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【第25話】勇者様と商人ギルド
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「私はこれから商人ギルドと守備隊本部に報告に行ってくるから、リーナ、クレム、彼に街を案内してあげてほしいのだけれど。頼めるかしら」
「う~ん、どうせ暇だし、散歩もいいかな」
「ちょっと楽しそうですねぇ。お茶でもしながらゆっくり参りましょうか」
リーナもクレメンタインも、漣が思っていた以上に乗り気のようだ。
「では、お願いね」
イヴは二人にそう頼むと、椅子に座る暇も惜しむように玄関を出て行った。
「じゃあ行こうか、キテレツくん」
「リーナさん。イヴさんも言いましたけど、そんな呼び方は失礼ですよぉ」
クレメンタインはぴんっと指を上げてリーナを窘め、すまなそうに漣を見つめる。
「問題ないよバークレーさん。リーンさんの好きなように呼べばいい」
「ほら、キテレツくんもこう言ってるし」
悪びれる様子もなくにっこり笑うリーナを、クレメンタインは眉をひそめて呆れたように見据えた。
「仕方がないですねぇ。ごめんなさいノーバディさん、この子いつもこうなんです」
「ああ大丈夫、気にしないから」
その言葉を聞いて、クレメンタインはほっと胸をなでおろす。
「そうでしたノーバディさん、これからお仲間になるんですからぁ、私のことはクレムと呼んでください」
「あ~ボクのこともリーナって呼び捨てでいいよ。堅苦しいのはきらいだしね」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
漣の快い返事を聞いたクレムは、慈愛に満ちた微笑を浮かべ「では行きましょうか」と、小さな鞄を肩に掛け玄関に向かった。
◇◇◇◇◇
「お待ちしておりました、サーフィス様。どうぞこちらへ」
商人ギルドの長でクローナークの政治を取り仕切る都市貴族であるフェリクス・マートは、人好きのする笑みを浮かべてイヴを迎えた。
「ありがとうございます」
イヴは勧められるまま応接用のソファーに腰掛ける。
「早速ですが、森の様子はいかがでしたか?」
一代で財を成し、準男爵の爵位を金銭によって手に入れたフェリクスは、人当たりの良い性格である反面、非常に合理的な考えを持った人物だった。
仕事の話しは単刀直入に。それが彼のモットーである。
「報告にあった通り、3か所ともゲートでした」
「ふむ、やはりそうでしたか……」
イヴは今回の調査の結果と、オークたちとの戦闘を手短に話した。
「オークプルート、ですか……しかもある程度連携を取っていたのですね」
イヴは大きく頷いた。
しばらくの間目を閉じ、顎に手を添えてじっと押し黙ったフェリクスが、おもむろに目を開いてイヴに尋ねる。
「サーフィス様は、どう思われますか?」
今後、森に新たな動きがあるかどうか。街を統治するフェリクスの懸念はその一点であった。
「正直、これは勘でしかありませんが……魔物の襲撃に備えて、街の防備と避難ルートを強化するべきだと思います」
「やはり、そう思いますか……避難ルートは何とかなりますが、防備については、砦のゼール卿に話すしかありませんね」
フェリクスはあからさまに顔を歪めた。
守備隊を指揮するゼール男爵と、フェリクスを筆頭とする商人ギルドは以前から折り合いが悪く、フェリクスは関係の改善を図るために尽力していたものの、ゼールの方には全くその気がないらしく、会談を求めても無下にされるばかりだった。
そのゼールが、素直にフェリクスの頼みを聞いてくれる補償はない。
「今は別の問題も抱えていまして……」
フェリクスはそれ以上話さなかったが、それがゼールの雇った冒険者のことだと予想のついたイヴはあえて尋ねなかった。
「それは、私からゼール男爵に話します。街の危機ですから、まさか無視はしないでしょう」
イヴにも自信はなかった。
あのゼールという男は、勇者であるイヴに対しても他国の出身ということで、差別意識があるようなのだ。
「それは、助かります。ご面倒をおかけして、申し訳ありません」
フェリクスは深々と頭を下げた。
仕事の話の後、フェリクスに勧められてお茶を飲み少々雑談を交わした。
「では、私はこれで」
「はい、よろしくお願い申します」
イヴはフェリクスに見送られながら、ゼールとの話し合いを思い小さくため息をついた。
「う~ん、どうせ暇だし、散歩もいいかな」
「ちょっと楽しそうですねぇ。お茶でもしながらゆっくり参りましょうか」
リーナもクレメンタインも、漣が思っていた以上に乗り気のようだ。
「では、お願いね」
イヴは二人にそう頼むと、椅子に座る暇も惜しむように玄関を出て行った。
「じゃあ行こうか、キテレツくん」
「リーナさん。イヴさんも言いましたけど、そんな呼び方は失礼ですよぉ」
クレメンタインはぴんっと指を上げてリーナを窘め、すまなそうに漣を見つめる。
「問題ないよバークレーさん。リーンさんの好きなように呼べばいい」
「ほら、キテレツくんもこう言ってるし」
悪びれる様子もなくにっこり笑うリーナを、クレメンタインは眉をひそめて呆れたように見据えた。
「仕方がないですねぇ。ごめんなさいノーバディさん、この子いつもこうなんです」
「ああ大丈夫、気にしないから」
その言葉を聞いて、クレメンタインはほっと胸をなでおろす。
「そうでしたノーバディさん、これからお仲間になるんですからぁ、私のことはクレムと呼んでください」
「あ~ボクのこともリーナって呼び捨てでいいよ。堅苦しいのはきらいだしね」
「ありがとう、そうさせてもらうよ」
漣の快い返事を聞いたクレムは、慈愛に満ちた微笑を浮かべ「では行きましょうか」と、小さな鞄を肩に掛け玄関に向かった。
◇◇◇◇◇
「お待ちしておりました、サーフィス様。どうぞこちらへ」
商人ギルドの長でクローナークの政治を取り仕切る都市貴族であるフェリクス・マートは、人好きのする笑みを浮かべてイヴを迎えた。
「ありがとうございます」
イヴは勧められるまま応接用のソファーに腰掛ける。
「早速ですが、森の様子はいかがでしたか?」
一代で財を成し、準男爵の爵位を金銭によって手に入れたフェリクスは、人当たりの良い性格である反面、非常に合理的な考えを持った人物だった。
仕事の話しは単刀直入に。それが彼のモットーである。
「報告にあった通り、3か所ともゲートでした」
「ふむ、やはりそうでしたか……」
イヴは今回の調査の結果と、オークたちとの戦闘を手短に話した。
「オークプルート、ですか……しかもある程度連携を取っていたのですね」
イヴは大きく頷いた。
しばらくの間目を閉じ、顎に手を添えてじっと押し黙ったフェリクスが、おもむろに目を開いてイヴに尋ねる。
「サーフィス様は、どう思われますか?」
今後、森に新たな動きがあるかどうか。街を統治するフェリクスの懸念はその一点であった。
「正直、これは勘でしかありませんが……魔物の襲撃に備えて、街の防備と避難ルートを強化するべきだと思います」
「やはり、そう思いますか……避難ルートは何とかなりますが、防備については、砦のゼール卿に話すしかありませんね」
フェリクスはあからさまに顔を歪めた。
守備隊を指揮するゼール男爵と、フェリクスを筆頭とする商人ギルドは以前から折り合いが悪く、フェリクスは関係の改善を図るために尽力していたものの、ゼールの方には全くその気がないらしく、会談を求めても無下にされるばかりだった。
そのゼールが、素直にフェリクスの頼みを聞いてくれる補償はない。
「今は別の問題も抱えていまして……」
フェリクスはそれ以上話さなかったが、それがゼールの雇った冒険者のことだと予想のついたイヴはあえて尋ねなかった。
「それは、私からゼール男爵に話します。街の危機ですから、まさか無視はしないでしょう」
イヴにも自信はなかった。
あのゼールという男は、勇者であるイヴに対しても他国の出身ということで、差別意識があるようなのだ。
「それは、助かります。ご面倒をおかけして、申し訳ありません」
フェリクスは深々と頭を下げた。
仕事の話の後、フェリクスに勧められてお茶を飲み少々雑談を交わした。
「では、私はこれで」
「はい、よろしくお願い申します」
イヴはフェリクスに見送られながら、ゼールとの話し合いを思い小さくため息をついた。
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