兄様達の愛が止まりません!

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悪役令嬢回避

初めてのお茶会

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「この先が中央広場だ。」

そう言ってまた手を引いてもらっていた。
兄様達が言われた通り、そこには噴水が勢いよく水を噴き上げていた。
小さな子供達がその水飛沫で喜んでいたんだ。
言っていた通り、露天も見えた。

「行ってみよう」って声をかけてもらい、手を繋ごうとした時、勢いよく走って来た子供がぶつかって来た。
アシュ兄様とエル兄様は私とギル兄様の後に歩いていたんだけど、その子供は、エル兄様にぶつかった後勢い余って避け損ねたのか、私にぶつかったみたいなんだ。背中に小さな手が当たった様に思い、思わず「あっ…。」て声をあげていたんだ。そこで目の前の世界が変わった。

見た事のない場所に、震える子供の姿。
幼さを残す子供の年代は、私とエル兄様によく似ていた。

子供達は壁の方に身を潜めて小さくなっている。その姿は、場所は全く違うけれど、あの屋敷にやって来ていた男が来た時の私の姿に似ていた…。
ヒンヤリとしたこの部屋の上の方には鉄格子の窓。草が見えるからここは地下?子供達がいない方は…。鉄の格子…。

「僕達は捕まったのか?ここは何処かの建物地下で、しかも檻…。」

エル兄様は私を抱きしめて、そっと端の方に移動させて、身を隠す様に促した。一緒に床に座るけれど、その床は当たり前だが、我が家のふかふかな絨毯が敷かれている床ではなくて、冷たく湿っていたし、遠くで汚物の匂いもあったんだ。

カツーンカツーンと冷たい床を靴の音が響いてくる。その足音は一人分ではなくて…。
誰かがやって来た…。

「クククッ、今日も良い獲物が大漁だ。」
「やっぱり子供を捕まえるには、子供を使うのは良いよな。しかもコレ」

そう言って魔石を使ったランプで私達の方を照らしながら、下品な笑顔を見せた男の一人は、カフェで店員をしていた男だった。店に来た客を笑顔で出迎え、メニュー表を持って来た男だった。その男は私達にメニュー表を渡した後、別の店員に「休憩に行く」と言っていたのを聞いたんだ。たまたま聞こえて来ただけで、忙しそうとだけその時は思ったんだった。その男の首には刺青が…。

もう一人の男は、首に刺青が入っていた。あれはトカゲ?トカゲの刺青だ…。
その男は小さな紙を手に持っていて、そこには赤いインクで描かれた魔法陣が描かれていた。

「本当、高い金を出してこれを買っておいて良かったよ。この紙を貼ると、設置型の魔法陣の方に飛んでくるんだからな。貼った紙の方は発動したら転移と同時に消えちまうのと、子供ぐらいの重さしか転移させられないのが難点だ。何度も使えて、大人もできれば、もっと良い金になるんだがな。」
「そう言うなよ。これでも結構な金になるんだ。魔法陣なんて安い物ってぐらいにな。なんてったって、この国の子供は多かれ少なかれ魔力を持っているし魔法も使える。見目も良い。魔力を持たない国にもだが、綺麗な奴隷を欲しがる国もいるんだ。」
「まぁそうだな~。とりあえずは、ここでの商売は一旦打ち切りだ。こいつらの引き取りは今夜だし、その後ここを引き上げて次の場所だな。良い儲けになったよ。」

そう言って男達は檻の近くに置かれていた石の板の様な物を持ち上げて、持って出て行ったんだ。
ひくひくと泣く子供達の声を面白そうに眺めた後…。

「エル…。」
「ここは、違法取引商品を集める場所か…。そして、僕達は集められた商品として他国に…。」
私を抱きしめる手の力が、強張っているのがわかる。

「この檻には、魔法を妨害させる刻印がされている。魔力を持つ子がここから逃げない様にだな。感知阻害も…。あの男がひらひらさせていた紙に描かれた魔法陣からあの板の魔法陣に転移か。確か、国の移送用に開発された物の簡易版が一般商会に出回って輸送が便利になったと聞いた。運べる範囲は、確か百キロ圏内だ。」
「大丈夫。きっと大丈夫。兄様達や父様がきっと助けてくれる。それにあそこにほら…。」

そこに見えたのは、心配そうにこっちを見ている妖精だ。
ここには入って来れないみたい。声も届かないけれど…。

「呼んでくるね…。」

その子達の口は、そう動いている様に見えたんだ…。

「今はとりあえず体力温存だ。この子達も助けないとね。僕達は侯爵家に一員なんだから。ね!」

そう言って、私の背中をさすってくれて…



「レイン、エル、大丈夫かい!」

兄様のお声でハッとした。
エルも私と同じ様で…。

「レイン?」
「にっ、兄様。それにエル…。」
「この頃はエルの事をエル兄様と呼んでいたのに…もしかして単なる眩暈じゃなくて、スキルが?」

私はギル兄様に支えられていた。抱き込まれるようにだ。
隣のカフェに行く予定で、紅茶専門店のこの店を出た瞬間、私は目眩を起こしてギル兄様に支えられた様だ。エル兄様も同じ様になったみたいで、アシュ兄様に支えられていた。

ギル兄様とアシュ兄様は、お互い頷き合って、何かを察知したようだ。
もしかして、以前言われていた兄様達のスキルで私が見たものを確認された?
そして、ギル兄様は襟元の飾りを触っていた。

エル兄様は私にリンクして??

「レイン。エルも、大丈夫だ。父上には今、報告したから直ぐに来られる。後、気分を悪くするかもしれないけれど、確認したいから隣のカフェには入ろう。大丈夫だからね。アシュ…。」

「了解。とりあえずは店にだな。」
「僕達以外にはこの会話は聞こえないようにしているから、安心して。店の中でも認識阻害をかけるから、会話を認識させないようにするぐらいにしておくよ。その方がいいよね?」
「あぁ、頼む。」

ギル兄様とアシュ兄様の相談は終わったようだ。アシュ兄様が護衛の一人と侍従に指示を出していた。

「顔色が悪いから、とりあえず休もう。店から聞いたら、個室があるらしいからね。」

そう言われて、とりあえず私たちはその店に入って行った。
案内係の男は、あの男と同じ顔。笑顔は多分営業用だ。兄様達は私達にその男を見せないようにはしてくれていた。
案内された部屋は奥の方だが、店の中庭が見えて、少しホッとできる感じだった。
私とエル兄様は窓側の席に座らせてもらい、中庭を眺めていた。
大きな木が一本植えられており、その周りに小川をイメージした池?

「循環型の魔道具を設置した池か。あれは鯉?庭自体は今は吹き抜け?」
「ん?そうだね。夜や冷え込む時は可動式屋根を動かして温室のようにするんだろうね。」

アシュ兄様がエル兄様にもたれるようにして、中庭を覗き説明してくれた。
兄様はこの頃魔道具に興味があって、よくそれ関係の本を読んでいるのを見たとエル兄様が言っていた。

「ようこそいらっしゃいました。こちらが当店のメニューになります。お勧めはこちら。本日のお勧めは…。」

ギル兄様が対応してくれている。
私はこの男の顔を見るのが少し怖い。でも、確認は…。
チラッとだけ見て、直ぐに視線を中庭に移した。
エル兄様も同じだ。アシュ兄様が気を使って、お庭に何があるとか声をかけてくれていたから、店の者は不穏に思わないだろう…。

「かしこまりました。しばらくお待ちください。」

そう言って店員の男は出て行った。
直ぐにギル兄様は結界を更に張って、「もう大丈夫。」と頭を撫でてくれたんだ。

「あの男、隠していたがレインが見た刺青が入っていたな。」
「そうですね。首元に髪と襟で上手く隠しているようですが、隠しきれてない。エルが見たトカゲの刺青ですね。」

ギル兄様もアシュ兄様もしっかり確認していた。
私もエル兄様も、そこまで見る気にはなれなかったし、わからなかったけれど…。

「認識阻害をかけていたようだけど、そこにあるかもと見れば解るぐらいのあまいやつだ。」
「父上からは?」
「あぁ、エルとレインが見た鉄格子の向こうに見えた建物があってね。後、庭の置物か?少し特徴的だったから、あれでわかったみたいだ。あそこは昔使われていた貴族に屋敷跡だね。数年前に取り潰された貴族に持ち物だと言っていた。妖精が指差してくれていたんだ。」

確かに妖精の姿は見えたけれど…
そういえば、何か言っていた時指差していた。私はただ草が生えてるぐらいにしか思わなかったけれども…。

そういえば、兄様が対応してくれたから、あの時見た場面と違っていた。
あの時は私達はメニュー表を見て選んだけど、さっきはギル兄様が選んで注文を済ませてくれていたんだ。
だから、男の会話も聞こえていない…。

「さっき、男は休憩に行くと言っていたから、護衛の者に密かに捕えるように言っている。だから大丈夫だ。さて、そろそろ頼んだ物が届くよ。」

ノックの音がして、「失礼致します。ご注文のお品をお持ち致しました。」

そう言ってテーブルに置かれたのは、私とエルが見た物、そう、注文したものと同じものだったんだ。
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