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悪役令嬢回避
初めての学園祭
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ついに初の学園祭です。見学でなくてね。
一年生はギル兄様やアシュ兄様達が行われていた時と同じ、展示物とバザーです。
エル兄様は頑張ってやっぱり魔道具を作成してました。
授業で作られるものであるから、構造は一緒です。見た目は多少違うように綺麗に装飾を施していました。
昔から器用ですからね…。
ただし、一人最低三品の提出で出さないといけないから、講義中に作った魔道具二品と、ちょっと風邪気味の時に飲む薬を調合したのを出すようです。
フラスコにお湯を沸かして刻んだり千切ったりした薬草を入れて、少し煮込みながら魔力をそそぐと出来上がり。症状別低級ポーションみたいな感じ。
私は他の女子生徒と一緒にお菓子作りを頑張りました。
今回お菓子を作りたいって言う生徒は少なく、どちらかと言えばあの時と同じ『におい袋』の方が人気があったんですよ。匂い袋の中に詰めるお香は、幾つかのものをスプーンや重さを量る道具で確認して混ぜ合わすんです。
意外とセンスが必要で、なぜか同じ物は出来ていなかったんですよね。
講師の先生によると、「匂いに対してのその者が持つ『感受性』も関係しているみたいで、調香している者の好みの匂いの香料がなぜか少し多めに入るんだろう」って。「特にスプーン使用だけでの目分量の時によく起こる」と言われていたんです。
スプーン半分とか四分の一みたいな時にね。
確かに匂いの好みは色々だ。甘いのが好きな者もいれば、少し辛めの匂いが好きな者もいる。爽やか、濃厚。好みは色々。それを作っていくのが女子的には好きだったみたい。刺繍が得意とする者もいるから、詰める予定の袋も縫って刺繍してが楽しいんです。調香はそんなに時間はかかりません。香料を最初から作る事は一年生ではしないから、学園側で準備されている物使用です。ただ、袋の方が刺繍やレースを付けたりと凝った仕上がりにしてしまうと時間がかかるから、匂い袋だけで三品又はそれ以上でも可とされてるんです。
刺繍する際魔力を使うとお守り効果が高まるみたい。もしくは匂いの持続効果かな?が長くなるとも言っていたからね。
私はせっかくだから、「美味しい物を食べて笑顔になって欲しい。特に兄様達」って言う事で、ケーキ類やクッキーなんかを作りました。
ケーキも「その売り場近くにテーブルを置いて食べてもらうのは?」って言う意見もあったけれど、そうなると上級生が飲食を販売予定だから、揉め事のもとだと、持ち帰りできるケーキに変更です。
あくまで気を付けて持って帰ってもらうって前提で。カップケーキとか、ロールケーキをカットして小分け販売にしてみました。
ギル兄様のあの事件以降は、特に学園側のセキュリティが強化されて、違法な物は持ち込もうとしたら消えてなくなるみたいな刻印魔法をどこかの誰かが発明したとか?
あくまでこれは噂です。
でも、実際に持ち込み禁止は強化されました。
特に教室の方にね…。
前日からせっせと準備して、明日は当日。当番以外や試合出場の者達以外は自由行動だから、兄様達と行動できるし、友人ともできるってワクワクしていていましたが…。
なのに、何でここに?
『皇族』から呼び出されれば、余程の場合は『否』とは言えないんだけど…。
そう、第二皇子殿下に呼び出されて、言った先には第三皇子殿下もいました。
ここはカフェテリアと同じように併設されているカフェテラスの方。
兄弟仲が良いのはいいけど、どうして私達を呼ぶのでしょうか?
考えられる事は、ギル兄様とアシュ兄様が第二皇子殿下の側近候補を辞退した事ぐらい。でも、辞退は本人の希望が優先されるはずです。先に選ぶのは皇族だけど、後で選ぶのはこちら側だと言っていたから…。
普通はあまり辞退しないらしいんだけどね。
エル兄様の前世の知識では、兄様達は辞退していなかったし…。
そして、私達二人の目の前には、第三皇子の侍従が準備してくれた、お菓子とお茶が置かれていた。
「どうぞ食べてね。」ってと言ったのは第二皇子殿下。言われて、はいって素直に口にする気にはなれない。呼ばれる意図が見えないからです。
それにどうも気になる…。
「そんなに警戒しなくても良いよ。実はね。僕の弟が、君達二人と友達になりたいと言うから、この場に呼んだんだよ。そうだよね。」
そう言って、横に座っている第三皇子に促すように話されたんだ。
エル兄様としては極力関わりたくないみたいで、それなら私も同じ意見です。
私達には皇族達以外、そう家族や屋敷の者達意外に隠していることが多いですから…。
下手にその手を取って、家に帰れない事態になったら困るんです。
私もエル兄様も…。
さて、どうすべきか…。
「そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかな?こちら側から、『側近候補』も『婚約者候補』も打診したけれど侯爵の方から辞退されたんだ。でも、思った以上に元気そうだし、侯爵の気にしすぎのようにも思えるしね。何なら今からでも打診するけど、受けてもらえる?」
どうしよう…。侍従はこの場には呼べないし…。
よくない提案がどんどんされそうで、それも怖い。
エル兄様が側にいてくれるから、まだ頑張れるけれど…。
エル兄様はここに来る前にそっと耳のイヤーカフを撫でてしました。
アシュ兄様から頂いた婚約者の証です。
私は胸元にある存在を服の上からそっと握りしめたんです。
「君達が婚約してるのは知ってるんだ。でも、この子がどうしても君達が良いって言うから、友達からどうかなって。婚約希望するならこちらはいつでも良いしね。君達二人の婚約破棄にも協力する。そうしてもらえると、こちらとしても好都合。」
「お言葉ですが、よろしいですか?」
「ん?良いよ。」
エル兄様がそう声をかけて、第二皇子が気軽に返事されていた。
周りの者達の視線が痛いけれど…。
第二皇子の側には侍従ではなくて護衛騎士ですね…。それに、兄様が前世で見られたものと、私がスキルで見たもの。それと、兄様達の情報からですが、側近候補がいない…。
第三皇子の方には側近候補がいますが…。
侍従も第三皇子側の者だし…。
クラスが違うから、何度か目にした事があるだけですけど、間違いないと思います。
エル兄様と二人で店番していたら、「第二皇子と第三皇子が呼んでいるから」って半強制的にクラスの二人と当番を変わる事になったんです。
二人の皇子が私達のクラスに現れてね…。
友人がすぐに走っていってくれたから、多分兄様や朝一緒に来た父様達に伝えに行ってくれてるんだと思うんだけど…。父様と来てることも話したから…。
それに、たまたま側に通りかかった担任以外の講師が、「皇族二人をお待たせするのは不敬ですから、行きなさい。」って言われてしまえば、私達二人にはどうしようもない。
選択肢は『付いて行く』だけだった…。
でも、どう考えてもおかしい。
だから、あえてエル兄様は口にされたんです。
「不敬と言われるかもしれないけれど、先に許可の言質さえ取れば、多少は大丈夫なはずだ。」と小声で…私にだけ聞こえていました。
「僕達二人の体調に関しては、家族である父達の方が詳しいです。医師の手配などもしてくれていますから。その父がそのような判断をしてなら、その判断は間違っていないと思います。それに、僕と妹は既に義理の兄達ではありますが婚約をしています。婚約者を引き離す権限は皇族だとしてないとお聞きしています。これは僕達が婚約式をしていただいた時の高位神官様からお伺いした事ですが、間違っていますか?」
まずは、『側近候補』と『婚約』の件の断り理由の正当性をきちんと訴えておく必要性があると考えたのでしょう。
「「「不敬だぞ!」」」
第三皇子の側近候補の三人が喚いたが、そんな事は関係ないはずです。
「どう喚こうが、聞いてやる必要性がない。問題は目の前の二人だ。」とエル兄様は呟いていますが。
ついつい思った事を口にされるのが兄様のくせなんです。
聞こえてるのは私だけですから、大丈夫。
「あ~、確かに、そうなんだが…。」
「エドワルド・フィンレイ。レイチェル・フィンレイ。第三皇子である私、ビスクローズ•ラル•ガルディエーヌは、あのお茶会の時、君達二人に皇族として打診しようと考えたが、既に侯爵家から父上の方に断りの打診があり受理したのは事実だ。だが、その後数回打診したがそれらも全て…。健康上を言うのであれば、君達自身が侯爵家の長男や次男と婚約も出来ないはずだ。侯爵家でも後継者が必要だからね。あの時、そう私の最初の頃のお茶会の時は体調は不十分であったかもしれないが、今は違うだろう?なら…。」
そこで私達の家族に疑いをかけるつもりでしょうか?
そして、無理やり何かを行使してくるつもりなら…
「申し訳ありませんが、お受けできません。」
「なぜ!」
エル兄様がお断りしてくださり、それに対して問われてしまった。
第三皇子であるビスクローズ殿下が少しイライラされている。周りの者達もそうだ。
レインはどうしたらいいのか困惑してしまったのですが、不思議と目の前の人物もオロオロしている。
おかしい…。
第二皇子殿下が…なら…。
「もう一つ言わせていただけますか?」
「あぁ。」
第三皇子が鼻を膨らませてそう答えたから、エル兄様は少し挑戦的にあえて問うことにしたようです。
第二皇子殿下も頷いていたからね…。
「第二皇子シャルル•カル•ガルディエーヌ殿下を語られている貴方は誰ですか?僕が知る限り、殿下が先程のような事を言われるはずがない。兄君である皇太子殿下を支えるために常日頃頑張っていると聞き及んでいます。ですが、先程の発言。本来の殿下では有り得ません。そして、そのお姿で現れて許されるのは…。」
「そこまでだ!」
そう言って現れたのは、私達の目の前に姿を表せている第二皇子そっくりの…多分御本人でしょう。
そして、私やエル兄様の考えは…目の前に皇子の姿をしている…それを許せるかもしれないのは…第一皇女であるレイラン•ラル•ガルディエーヌ様だけです。
ふっとそのお姿が、男性の制服を着てはいるが、やはり女子生徒の姿になられました。
そして、駆けつけて来た第二皇子であるシャルル殿下の背後には、側近候補の方々もおられるが、それよりも…
「レイン。大丈夫かい。」
「エル、カッコ良かったよ。」
そう言って私達二人を抱き上げたギル兄様とアシュ兄様です。
思わずホッとして、涙が出そうになりました。
皇族の目の前で抱き上げるのは一瞬どうかと思うけど、でも嬉しい…。
「レイラン。姿変えの魔法でこの私の姿成りすまして何をしているんだ。それにビスクローズもだ。父上から言われていただろう。権力を傘にきての行動は慎むようにと。」
そう言って、二人の頭をゴツンと音がしそうなぐらいに叩かれた。レイラン殿下は皇女殿下だから、少しは手加減されてる?
「あぁ、エドワルド君もレイチェルちゃんもごめんね。この私の愚かな弟妹がやらかして。後でしっかり怒っておくから、今はこの私の第二皇子シャルル•カル•ガルディエーヌの名に免じて許してほしい。言い訳として、この二人の兄として言うなら、どうもビスクローズは君達に一目惚れみたいな感情を持ったみたいなんだ。皇家の方では君達二人には無理強いはしないように言い聞かせていたんだけどね。レイランはギルベルトに憧れを持っていたんだ。レイランには婚約者がいるから、その事は気にしなくて良い。初恋は誰でも一度は経験するけれどね。まぁ、叶う叶わないは別だが…。ビスクローズは君達と友達からでも近づきたいとスキップ試験にも合格してみせたんだけど、学園サイドの理由もあってクラスも別で、うまく話す機会がとれず、拗らしたみたいなんだ。そこにレイランが姉として要らぬ気遣い事を考えて…、それも誰の入れ知恵だか…。その辺りはこちらで調べる。ん?このお菓子、もしかして食べたりした?」
「いいえ、食べていません。お茶も口にしていません。」
シャルル殿下が手袋越しにお菓子をつまみ、匂いを嗅いだりして…。
「コレを調べてくれ!」
「はっ!」
そう言って、背後の騎士にポケットからハンカチを取り出し包み込んで渡していた。
護衛騎士の一人と思われる者がそれを受け取り何処かに駆けて行ったが…
何か問題が…あったんだろうなぁ~。
食べなくて正解だった…。
「さて、お前達二人は私と一緒に、後お前達もだ!ついて来なさい。ギルもアシュも済まないね。二人の顔色が悪そうだ。確かアシュも、二人も試合は明日だったよな?ギルがそう話していたからね。だから帰っても良いよ。こちら側から学園サイドには伝えておくから。もし、試合に出れなくても大丈夫なようにはしておく。加点は下がるが本来の欠場のような『ゼロ』ではないから。本当に済まなかったね。ではまた。ほら行くよ!」
そう言って、第一皇女殿下と第三皇子を連れて行かれたんだ。
遅れて父様達が来られた。
母様はアルが一昨日熱を出していたから、今日は一緒に来てなかったんだよね。
明日アルの体調が良ければ行くって言ってくれていた。
小さな子供はよく熱出すし…
「父上、ここではあれですので…。」
「うむ。殿下が学園サイドに伝えてくれているのなら、こちらからも学園の方に伝えておいた方がいいだろう。皇族が絡んでいたのなら、抗議もしておく必要性があるから、一旦帰ろう。緊急であるからね…」
「あちらの場所なら使用しても良いと許可をいただいて来ました。帰宅許可もいただいています。第二皇子殿下からも連絡がいっていたので、スムーズに。」
レイが少し怒ってる。
父様も笑顔を見せながら、うん、怒ってるね…。
そして、案内された場所から特別許可で屋敷まで転移して戻ったんだ。
せっかくの学園祭だったのに!
仕方ないけど、残念だったなぁ~。
一年生はギル兄様やアシュ兄様達が行われていた時と同じ、展示物とバザーです。
エル兄様は頑張ってやっぱり魔道具を作成してました。
授業で作られるものであるから、構造は一緒です。見た目は多少違うように綺麗に装飾を施していました。
昔から器用ですからね…。
ただし、一人最低三品の提出で出さないといけないから、講義中に作った魔道具二品と、ちょっと風邪気味の時に飲む薬を調合したのを出すようです。
フラスコにお湯を沸かして刻んだり千切ったりした薬草を入れて、少し煮込みながら魔力をそそぐと出来上がり。症状別低級ポーションみたいな感じ。
私は他の女子生徒と一緒にお菓子作りを頑張りました。
今回お菓子を作りたいって言う生徒は少なく、どちらかと言えばあの時と同じ『におい袋』の方が人気があったんですよ。匂い袋の中に詰めるお香は、幾つかのものをスプーンや重さを量る道具で確認して混ぜ合わすんです。
意外とセンスが必要で、なぜか同じ物は出来ていなかったんですよね。
講師の先生によると、「匂いに対してのその者が持つ『感受性』も関係しているみたいで、調香している者の好みの匂いの香料がなぜか少し多めに入るんだろう」って。「特にスプーン使用だけでの目分量の時によく起こる」と言われていたんです。
スプーン半分とか四分の一みたいな時にね。
確かに匂いの好みは色々だ。甘いのが好きな者もいれば、少し辛めの匂いが好きな者もいる。爽やか、濃厚。好みは色々。それを作っていくのが女子的には好きだったみたい。刺繍が得意とする者もいるから、詰める予定の袋も縫って刺繍してが楽しいんです。調香はそんなに時間はかかりません。香料を最初から作る事は一年生ではしないから、学園側で準備されている物使用です。ただ、袋の方が刺繍やレースを付けたりと凝った仕上がりにしてしまうと時間がかかるから、匂い袋だけで三品又はそれ以上でも可とされてるんです。
刺繍する際魔力を使うとお守り効果が高まるみたい。もしくは匂いの持続効果かな?が長くなるとも言っていたからね。
私はせっかくだから、「美味しい物を食べて笑顔になって欲しい。特に兄様達」って言う事で、ケーキ類やクッキーなんかを作りました。
ケーキも「その売り場近くにテーブルを置いて食べてもらうのは?」って言う意見もあったけれど、そうなると上級生が飲食を販売予定だから、揉め事のもとだと、持ち帰りできるケーキに変更です。
あくまで気を付けて持って帰ってもらうって前提で。カップケーキとか、ロールケーキをカットして小分け販売にしてみました。
ギル兄様のあの事件以降は、特に学園側のセキュリティが強化されて、違法な物は持ち込もうとしたら消えてなくなるみたいな刻印魔法をどこかの誰かが発明したとか?
あくまでこれは噂です。
でも、実際に持ち込み禁止は強化されました。
特に教室の方にね…。
前日からせっせと準備して、明日は当日。当番以外や試合出場の者達以外は自由行動だから、兄様達と行動できるし、友人ともできるってワクワクしていていましたが…。
なのに、何でここに?
『皇族』から呼び出されれば、余程の場合は『否』とは言えないんだけど…。
そう、第二皇子殿下に呼び出されて、言った先には第三皇子殿下もいました。
ここはカフェテリアと同じように併設されているカフェテラスの方。
兄弟仲が良いのはいいけど、どうして私達を呼ぶのでしょうか?
考えられる事は、ギル兄様とアシュ兄様が第二皇子殿下の側近候補を辞退した事ぐらい。でも、辞退は本人の希望が優先されるはずです。先に選ぶのは皇族だけど、後で選ぶのはこちら側だと言っていたから…。
普通はあまり辞退しないらしいんだけどね。
エル兄様の前世の知識では、兄様達は辞退していなかったし…。
そして、私達二人の目の前には、第三皇子の侍従が準備してくれた、お菓子とお茶が置かれていた。
「どうぞ食べてね。」ってと言ったのは第二皇子殿下。言われて、はいって素直に口にする気にはなれない。呼ばれる意図が見えないからです。
それにどうも気になる…。
「そんなに警戒しなくても良いよ。実はね。僕の弟が、君達二人と友達になりたいと言うから、この場に呼んだんだよ。そうだよね。」
そう言って、横に座っている第三皇子に促すように話されたんだ。
エル兄様としては極力関わりたくないみたいで、それなら私も同じ意見です。
私達には皇族達以外、そう家族や屋敷の者達意外に隠していることが多いですから…。
下手にその手を取って、家に帰れない事態になったら困るんです。
私もエル兄様も…。
さて、どうすべきか…。
「そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかな?こちら側から、『側近候補』も『婚約者候補』も打診したけれど侯爵の方から辞退されたんだ。でも、思った以上に元気そうだし、侯爵の気にしすぎのようにも思えるしね。何なら今からでも打診するけど、受けてもらえる?」
どうしよう…。侍従はこの場には呼べないし…。
よくない提案がどんどんされそうで、それも怖い。
エル兄様が側にいてくれるから、まだ頑張れるけれど…。
エル兄様はここに来る前にそっと耳のイヤーカフを撫でてしました。
アシュ兄様から頂いた婚約者の証です。
私は胸元にある存在を服の上からそっと握りしめたんです。
「君達が婚約してるのは知ってるんだ。でも、この子がどうしても君達が良いって言うから、友達からどうかなって。婚約希望するならこちらはいつでも良いしね。君達二人の婚約破棄にも協力する。そうしてもらえると、こちらとしても好都合。」
「お言葉ですが、よろしいですか?」
「ん?良いよ。」
エル兄様がそう声をかけて、第二皇子が気軽に返事されていた。
周りの者達の視線が痛いけれど…。
第二皇子の側には侍従ではなくて護衛騎士ですね…。それに、兄様が前世で見られたものと、私がスキルで見たもの。それと、兄様達の情報からですが、側近候補がいない…。
第三皇子の方には側近候補がいますが…。
侍従も第三皇子側の者だし…。
クラスが違うから、何度か目にした事があるだけですけど、間違いないと思います。
エル兄様と二人で店番していたら、「第二皇子と第三皇子が呼んでいるから」って半強制的にクラスの二人と当番を変わる事になったんです。
二人の皇子が私達のクラスに現れてね…。
友人がすぐに走っていってくれたから、多分兄様や朝一緒に来た父様達に伝えに行ってくれてるんだと思うんだけど…。父様と来てることも話したから…。
それに、たまたま側に通りかかった担任以外の講師が、「皇族二人をお待たせするのは不敬ですから、行きなさい。」って言われてしまえば、私達二人にはどうしようもない。
選択肢は『付いて行く』だけだった…。
でも、どう考えてもおかしい。
だから、あえてエル兄様は口にされたんです。
「不敬と言われるかもしれないけれど、先に許可の言質さえ取れば、多少は大丈夫なはずだ。」と小声で…私にだけ聞こえていました。
「僕達二人の体調に関しては、家族である父達の方が詳しいです。医師の手配などもしてくれていますから。その父がそのような判断をしてなら、その判断は間違っていないと思います。それに、僕と妹は既に義理の兄達ではありますが婚約をしています。婚約者を引き離す権限は皇族だとしてないとお聞きしています。これは僕達が婚約式をしていただいた時の高位神官様からお伺いした事ですが、間違っていますか?」
まずは、『側近候補』と『婚約』の件の断り理由の正当性をきちんと訴えておく必要性があると考えたのでしょう。
「「「不敬だぞ!」」」
第三皇子の側近候補の三人が喚いたが、そんな事は関係ないはずです。
「どう喚こうが、聞いてやる必要性がない。問題は目の前の二人だ。」とエル兄様は呟いていますが。
ついつい思った事を口にされるのが兄様のくせなんです。
聞こえてるのは私だけですから、大丈夫。
「あ~、確かに、そうなんだが…。」
「エドワルド・フィンレイ。レイチェル・フィンレイ。第三皇子である私、ビスクローズ•ラル•ガルディエーヌは、あのお茶会の時、君達二人に皇族として打診しようと考えたが、既に侯爵家から父上の方に断りの打診があり受理したのは事実だ。だが、その後数回打診したがそれらも全て…。健康上を言うのであれば、君達自身が侯爵家の長男や次男と婚約も出来ないはずだ。侯爵家でも後継者が必要だからね。あの時、そう私の最初の頃のお茶会の時は体調は不十分であったかもしれないが、今は違うだろう?なら…。」
そこで私達の家族に疑いをかけるつもりでしょうか?
そして、無理やり何かを行使してくるつもりなら…
「申し訳ありませんが、お受けできません。」
「なぜ!」
エル兄様がお断りしてくださり、それに対して問われてしまった。
第三皇子であるビスクローズ殿下が少しイライラされている。周りの者達もそうだ。
レインはどうしたらいいのか困惑してしまったのですが、不思議と目の前の人物もオロオロしている。
おかしい…。
第二皇子殿下が…なら…。
「もう一つ言わせていただけますか?」
「あぁ。」
第三皇子が鼻を膨らませてそう答えたから、エル兄様は少し挑戦的にあえて問うことにしたようです。
第二皇子殿下も頷いていたからね…。
「第二皇子シャルル•カル•ガルディエーヌ殿下を語られている貴方は誰ですか?僕が知る限り、殿下が先程のような事を言われるはずがない。兄君である皇太子殿下を支えるために常日頃頑張っていると聞き及んでいます。ですが、先程の発言。本来の殿下では有り得ません。そして、そのお姿で現れて許されるのは…。」
「そこまでだ!」
そう言って現れたのは、私達の目の前に姿を表せている第二皇子そっくりの…多分御本人でしょう。
そして、私やエル兄様の考えは…目の前に皇子の姿をしている…それを許せるかもしれないのは…第一皇女であるレイラン•ラル•ガルディエーヌ様だけです。
ふっとそのお姿が、男性の制服を着てはいるが、やはり女子生徒の姿になられました。
そして、駆けつけて来た第二皇子であるシャルル殿下の背後には、側近候補の方々もおられるが、それよりも…
「レイン。大丈夫かい。」
「エル、カッコ良かったよ。」
そう言って私達二人を抱き上げたギル兄様とアシュ兄様です。
思わずホッとして、涙が出そうになりました。
皇族の目の前で抱き上げるのは一瞬どうかと思うけど、でも嬉しい…。
「レイラン。姿変えの魔法でこの私の姿成りすまして何をしているんだ。それにビスクローズもだ。父上から言われていただろう。権力を傘にきての行動は慎むようにと。」
そう言って、二人の頭をゴツンと音がしそうなぐらいに叩かれた。レイラン殿下は皇女殿下だから、少しは手加減されてる?
「あぁ、エドワルド君もレイチェルちゃんもごめんね。この私の愚かな弟妹がやらかして。後でしっかり怒っておくから、今はこの私の第二皇子シャルル•カル•ガルディエーヌの名に免じて許してほしい。言い訳として、この二人の兄として言うなら、どうもビスクローズは君達に一目惚れみたいな感情を持ったみたいなんだ。皇家の方では君達二人には無理強いはしないように言い聞かせていたんだけどね。レイランはギルベルトに憧れを持っていたんだ。レイランには婚約者がいるから、その事は気にしなくて良い。初恋は誰でも一度は経験するけれどね。まぁ、叶う叶わないは別だが…。ビスクローズは君達と友達からでも近づきたいとスキップ試験にも合格してみせたんだけど、学園サイドの理由もあってクラスも別で、うまく話す機会がとれず、拗らしたみたいなんだ。そこにレイランが姉として要らぬ気遣い事を考えて…、それも誰の入れ知恵だか…。その辺りはこちらで調べる。ん?このお菓子、もしかして食べたりした?」
「いいえ、食べていません。お茶も口にしていません。」
シャルル殿下が手袋越しにお菓子をつまみ、匂いを嗅いだりして…。
「コレを調べてくれ!」
「はっ!」
そう言って、背後の騎士にポケットからハンカチを取り出し包み込んで渡していた。
護衛騎士の一人と思われる者がそれを受け取り何処かに駆けて行ったが…
何か問題が…あったんだろうなぁ~。
食べなくて正解だった…。
「さて、お前達二人は私と一緒に、後お前達もだ!ついて来なさい。ギルもアシュも済まないね。二人の顔色が悪そうだ。確かアシュも、二人も試合は明日だったよな?ギルがそう話していたからね。だから帰っても良いよ。こちら側から学園サイドには伝えておくから。もし、試合に出れなくても大丈夫なようにはしておく。加点は下がるが本来の欠場のような『ゼロ』ではないから。本当に済まなかったね。ではまた。ほら行くよ!」
そう言って、第一皇女殿下と第三皇子を連れて行かれたんだ。
遅れて父様達が来られた。
母様はアルが一昨日熱を出していたから、今日は一緒に来てなかったんだよね。
明日アルの体調が良ければ行くって言ってくれていた。
小さな子供はよく熱出すし…
「父上、ここではあれですので…。」
「うむ。殿下が学園サイドに伝えてくれているのなら、こちらからも学園の方に伝えておいた方がいいだろう。皇族が絡んでいたのなら、抗議もしておく必要性があるから、一旦帰ろう。緊急であるからね…」
「あちらの場所なら使用しても良いと許可をいただいて来ました。帰宅許可もいただいています。第二皇子殿下からも連絡がいっていたので、スムーズに。」
レイが少し怒ってる。
父様も笑顔を見せながら、うん、怒ってるね…。
そして、案内された場所から特別許可で屋敷まで転移して戻ったんだ。
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