竜の恋人

異世界生活スタートです。

回想(アルホンス)

「はぁ………、余り困らせるなよ…種族の特性とか知らないと思うからさ…」

そう苦笑いしながら行ってきた殿下。
頭では理解出来ているのだが、身体が、心が理解したくないと言っている。
知人達が言っていた通りだ。
自分がここまでなるとは驚きだ。

彼女が逃げようともがいているが、逃すはずもない。何とか隙間を作って助けを求めようとしているが、許せない。

ため息を吐きながら、『ごめんね』とだけ言う殿下。
もう、諦めたのだろう。

その後は、有無も言わさず、雛に餌を与えるが如く、彼女に食べさせる。
これは『番』独特の行動の一つだ。
誰も止めることはできない。

愛しい者の口に料理を運ぶ前に、毒味をし、味付けが好みでないと判断した場合はやり直しをさせる事もある。
残念ながら、今は彼女の嗜好を知らないから、そこまでは出来ないが、毒味と食べさせる行為はしっかりと行った。

恥ずかしそうに頬を染め、スプーンを可愛らしい口で…
頬張る姿も可愛らしい。

殿下や周りの者達が生暖かく見守っている。
気にしない…

彼女の侍女、エルザだった。手に持っているのは…あれは映像を取り込み映し出す物だ。

「映像を残しておかなければ…」と言っている。
後でそれを貰い受けよう。
他の者に渡すわけにはいけない。
彼女の全ては私のものだ。
例え映像であっても…

三人の侍女達が嬉しそうにしているのは理解できるが。
それだけ、『番』が可愛らしいのだ。
それよりも、彼女の世話だ。

「もう良いのですか？果物、美味しそうですよ？」
「もう…お腹いっぱいです…」

そう言われた。
これだけで良いのか？
少な過ぎないか？
いゃ、『ヒト族』は『竜人族』よりも少食だったか…

「それより食べてました？私に食べさせるばかりで…」

私の心配をしてくれるのか。
向かいに座る殿下もそうだが、私達は『ヒト族』と比べると、結構なスピードで結構な量食べる。
しかも、騎士だ。有事に備えて食事のスピードはどうしても早くなる。

彼女の世話をしながら、自分の物も食べていたのだが、気がつかなかったのだろう。

「大丈夫。私も食べていますよ。美味しいですね」

彼女の世話をしながら、しっかりと食べているから大丈夫だと伝えた。
彼女の口元をナプキンで綺麗に拭う。

「自分で…」

と言う言葉は、思いっきり無視した。

「もう良いでしょ！！ありがとうございます」

恥ずかしそうにそう礼を行ってきた。
その声も可愛らしい。

もう良いだろうと、彼女が動き出したから、残念ではあるが逃がしてあげた。
すぐさま侍女達の元に逃げて行くのを寂しく感じる。
仕方がないのだが…残念…

この世界のこと知らない彼女。
この世界の事を知識として学ばなければいけないだろうし…
今後の計画もあるだろう。
側で護れるだけで幸せだと思っていたが、それだけでは足りないと思う自分を自覚して、見守った。