となった。

 とある日の夕暮れ、真斗は私室で竹取かぐやからある提案を聞いていた。

「え?瀬戸内海へ行ってみたい?」

 胡坐をする真斗からの問いに正座をする竹取かぐやは笑顔で頷く。

「ええ、そうなの。大阪より先には行った事がないの。一度でいいから出雲大社にも行きたいの」
「確かに。俺も出雲大社には行った事はないな。よし!しばらくはいくさの呼び出しはないと思うから遠出をするか」

 真斗は明るい笑顔で竹取かぐやの提案に賛同する二人の会話は仲睦まじい夫婦そのものであった。すると突然、襖が開き笑顔で乙姫が立っていた。

「あらあら、私に内緒で新婚旅行のお話?」

 そう言うと乙姫は私室へと入り、二人の間に割って入る様に正座をする。

竹取かぐや、もしかして私だけ仲間はずれにする気なの?まぁ別にいいけど。でも誰かが言いふらすかもねぇ、“竹取かぐや様は側女そばめを虐めている”ってね」

 嫌味を感じさせる笑顔で言う乙姫の姿に竹取かぐやは彼女の腹の内を察し、彼女に向かって余裕の笑みを見せる。

「別に私は構わないわよ。私を慕う人達は多いから誰かが“乙姫は竹取かぐや様を貶める為に嘘を流した”っとね」

 まるでお返しをするかの様に笑顔で言う竹取かぐやの姿の乙姫は少しウッとする。

(なるほど。流石、竹取かぐやね。まぁ幼い頃から平安貴族達の醜い派閥争いを見ていたから、あしらい方もよく知っているわね)

 乙姫が心の内で語る一方で竹取かぐやも心の内で彼女と同じ様な事を語っていた。

(乙姫は昔から相変わらず意地悪な事を言うわね。でも、そんな幼稚な煽りでうろたえないわよ。何を言おうと私は絶対に折れないわよ)

 そんな二人の女の争いを見ていた真斗は少しイラッとし、右手の平を畳に叩き付ける。

「二人共!俺の目の前で醜い争いをするなぁ‼俺の妻になった以上!くだらん争いをするのであれば‼この場で叩き斬る!」

 真斗からの殺気を感じる一喝に二人は昂っていた気持ちが収まり、申し訳ない表情で真斗に向かって深々と頭を下げる。

「「も!申し訳ありません‼」」

 二人の謝罪する姿に真斗は溜息を吐き苦笑いをするが、瞬時にクスクスと笑う。

「まぁいいか。それじゃ乙姫を連れて行くから機嫌を直せ」
「本当に⁉やった!」

 喜ぶ乙姫に真斗は待ったと右の手の平を向ける。

「ただし旅をしている最中で竹取かぐやと喧嘩をしない事、これが条件だ。いいな?」

 真斗から出された条件に乙姫はウッとなり、少し苦虫を嚙み潰した様な苦笑いをする。

「うーーーん、分かったわ。真斗がそう言うなら仕方ないわね」
「よし!決まりだな。竹取かぐやもそれで文句はないわね」

 真斗が笑顔で言うと竹取かぐやも笑顔で頷く。

「ええ、私は大丈夫よ。大人しくしてくれるなら何も不満はないわよ」

 そう言いながら竹取かぐやは乙姫に向かって嫌味の様なニヤッとした笑顔を見せる。

 乙姫はそんな笑顔の竹取かぐやに対して笑顔で片目の下をピクピクとさせる。

「「フッ!フフフフフッ!フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフッ!」」

 二人はお互いを笑いないながら睨み付け、強い視線をバチバチとさせる。

(はぁ~~~~~~っまったく、喧嘩するなと言ったのに。と言《ゆ》うか二人は仲が良いのか?悪いのか?本当ホントに分からん)

 二人の喧嘩を見ていた真斗は心の内で呆れ呟きながら、やれやれと言う表情で片手で頭を抱えるのであった。
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