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第59話 宝石を巡る事件
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エテ王子が王宮へ向かっている頃、その王宮ではちょっとした事件が起きていた。
「あら? 姫様、こちらにしまっておいた指輪はどうされましたか?」
第二王女のセリーヌ付きの侍女が、宝石箱の中からいくつかの指輪が無くなっている事に気付いた。
「わたくしは手を触れていませんわ。何が無くなっているの?」
「サファイヤの指輪と、ダイヤのイヤリングが見当たりません」
「おかしいわね~」
宝石箱を覗き込んだセリーヌ王女も、身に覚えのない事に首を傾げた。
その時、ドアをノックする音が響いた。
ドアの近くにいた侍女が許可を得て扉を開けると、そこには国王付きの侍女長が1人の青年と共に立っていた。
「ダルジャス公爵夫人」
「突然のご訪問、申し訳ございません。姫様に見ていただきたい物がございまして…」
「なんでしょうか? どうぞ、中に入ってください」
「ありがとうございます」
国王の侍女長と青年は一礼をして部屋の中に入った。
「わたくしに見せたい物とは?」
「こちらでございます」
侍女長は手に持っていた白い布をセリーヌ王女の前に差し出した。何かが包まれているようで、受け取った王女は重みを感じた。
恐る恐る布を開いて見ると、そこには無くなったと思われたサファイアの指輪、ダイアのイヤリング、そしてダイヤの首飾りとルビーの指輪が包まっていた。
「これは…」
「孫が今朝、王宮の庭園の植え込みに隠されているのを発見しました。発見された場所が一般市民も入ることができるところでしたので、もしかしたら何かの事件に巻き込まれたのではないかと…」
「これらはいつの間にか無くなっていた物です。よく見つけてくださいました。ありがとうございます」
「いえ、姫様の物でよかったです」
「お礼をしますね。何かご希望はありますか?」
「そんな、滅相もございません。わたくしたちは当たり前のことをしたまでです」
「それではわたくしの気が収まりません。…そういえば、公爵夫人のお孫さんはクリスのお婿さん候補でしたわね。わたくしからジュリエッタ様へこの事をご報告させていただきますわ。ジュリエッタ様もきっとお喜びになると思います」
「ありがとうございます」
侍女長と孫のレヴィアンは、セリーヌ王女に向かって好かく頭を下げた。
その時、レヴィアンの口角が微かに上がっていたことに、誰も気づかなかった。
エテ王子が一人で村に出かけてしまったため、王都に残っていたコロリスは非番のカトリーヌを誘って、王立研究院に来ていた。
出迎えたリオが、珍しい来客に驚いていた。特にカトリーヌが仕事以外で来るのは初めての事。
リオ専用の研究室に案内された2人は、物珍しそうにあたりを見まわたしていた。リオの研究室は綺麗に整頓されているが、天井まで届く本棚にびっっしりと詰め込まれた分厚い本や、作業用の机に上に行かれた数々の【結晶】が興味をそそる。
「コロリス様がこちらにいらっしゃるなんて、珍しいですね」
リオはソファに座る2人にお茶を差し出した。ローテーブルの上にはコロリスが作ってきたと言うクッキーも添えられていた。
「どうしてもご相談したことがありまして…」
「相談…ですか?」
「こちらです」
コロリスはテーブルの上に、小さな箱に入った指輪と、長細い箱に入ったペンダントを置いた。2つとも大きなルビーが装飾されており、そのルビーを取り囲むように小さなダイヤが飾られていた。
「綺麗~」
「ここまで大きなルビーは初めて見ました」
「エテ様から頂いた物なんです。今度の婚約式では、事前にお互いの瞳の色の宝石を送り合って、婚約式で身に着けることになっているんです。わたくしはエテ様の瞳の色、サファイアをお贈りしました」
「王族の結婚の儀式って、そういうことをするんですね。わたくし、初めて知りましたわ」
「お互いの気持ちに揺るぎがないという証だそうです」
「瞳は嘘を付かないと言うことわざがありますからね。それにかけての習わしでしょう。王子の婚約式には相応しい宝石です」
「それが……」
「何か問題でも?」
「この宝石、偽物なんです」
「「……はぁ!?」」
コロリスの衝撃発言に、リオもカトリーヌも目を丸くして驚いた。
「宝石だけではありません。このアクセサリー自体が偽物なんです。わたくしがエテ様から頂いたアクセサリーではないのです」
「あ~びっくりした。王子が偽物の宝石を送ったのかと思いましたよ」
「エテ様がそのような事をするはずありませんわ。コロリスさん、本当に偽物なんですか?」
「はい。実はこのネックレスの方なんですが、ルビーの周りに12個の小さいダイヤが飾られています。この12個のダイヤは12か月を表してまして、薔薇祭の薔薇と同じ意味を持っているそうです」
「あら、エテ様は意外とロマンチストなんですね。意外だわ」
現実主義だと思っていたエテ王子が、意外にもロマンチストだということにカトリーヌは驚いた。(※薔薇祭の薔薇については『第45話 12本の薔薇』を参照)
「でも、エテ様はこの12個のダイヤのうち、上から数えて8個目のダイヤを、薄い水色の宝石にご自分で変えられたのです。8番目のダイヤ…8月に当たる場所は、わたくしとエテ王子の誕生月になります。2人の記念の月だからと、そう教えていただきました。エテ様は国王陛下から頂いたコイン型のペンダントにも同じ宝石を使っていまして、この水色の宝石がエテ様の『守護宝石』と呼ばれる物なんだそうです」
「『守護宝石』?」
初めて聞く言葉にカトリーヌが首を傾げた。
「『守護宝石』は、王族の方のみに与えられている自分の宝石の事です。成人の儀式の時に自ら選ぶことができます。王子はこの水色の宝石を選びました」
リオは簡単に説明した。
そういえば王族は公の場に出る時、決まった色の宝石しか身に着けないな…と今になってカトリーヌは気づいた。
「ところが、このペンダントは8番目の宝石がダイヤに……いいえ、ただのガラスに変わっていたのです」
「ガラス? ガラスで宝石そっくりな物を作れるのですか?」
「どうやって作るかはわかりませんが、旅一座にお世話になっていた時、小道具として使うアクセサリーは、このようなガラスに色を付けた物を使用しておりました。値段は宝石よりも安く、一般国民でも手が出せる価格です。それに……」
「それに?」
「あの……その……」
急に顔を真っ赤にしてモジモジとしだすコロリス。とても言いにくい事でもあるのだろうか。
「その……ペンダントの裏側は外れるようになってまして、そこに言葉が書かれてあるんです……はい……」
「「言葉??」」
「あの……その……」
なかなか話しづらい事なのか、コロリスはモジモジとしたまま俯いてしまった。
どうしても聞きたいリオとカトリーヌは、コロリスに向かって体ごと傾けた。
ボソボソと小さな声で、ペンダントに刻まれているであろう言葉をやっと口にした。
その言葉を聞いた途端、リオは顔を真っ赤にしてソファに倒れ込んでしまった。
「エテ様が!? え!? あのエテ様が!?」
カトリーヌは大興奮している。とても衝撃的だったのだろう。あのエテ王子からは想像つかないと騒いだ。
口にしたコロリスもさらに顔を赤くして、ソファに置かれたクッションに顔を埋めていた。
この3人が悶えるのだから、相当な衝撃的な言葉が刻まれているのだろう。
「そ…それで、いつ頃偽物だと気づいたのですか?」
何とか正気を戻したリオが話を進めた。
「この間の衣装合わせの時です。婚約式のドレスの仮縫いで、アクセサリーとのバランスも見たいからという事で、取り出した時、初めて偽物だと気づきました」
「その前に見たのはいつですか?」
「初めての打ち合わせの時です。このアクセサリーに合うドレスをお願いした時です」
「それ以外は宝石箱から出していないのですね?」
「はい。……あ、でも……」
「何か心当たりでも?」
「何度目かの打ち合わせの時、もう一度見せてほしいと頼まれて出したことはありますが、わたくし以外は触れていません。…いえ、わたくしが目を離したかもしれません」
「いつ入れ替わったのか、見当がつかないですね。王子に相談はされましたか?」
「まだです。もしかしたらエテ様の宝石も…」
「一度、確認してみましょう。コロリス様は陛下と王妃様にこの事を伝えてください。その後、研究院でも偽物について調べさせていただきます。因みに、ドレスの仕立てや、このアクセサリーはどちらに注文されましたか?」
「ドレスはセリーヌ王女様に処へ出入りしている仕立て屋にお任せしています。アクセサリーは王宮に出入りしている宝石商にお願いしました。ただ、このペンダントに関しては、出来上がった物にエテ様自身が手を加えています。その…ペンダントの裏の言葉も……。これは製作した宝石商もご存じないはずです」
「それはいい手がかりです。わかりました、こちらからも探りを入れましょう。カトリーヌ様もご協力いただけますか?」
「もちろんですわ。まずは何をいたしましょうか」
「そうですね……リチャード殿の妹という立場を利用しましょう」
リオは王宮に出入りしているという宝石商から探りを入れる事にした。その為にカトリーヌにその宝石商にアクセサリー製作の依頼をする。依頼目的は、義姉への結婚のお祝い。
「と、いう事で、急ではありますがお願い頂けないでしょうか?」
王立研究院を出てすぐに宝石商へ出向いたカトリーヌは、対応してくれた宝石商のオーナーと応接間で話していた。
カトリーヌからの依頼に、最初は困惑していたオーナー。結婚式までの日がない事、いくらなんでもこの短い間に製作するのは難しすぎると断ろうとした。
「確かに兄の結婚式は春の終わり頃ですわ。でも、王都でのお披露目は夏の終わり頃ですの。エテ王子様のご婚約式と近い日程で披露宴など開催したら、周りから何を言われますか…」
「は…はぁ……」
まだ若い(と言っても30代前半)宝石商オーナーは、カトリーヌの話にとりあえず相槌だけ打っておけばいいやという感じで対応していた。
「お義姉様には、侯爵家の次期当主の花嫁になられる証として、立派な宝石をお贈りしたいのですわ。披露宴には王族の方もご出席してくださるのに、宝石一つお持ちになられていない事が知られると、お義姉様が可哀想です。それに我が侯爵家の恥にもなります! 次期当主の奥方になられる方に宝石の一つも送ることができないほど貧しいのか!!って、きっと王宮中の笑いものになりますわ!」
大げさにハンカチを取り出して、声を荒げて泣き出すカトリーヌ。もちろん演技だ。
ミゼル侯爵家は先代国王の血縁者だ。もしここで問題を起こすと、上客である王族たちから見捨てられる可能性が出てくる。売り上げの大半を王族やそれに近い貴族が締めている今の状況を変えるわけにはいかない。
「……わかりました。お受けいたしましょう」
「まぁ! よろしんですの!?」
「間に合う様に仕上げましょう。今からデザインを考えても間に合うはずです」
オーナーは何枚かの紙を取り出し、話を進めることにした。
ただでさえ、今は王子の婚約式やその後の結婚式で、王族一同から製作の依頼が舞い込んできている。アクセサリーを製作するアトリエを持つオーナーだが、そのアトリエにいる職人は少ない。このままではアトリエの職人たちが過労で倒れるんじゃないかと心配している。
ましてや、今依頼されているアクセサリーと被らないデザインを考えなくてはならない。デザインを考えるオーナーもアイデアが出尽くしているのだ。
「デザインはこちらで考えましたの」
「え?」
「あら、いけませんでした? 先日、エテ王子様のご婚約者とお会いすることが出来まして、婚約式で着用されるアクセサリーを拝見しましたの。あのデザインがとても素晴らしかったので、ぜひ同じ形にしていただきたいですわ」
「王子の婚約者……ですか?」
「ええ。大きなルビーの周りに小さなダイヤが12個ついているペンダントですわ。ルビーを紫の宝石に変えていただいて、周りのダイヤを黄色い宝石に変えていただきたいのです。可能ですか?」
「紫…と言いますと、アメジストがよろしいかと思います。つい前日、良質なアメジストが手に入りましたのでこちらを使いましょう。黄色い宝石は滅多に手に入らない物なのですが、何か探してみましょう。デザインが決まっているのでしたら、その分宝石探しに費やせますからね」
「ありがとうございます。お義姉様も喜びますわ」
にっこりと微笑むカトリーヌ。
宝石商のオーナーも、一度は断ろうと思った案件だったが、デザインも決まっているし、使う宝石も決まっている。さらに前金として金貨30枚も収めてくれた。何とかなるだろうと、見積書の作成に入った。
宝石商を出たカトリーヌは、中央広場へと足を向けた。
商談中、コロリスは他の場所へと出かけていた。商店が立ち並ぶ方へと歩いて行ったので、何か欲しい物でもあったのだろう。
中央広場にやってきたカトリーヌは、そこにすでに買い物を終えていたコロリスの姿を見つけた。
どうやら一人ではないようだ。背の高い青年となにやら話し込んでいる。談笑している所を見ると顔見知りだろう。ただ、その青年と腕を組んでいる少女は睨み付けるようにコロリスの事を見ていた。
青年はこの少女とデート中だったんだろう。そこに顔見知りのコロリスの姿を見つけて青年が話しかけ、少女は自分の知らない女と話す青年のことが不安になったのだろう。
「コロリスさん」
カトリーヌが声を掛けると、コロリスはこちらに向かって軽く手を振った。
「もうお話は終わりましたか?」
「ええ。お知り合いですの?」
「はい。今度の婚約式の衣装を担当してくださっている方なんです。偶然お会いしたので相談していました」
「この近くで仕立て屋を経営していますラサールと申します」
「カトリーヌ・ミゼルです。コロリスさんのドレスを仕立てていらっしゃるのでしょ。とても名誉な事ですわ」
「わたしには勿体ない仕事です。素敵な式になるように努力をします。まだ駆け出しのわたしを、王宮に招いていただけるどころか、エテ王子の婚約式の衣装を任せていただけるなんて、この上ない幸せです」
「是非、わたくしもお願いしたいのですが……忙しいですよね?」
「いえいえ、いつでもお伺いします。コロリス様の処へお伺いすることもありますので、その時にいらっしゃってください」
「まぁ、よろしいんですの?」
「はい」
青年ーラサールの口から『エテ王子の婚約式』や『王宮』という言葉が出るたびに、隣にいた少女の表情が変わっていった。
「コロリスさん、そろそろ王宮へ戻りましょう」
「はい。ではラサールさん、また宜しくお願いいたします」
ラサールに向かってコロリスは深く頭を下げた。
それにつられてラサールも頭を下げた。
去っていくコロリスとカトリーヌの後ろ姿を見送っていたラサールに、隣にいた少女が脇腹を突いた。
「ねぇ、どういうこと? 王子の婚約式とか、王宮とか」
「話していなかったっけ?」
「何も聞いていないわ」
「実はさ、ちょっと前からセリーヌ王女に気に入れらて、王宮に出入りできるようになったんだ。それで、そのセリーヌ様のご紹介で、今度結婚されるエテ王子のご婚約者の衣装を担当することになった」
「本当に!?」
「ああ。黙ってて悪い」
「凄い! 凄いじゃない!!」
「これも俺の才能を買ってくれた貴族様のお蔭なんだ。婚約式が終わったら王室から多くの金が入る予定だ」
「一流の仕立て屋になるんだね! わたし、俄然応援しちゃうね」
「ありがとう」
「じゃあ、さっきの方が王子様のご婚約者?」
「そう。赤い髪の方がご婚約者」
「ふ~ん……。ね、もし困ったことがあったら相談してね。女性ならではの拘りは、身分とか全く関係ないんだから。わたしも手伝ってあげる!」
「お前、仕事は?」
「酒場の仕事は夕方からだから、昼間は空いてるよ。今度、アトリエに行くね。お掃除とか、食事とか作ってあげる!」
少女はとても嬉しそうな笑顔を見せていた。
王室の、しかも近々行われる王子の結婚の儀に選ばれるという事は、王室からは沢山のお金が入るということ。今は広場の近くで細々と仕立て屋をやっているが、王室からオーダーが入った事を知った貴族たちがこぞって注文してくる。王室御用達という看板も飾れるようになり、店も大きくなる。
少女はラサールから、立派な店を持ったら結婚しようとプロポーズを受けている。お互いに口だけの約束だが、早くその日が来るように少女は彼に尽くしている。最近、羽振りがよくなった事を疑問に思っていたが、王室に関わっているのだから納得できる。もうすぐ夢が叶えられそうで少女の足取りはとても軽かった。
スキップしながら前を進む少女の後ろを歩いていたラサールは、優しい眼差しで彼女を見つめた。
その時、ラサールは一人の男とぶつかってしまった。
「おっと」
「悪い」
簡単に謝ってきたぶつかってきた男は、すれ違いざまにラサールの手の中に一枚の紙きれを渡した。
手の中に収められた紙に書かれた言葉を見たラサールの顔から表情が消え、微かに口角が上がった。
「もう少しだけ、側に置いておくか」
低く呟いたその声は、前を歩く少女には聞こえなかった。
村から戻ってきたエテ王子は、セリーヌ王女の私室へと向かった。
「エ…エテ様!?」
突然セリーヌ王女の部屋の前にやってきたエテ王子の姿を見て、扉の前にいた侍女が驚いた。
「姉上はいらっしゃいますか? お目通りを願いたい」
「しょ…少々お待ちください」
扉を開け、中へと駆け込むと、部屋の中が急に騒がしくなった。
しばらくして先ほどの侍女が出てきて、中へどうぞと案内してくれた。
部屋の中では複数の使用人たちが散らかった部屋を片付けており、窓際に置かれたソファにセリーヌ王女は座っていた。
「こめんなさい、エテ。部屋を散らかしてしまったの」
「気にしないでください。お聞きしたい事がありますので、すぐに終わります」
「わたくしに聞きたい事?」
「単刀直入に聞きます。近頃、宝石のついたアクセサリーが無くなった事はありませんか?」
「アクセサリーが? そういえば先ほど、宝石箱の中からいくつか無くなっていましたわ」
「それはいつ無くされましたか!?」
「それが……」
セリーヌ王女は近くにいた侍女に視線を配った。
侍女は小さく頷くと、宝石箱を持ってきた。中を開くと、そこには指輪やペンダント、イヤリングなどが綺麗に収められており、セリー王女の『守護宝石』である濃い青い宝石が沢山並んでいた。その中にダイヤやサファイアのアクセサリーも収められていた。
「無くなった物は一つもありませんの」
「一つもない?」
「ええ。先ほど確認した時、いくつか無かったのですが、お父様の侍女長さまが見つけてきてくださって、無事に戻りましたのよ」
「親父の……侍女長?」
すぐにダルジャス公爵夫人だとわかった。なぜ、セリーヌ王女の無くなった宝石をダルジャス公爵夫人が持ってきたのか……。
「お孫さんが見つけてくださったのよ」
「…え?」
「ダルジャス公爵夫人のお孫さんが、庭園の植え込みの中にあったのを見つけてくださったんですって」
「……因みに持ってきたのはどれですか?」
「確か……サファイアの指輪と、ダイアのイヤリング、そしてダイヤの首飾り……そうそう、このルビーの指輪でしたわ。でも、このルビーの指輪はわたくしのではありませんの。どなたの物かしら?」
セリーヌ王女の『守護宝石』は濃い青い宝石だ。赤い宝石は好かないと一度も持ったことはない。他の王族でルビーを持っているのは第一王女のみ。だが、この指輪は第一王女の物でもない。
エテ王子がこの指輪をよく知っていた。
「これも一緒に持ってきたのですか?」
「ええ」
「姉上、見せていただいてもよろしいですか?」
「いいわ」
セリーヌ王女は宝石箱の中からルビーの指輪を抜き取ると、エテ王子の手のひらに乗せた。
間違いない。
この指輪は婚約式の為、コロリスに贈った物だ。
ルビーのペンダント同様、この指輪にもエテ王子は細工をしていた。
指輪の輪の部分の外側には、細かい装飾を施している。これは宝石商から受け取った後、エテ王子が手を加えた物。エテ王子の使用人にアクセサリー工房で働いていた男がおり、その男に頼んで入れてもらった物だ。
「姉上、インクを貸していただけませんか?」
「え? インク? ちょっと待ってくださいね」
近くを走り回っていた使用人にインクを持ってくるように頼んだ。
先ほどから何人ものの使用人が走り回っており、片づけをしているというよりも、何かを探しているように見える。
「何かあったのですか、姉上」
「気にしなくていいのよ。ちょっとした模様替えだから」
慌てて言い返すセリーヌ王女。つい先ほどダルジャス公爵夫人が帰ったばかりなのに、急に模様替えなどおかしい。それに侍女たちの顔色が心なしか青い気がする。
「もしかして、何か無くなりましたか?」
「え!?」
「例えば、宝石とか?」
「いえ、宝石はありましたわ。こうしてすべて戻ってきましたもの。ただ……」
「ただ?」
「……お父様には内緒にしてくださいますか? 実は、三年前にお父様から頂いたグローチを無くしてしまいましたの。いままで大切にしまっておいたのに、いつの間にか無くなってしまって…」
「それはどういうブローチですか?」
「王家の紋章が刻まれたブローチですわ。ほら、エテも育成学校を卒業されたときに、お父様から王家の紋章が刻まれたコイン型のペンダントを頂きましたでしょ? それと同じ物をお父様に作っていただいたのです。もちろんお星さまの部分の宝石はわたくしの『守護宝石』ですわ」(*王家の紋章は『第18話 王子と歌姫の恋物語』参照)
「誰かに悪用されたら大変ですね」
「ええ。物が物だけにお父様にお話し辛くて…」
王家の紋章が刻まれた物は、王族以外が所有してはいけないと言う掟がある。王族から許可を得て授かるのは問題ない。かつてエテ王子が所有していたペンダントをコロリスが持っていた為に王宮内で一騒動あった。
複製することも禁じられており、複製した場合は重い処罰が待ち構えている。
「そのブローチはどこにしまっていましたか?」
「この宝石箱です。この宝石箱にはカラクリがありまして……」
セリーヌ王女はアクセサリーが収められている上段を取り外すと、現れた板の四隅を右上から右回りに順に押していった。すると宝石箱の向かって左の外側が外れ、そこから引き出しの取っ手が現れた。
引き出しの取っ手を3回右に回すと、今度は右側の外側が外れた。そこには何もないように見えるが、上部の両隅を同時に押すと下半分が引き出しのように飛び出してきた。
かなりややこしいカラクリに、エテ王子は「誰が作ったんだ?」と製作者を気にしているようだ。
「この引き出しに入れていましたの」
「こんなややこしいカラクリ、覚えるのも一苦労ですね、姉上」
「お父様から頂いた物なんです。なんでも昔、お父様のお知り合いに武器を主に作っている方がいらっしゃって、わたくしが生まれた時にこれを作ってくださったそうなんです。今は王宮を離れていますが、ご健在だとお伺いしましたわ」
セリーヌ王女の説明に、エテ王子の頭に浮かんだのは豪快に笑うゲンの顔だった。
「この国の国王を育てたのはわしじゃ!」と豪語しているゲンなら、王女の誕生に合わせて物を作ることも可能だろう。しかもヴァーグやケインの話だと、武器以外も色々と作れるらしい。いまは調理器具の開発に精を出しているとか…。
「姉上、この開け方を知っているのは姉上だけですか?」
「ええ」
「誰かの前で見せたことは?」
「侍女には見せた事ありますわ。万が一の場合の事もありますから」
「他には?」
「いいえ、ありませ……あ……」
「心当たりがあるんですね?」
「一度だけ、仕立て屋がいらっしゃった時に……」
「仕立て屋? それは今、コロリスが衣装を頼んでいる仕立て屋ですか?」
「え…ええ。元々は宝石商の紹介だったんです。宝石商のオーナーがいい仕立て屋がいるからって、ご紹介してくださいましたわ。なんでもダルジャス公爵夫人の息子さんが援助されているとか…」
「……」
だから屋敷に出入りしているのか…。
何故、公爵家に出入りしているのかは分からないが、きっとこれには大きな闇があるとしか思えない。
ダルジャス公爵夫人は国王の侍女長で信頼も厚い。息子の公爵は手広く商売をしており、才能ある若者への支援も惜しみなく続けている。国王からの信頼もあり、裏切るとは思えない。公爵夫人の孫は執事見習いをしているが、クリスティーヌ王女の婿候補だ。何かスキャンダルがあれば王位継承権を持つ王女の婿候補ではいられない。
大きな闇が表に出た時、困るのは公爵家の人間だ。そんなリスクを公爵家が負うだろうか?
「あ…あの、姫様……」
使用人が遠慮気味に声をかけてきた。手にはレターセットを持っている。
「あ…あら、ごめんなさい。ありがとう」
使用人からレターセットを受け取ると、それを宝石箱の隣に置いた。
「これでよろしいかしら」
「ありがとうございます、姉上」
エテ王子はインクの入った瓶の蓋を開け、何を思ったのか宝石の部分を摘み、輪の部分を瓶の中に付けた。
「エ…エテ!?」
「何をなさいます!?」
驚くセリーヌ王女や侍女たちを余所に、エテ王子はインクが付いた輪の部分に紙を押し当てた。
ぐるっと一周紙を押し当てると、なんと紙に数字と文字が浮かび上がったのだ。
「これは…」
「どういう仕掛けなのでしょう?」
見た目はただの装飾に過ぎない。なのに、インクを付け、紙に押し当てると文字が浮かぶ。不思議な光景にセリーヌ王女も侍女も目も丸くした驚いた。
エテ王子の指輪に装飾した使用人の男は鏡文字を綺麗に彫れる職人なのだ。彼が住んでいた村は、第三世界に密偵として働いていた末裔が沢山住んでいた。秘密の文書交換に、このようにアクセサリーなどに鏡文字を装飾し、敵の目を欺いていたようだ。使用人の男の実家は今でもこのような鏡文字を装飾する職人で、需要が無くなり、仕事も減ってきたため、王宮に出稼ぎにきている。エテ王子が王室を離れた時は、一家全員ゲンが引き取ってくれるそうだ。
エテ王子はコロリスに渡したはずの指輪が、ここにある事の方が疑問に思う。
まだ彼女からアクセサリーが無くなったという報告はない。ましてや、コロリスとダルジャス公爵夫人の接点は全くなく、孫との接点もない。唯一、彼女と接点があるのはコロリスの私室にも入り、セリーヌ王女の私室にも入っている宝石商と仕立て屋だけだ。
これは探りを入れなくては…。
エテ王子は無くなったセリーヌ王女のブローチの捜索と共に、静かに動き出した。
<つづく>
「あら? 姫様、こちらにしまっておいた指輪はどうされましたか?」
第二王女のセリーヌ付きの侍女が、宝石箱の中からいくつかの指輪が無くなっている事に気付いた。
「わたくしは手を触れていませんわ。何が無くなっているの?」
「サファイヤの指輪と、ダイヤのイヤリングが見当たりません」
「おかしいわね~」
宝石箱を覗き込んだセリーヌ王女も、身に覚えのない事に首を傾げた。
その時、ドアをノックする音が響いた。
ドアの近くにいた侍女が許可を得て扉を開けると、そこには国王付きの侍女長が1人の青年と共に立っていた。
「ダルジャス公爵夫人」
「突然のご訪問、申し訳ございません。姫様に見ていただきたい物がございまして…」
「なんでしょうか? どうぞ、中に入ってください」
「ありがとうございます」
国王の侍女長と青年は一礼をして部屋の中に入った。
「わたくしに見せたい物とは?」
「こちらでございます」
侍女長は手に持っていた白い布をセリーヌ王女の前に差し出した。何かが包まれているようで、受け取った王女は重みを感じた。
恐る恐る布を開いて見ると、そこには無くなったと思われたサファイアの指輪、ダイアのイヤリング、そしてダイヤの首飾りとルビーの指輪が包まっていた。
「これは…」
「孫が今朝、王宮の庭園の植え込みに隠されているのを発見しました。発見された場所が一般市民も入ることができるところでしたので、もしかしたら何かの事件に巻き込まれたのではないかと…」
「これらはいつの間にか無くなっていた物です。よく見つけてくださいました。ありがとうございます」
「いえ、姫様の物でよかったです」
「お礼をしますね。何かご希望はありますか?」
「そんな、滅相もございません。わたくしたちは当たり前のことをしたまでです」
「それではわたくしの気が収まりません。…そういえば、公爵夫人のお孫さんはクリスのお婿さん候補でしたわね。わたくしからジュリエッタ様へこの事をご報告させていただきますわ。ジュリエッタ様もきっとお喜びになると思います」
「ありがとうございます」
侍女長と孫のレヴィアンは、セリーヌ王女に向かって好かく頭を下げた。
その時、レヴィアンの口角が微かに上がっていたことに、誰も気づかなかった。
エテ王子が一人で村に出かけてしまったため、王都に残っていたコロリスは非番のカトリーヌを誘って、王立研究院に来ていた。
出迎えたリオが、珍しい来客に驚いていた。特にカトリーヌが仕事以外で来るのは初めての事。
リオ専用の研究室に案内された2人は、物珍しそうにあたりを見まわたしていた。リオの研究室は綺麗に整頓されているが、天井まで届く本棚にびっっしりと詰め込まれた分厚い本や、作業用の机に上に行かれた数々の【結晶】が興味をそそる。
「コロリス様がこちらにいらっしゃるなんて、珍しいですね」
リオはソファに座る2人にお茶を差し出した。ローテーブルの上にはコロリスが作ってきたと言うクッキーも添えられていた。
「どうしてもご相談したことがありまして…」
「相談…ですか?」
「こちらです」
コロリスはテーブルの上に、小さな箱に入った指輪と、長細い箱に入ったペンダントを置いた。2つとも大きなルビーが装飾されており、そのルビーを取り囲むように小さなダイヤが飾られていた。
「綺麗~」
「ここまで大きなルビーは初めて見ました」
「エテ様から頂いた物なんです。今度の婚約式では、事前にお互いの瞳の色の宝石を送り合って、婚約式で身に着けることになっているんです。わたくしはエテ様の瞳の色、サファイアをお贈りしました」
「王族の結婚の儀式って、そういうことをするんですね。わたくし、初めて知りましたわ」
「お互いの気持ちに揺るぎがないという証だそうです」
「瞳は嘘を付かないと言うことわざがありますからね。それにかけての習わしでしょう。王子の婚約式には相応しい宝石です」
「それが……」
「何か問題でも?」
「この宝石、偽物なんです」
「「……はぁ!?」」
コロリスの衝撃発言に、リオもカトリーヌも目を丸くして驚いた。
「宝石だけではありません。このアクセサリー自体が偽物なんです。わたくしがエテ様から頂いたアクセサリーではないのです」
「あ~びっくりした。王子が偽物の宝石を送ったのかと思いましたよ」
「エテ様がそのような事をするはずありませんわ。コロリスさん、本当に偽物なんですか?」
「はい。実はこのネックレスの方なんですが、ルビーの周りに12個の小さいダイヤが飾られています。この12個のダイヤは12か月を表してまして、薔薇祭の薔薇と同じ意味を持っているそうです」
「あら、エテ様は意外とロマンチストなんですね。意外だわ」
現実主義だと思っていたエテ王子が、意外にもロマンチストだということにカトリーヌは驚いた。(※薔薇祭の薔薇については『第45話 12本の薔薇』を参照)
「でも、エテ様はこの12個のダイヤのうち、上から数えて8個目のダイヤを、薄い水色の宝石にご自分で変えられたのです。8番目のダイヤ…8月に当たる場所は、わたくしとエテ王子の誕生月になります。2人の記念の月だからと、そう教えていただきました。エテ様は国王陛下から頂いたコイン型のペンダントにも同じ宝石を使っていまして、この水色の宝石がエテ様の『守護宝石』と呼ばれる物なんだそうです」
「『守護宝石』?」
初めて聞く言葉にカトリーヌが首を傾げた。
「『守護宝石』は、王族の方のみに与えられている自分の宝石の事です。成人の儀式の時に自ら選ぶことができます。王子はこの水色の宝石を選びました」
リオは簡単に説明した。
そういえば王族は公の場に出る時、決まった色の宝石しか身に着けないな…と今になってカトリーヌは気づいた。
「ところが、このペンダントは8番目の宝石がダイヤに……いいえ、ただのガラスに変わっていたのです」
「ガラス? ガラスで宝石そっくりな物を作れるのですか?」
「どうやって作るかはわかりませんが、旅一座にお世話になっていた時、小道具として使うアクセサリーは、このようなガラスに色を付けた物を使用しておりました。値段は宝石よりも安く、一般国民でも手が出せる価格です。それに……」
「それに?」
「あの……その……」
急に顔を真っ赤にしてモジモジとしだすコロリス。とても言いにくい事でもあるのだろうか。
「その……ペンダントの裏側は外れるようになってまして、そこに言葉が書かれてあるんです……はい……」
「「言葉??」」
「あの……その……」
なかなか話しづらい事なのか、コロリスはモジモジとしたまま俯いてしまった。
どうしても聞きたいリオとカトリーヌは、コロリスに向かって体ごと傾けた。
ボソボソと小さな声で、ペンダントに刻まれているであろう言葉をやっと口にした。
その言葉を聞いた途端、リオは顔を真っ赤にしてソファに倒れ込んでしまった。
「エテ様が!? え!? あのエテ様が!?」
カトリーヌは大興奮している。とても衝撃的だったのだろう。あのエテ王子からは想像つかないと騒いだ。
口にしたコロリスもさらに顔を赤くして、ソファに置かれたクッションに顔を埋めていた。
この3人が悶えるのだから、相当な衝撃的な言葉が刻まれているのだろう。
「そ…それで、いつ頃偽物だと気づいたのですか?」
何とか正気を戻したリオが話を進めた。
「この間の衣装合わせの時です。婚約式のドレスの仮縫いで、アクセサリーとのバランスも見たいからという事で、取り出した時、初めて偽物だと気づきました」
「その前に見たのはいつですか?」
「初めての打ち合わせの時です。このアクセサリーに合うドレスをお願いした時です」
「それ以外は宝石箱から出していないのですね?」
「はい。……あ、でも……」
「何か心当たりでも?」
「何度目かの打ち合わせの時、もう一度見せてほしいと頼まれて出したことはありますが、わたくし以外は触れていません。…いえ、わたくしが目を離したかもしれません」
「いつ入れ替わったのか、見当がつかないですね。王子に相談はされましたか?」
「まだです。もしかしたらエテ様の宝石も…」
「一度、確認してみましょう。コロリス様は陛下と王妃様にこの事を伝えてください。その後、研究院でも偽物について調べさせていただきます。因みに、ドレスの仕立てや、このアクセサリーはどちらに注文されましたか?」
「ドレスはセリーヌ王女様に処へ出入りしている仕立て屋にお任せしています。アクセサリーは王宮に出入りしている宝石商にお願いしました。ただ、このペンダントに関しては、出来上がった物にエテ様自身が手を加えています。その…ペンダントの裏の言葉も……。これは製作した宝石商もご存じないはずです」
「それはいい手がかりです。わかりました、こちらからも探りを入れましょう。カトリーヌ様もご協力いただけますか?」
「もちろんですわ。まずは何をいたしましょうか」
「そうですね……リチャード殿の妹という立場を利用しましょう」
リオは王宮に出入りしているという宝石商から探りを入れる事にした。その為にカトリーヌにその宝石商にアクセサリー製作の依頼をする。依頼目的は、義姉への結婚のお祝い。
「と、いう事で、急ではありますがお願い頂けないでしょうか?」
王立研究院を出てすぐに宝石商へ出向いたカトリーヌは、対応してくれた宝石商のオーナーと応接間で話していた。
カトリーヌからの依頼に、最初は困惑していたオーナー。結婚式までの日がない事、いくらなんでもこの短い間に製作するのは難しすぎると断ろうとした。
「確かに兄の結婚式は春の終わり頃ですわ。でも、王都でのお披露目は夏の終わり頃ですの。エテ王子様のご婚約式と近い日程で披露宴など開催したら、周りから何を言われますか…」
「は…はぁ……」
まだ若い(と言っても30代前半)宝石商オーナーは、カトリーヌの話にとりあえず相槌だけ打っておけばいいやという感じで対応していた。
「お義姉様には、侯爵家の次期当主の花嫁になられる証として、立派な宝石をお贈りしたいのですわ。披露宴には王族の方もご出席してくださるのに、宝石一つお持ちになられていない事が知られると、お義姉様が可哀想です。それに我が侯爵家の恥にもなります! 次期当主の奥方になられる方に宝石の一つも送ることができないほど貧しいのか!!って、きっと王宮中の笑いものになりますわ!」
大げさにハンカチを取り出して、声を荒げて泣き出すカトリーヌ。もちろん演技だ。
ミゼル侯爵家は先代国王の血縁者だ。もしここで問題を起こすと、上客である王族たちから見捨てられる可能性が出てくる。売り上げの大半を王族やそれに近い貴族が締めている今の状況を変えるわけにはいかない。
「……わかりました。お受けいたしましょう」
「まぁ! よろしんですの!?」
「間に合う様に仕上げましょう。今からデザインを考えても間に合うはずです」
オーナーは何枚かの紙を取り出し、話を進めることにした。
ただでさえ、今は王子の婚約式やその後の結婚式で、王族一同から製作の依頼が舞い込んできている。アクセサリーを製作するアトリエを持つオーナーだが、そのアトリエにいる職人は少ない。このままではアトリエの職人たちが過労で倒れるんじゃないかと心配している。
ましてや、今依頼されているアクセサリーと被らないデザインを考えなくてはならない。デザインを考えるオーナーもアイデアが出尽くしているのだ。
「デザインはこちらで考えましたの」
「え?」
「あら、いけませんでした? 先日、エテ王子様のご婚約者とお会いすることが出来まして、婚約式で着用されるアクセサリーを拝見しましたの。あのデザインがとても素晴らしかったので、ぜひ同じ形にしていただきたいですわ」
「王子の婚約者……ですか?」
「ええ。大きなルビーの周りに小さなダイヤが12個ついているペンダントですわ。ルビーを紫の宝石に変えていただいて、周りのダイヤを黄色い宝石に変えていただきたいのです。可能ですか?」
「紫…と言いますと、アメジストがよろしいかと思います。つい前日、良質なアメジストが手に入りましたのでこちらを使いましょう。黄色い宝石は滅多に手に入らない物なのですが、何か探してみましょう。デザインが決まっているのでしたら、その分宝石探しに費やせますからね」
「ありがとうございます。お義姉様も喜びますわ」
にっこりと微笑むカトリーヌ。
宝石商のオーナーも、一度は断ろうと思った案件だったが、デザインも決まっているし、使う宝石も決まっている。さらに前金として金貨30枚も収めてくれた。何とかなるだろうと、見積書の作成に入った。
宝石商を出たカトリーヌは、中央広場へと足を向けた。
商談中、コロリスは他の場所へと出かけていた。商店が立ち並ぶ方へと歩いて行ったので、何か欲しい物でもあったのだろう。
中央広場にやってきたカトリーヌは、そこにすでに買い物を終えていたコロリスの姿を見つけた。
どうやら一人ではないようだ。背の高い青年となにやら話し込んでいる。談笑している所を見ると顔見知りだろう。ただ、その青年と腕を組んでいる少女は睨み付けるようにコロリスの事を見ていた。
青年はこの少女とデート中だったんだろう。そこに顔見知りのコロリスの姿を見つけて青年が話しかけ、少女は自分の知らない女と話す青年のことが不安になったのだろう。
「コロリスさん」
カトリーヌが声を掛けると、コロリスはこちらに向かって軽く手を振った。
「もうお話は終わりましたか?」
「ええ。お知り合いですの?」
「はい。今度の婚約式の衣装を担当してくださっている方なんです。偶然お会いしたので相談していました」
「この近くで仕立て屋を経営していますラサールと申します」
「カトリーヌ・ミゼルです。コロリスさんのドレスを仕立てていらっしゃるのでしょ。とても名誉な事ですわ」
「わたしには勿体ない仕事です。素敵な式になるように努力をします。まだ駆け出しのわたしを、王宮に招いていただけるどころか、エテ王子の婚約式の衣装を任せていただけるなんて、この上ない幸せです」
「是非、わたくしもお願いしたいのですが……忙しいですよね?」
「いえいえ、いつでもお伺いします。コロリス様の処へお伺いすることもありますので、その時にいらっしゃってください」
「まぁ、よろしいんですの?」
「はい」
青年ーラサールの口から『エテ王子の婚約式』や『王宮』という言葉が出るたびに、隣にいた少女の表情が変わっていった。
「コロリスさん、そろそろ王宮へ戻りましょう」
「はい。ではラサールさん、また宜しくお願いいたします」
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「本当に!?」
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「これも俺の才能を買ってくれた貴族様のお蔭なんだ。婚約式が終わったら王室から多くの金が入る予定だ」
「一流の仕立て屋になるんだね! わたし、俄然応援しちゃうね」
「ありがとう」
「じゃあ、さっきの方が王子様のご婚約者?」
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「ふ~ん……。ね、もし困ったことがあったら相談してね。女性ならではの拘りは、身分とか全く関係ないんだから。わたしも手伝ってあげる!」
「お前、仕事は?」
「酒場の仕事は夕方からだから、昼間は空いてるよ。今度、アトリエに行くね。お掃除とか、食事とか作ってあげる!」
少女はとても嬉しそうな笑顔を見せていた。
王室の、しかも近々行われる王子の結婚の儀に選ばれるという事は、王室からは沢山のお金が入るということ。今は広場の近くで細々と仕立て屋をやっているが、王室からオーダーが入った事を知った貴族たちがこぞって注文してくる。王室御用達という看板も飾れるようになり、店も大きくなる。
少女はラサールから、立派な店を持ったら結婚しようとプロポーズを受けている。お互いに口だけの約束だが、早くその日が来るように少女は彼に尽くしている。最近、羽振りがよくなった事を疑問に思っていたが、王室に関わっているのだから納得できる。もうすぐ夢が叶えられそうで少女の足取りはとても軽かった。
スキップしながら前を進む少女の後ろを歩いていたラサールは、優しい眼差しで彼女を見つめた。
その時、ラサールは一人の男とぶつかってしまった。
「おっと」
「悪い」
簡単に謝ってきたぶつかってきた男は、すれ違いざまにラサールの手の中に一枚の紙きれを渡した。
手の中に収められた紙に書かれた言葉を見たラサールの顔から表情が消え、微かに口角が上がった。
「もう少しだけ、側に置いておくか」
低く呟いたその声は、前を歩く少女には聞こえなかった。
村から戻ってきたエテ王子は、セリーヌ王女の私室へと向かった。
「エ…エテ様!?」
突然セリーヌ王女の部屋の前にやってきたエテ王子の姿を見て、扉の前にいた侍女が驚いた。
「姉上はいらっしゃいますか? お目通りを願いたい」
「しょ…少々お待ちください」
扉を開け、中へと駆け込むと、部屋の中が急に騒がしくなった。
しばらくして先ほどの侍女が出てきて、中へどうぞと案内してくれた。
部屋の中では複数の使用人たちが散らかった部屋を片付けており、窓際に置かれたソファにセリーヌ王女は座っていた。
「こめんなさい、エテ。部屋を散らかしてしまったの」
「気にしないでください。お聞きしたい事がありますので、すぐに終わります」
「わたくしに聞きたい事?」
「単刀直入に聞きます。近頃、宝石のついたアクセサリーが無くなった事はありませんか?」
「アクセサリーが? そういえば先ほど、宝石箱の中からいくつか無くなっていましたわ」
「それはいつ無くされましたか!?」
「それが……」
セリーヌ王女は近くにいた侍女に視線を配った。
侍女は小さく頷くと、宝石箱を持ってきた。中を開くと、そこには指輪やペンダント、イヤリングなどが綺麗に収められており、セリー王女の『守護宝石』である濃い青い宝石が沢山並んでいた。その中にダイヤやサファイアのアクセサリーも収められていた。
「無くなった物は一つもありませんの」
「一つもない?」
「ええ。先ほど確認した時、いくつか無かったのですが、お父様の侍女長さまが見つけてきてくださって、無事に戻りましたのよ」
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セリーヌ王女の『守護宝石』は濃い青い宝石だ。赤い宝石は好かないと一度も持ったことはない。他の王族でルビーを持っているのは第一王女のみ。だが、この指輪は第一王女の物でもない。
エテ王子がこの指輪をよく知っていた。
「これも一緒に持ってきたのですか?」
「ええ」
「姉上、見せていただいてもよろしいですか?」
「いいわ」
セリーヌ王女は宝石箱の中からルビーの指輪を抜き取ると、エテ王子の手のひらに乗せた。
間違いない。
この指輪は婚約式の為、コロリスに贈った物だ。
ルビーのペンダント同様、この指輪にもエテ王子は細工をしていた。
指輪の輪の部分の外側には、細かい装飾を施している。これは宝石商から受け取った後、エテ王子が手を加えた物。エテ王子の使用人にアクセサリー工房で働いていた男がおり、その男に頼んで入れてもらった物だ。
「姉上、インクを貸していただけませんか?」
「え? インク? ちょっと待ってくださいね」
近くを走り回っていた使用人にインクを持ってくるように頼んだ。
先ほどから何人ものの使用人が走り回っており、片づけをしているというよりも、何かを探しているように見える。
「何かあったのですか、姉上」
「気にしなくていいのよ。ちょっとした模様替えだから」
慌てて言い返すセリーヌ王女。つい先ほどダルジャス公爵夫人が帰ったばかりなのに、急に模様替えなどおかしい。それに侍女たちの顔色が心なしか青い気がする。
「もしかして、何か無くなりましたか?」
「え!?」
「例えば、宝石とか?」
「いえ、宝石はありましたわ。こうしてすべて戻ってきましたもの。ただ……」
「ただ?」
「……お父様には内緒にしてくださいますか? 実は、三年前にお父様から頂いたグローチを無くしてしまいましたの。いままで大切にしまっておいたのに、いつの間にか無くなってしまって…」
「それはどういうブローチですか?」
「王家の紋章が刻まれたブローチですわ。ほら、エテも育成学校を卒業されたときに、お父様から王家の紋章が刻まれたコイン型のペンダントを頂きましたでしょ? それと同じ物をお父様に作っていただいたのです。もちろんお星さまの部分の宝石はわたくしの『守護宝石』ですわ」(*王家の紋章は『第18話 王子と歌姫の恋物語』参照)
「誰かに悪用されたら大変ですね」
「ええ。物が物だけにお父様にお話し辛くて…」
王家の紋章が刻まれた物は、王族以外が所有してはいけないと言う掟がある。王族から許可を得て授かるのは問題ない。かつてエテ王子が所有していたペンダントをコロリスが持っていた為に王宮内で一騒動あった。
複製することも禁じられており、複製した場合は重い処罰が待ち構えている。
「そのブローチはどこにしまっていましたか?」
「この宝石箱です。この宝石箱にはカラクリがありまして……」
セリーヌ王女はアクセサリーが収められている上段を取り外すと、現れた板の四隅を右上から右回りに順に押していった。すると宝石箱の向かって左の外側が外れ、そこから引き出しの取っ手が現れた。
引き出しの取っ手を3回右に回すと、今度は右側の外側が外れた。そこには何もないように見えるが、上部の両隅を同時に押すと下半分が引き出しのように飛び出してきた。
かなりややこしいカラクリに、エテ王子は「誰が作ったんだ?」と製作者を気にしているようだ。
「この引き出しに入れていましたの」
「こんなややこしいカラクリ、覚えるのも一苦労ですね、姉上」
「お父様から頂いた物なんです。なんでも昔、お父様のお知り合いに武器を主に作っている方がいらっしゃって、わたくしが生まれた時にこれを作ってくださったそうなんです。今は王宮を離れていますが、ご健在だとお伺いしましたわ」
セリーヌ王女の説明に、エテ王子の頭に浮かんだのは豪快に笑うゲンの顔だった。
「この国の国王を育てたのはわしじゃ!」と豪語しているゲンなら、王女の誕生に合わせて物を作ることも可能だろう。しかもヴァーグやケインの話だと、武器以外も色々と作れるらしい。いまは調理器具の開発に精を出しているとか…。
「姉上、この開け方を知っているのは姉上だけですか?」
「ええ」
「誰かの前で見せたことは?」
「侍女には見せた事ありますわ。万が一の場合の事もありますから」
「他には?」
「いいえ、ありませ……あ……」
「心当たりがあるんですね?」
「一度だけ、仕立て屋がいらっしゃった時に……」
「仕立て屋? それは今、コロリスが衣装を頼んでいる仕立て屋ですか?」
「え…ええ。元々は宝石商の紹介だったんです。宝石商のオーナーがいい仕立て屋がいるからって、ご紹介してくださいましたわ。なんでもダルジャス公爵夫人の息子さんが援助されているとか…」
「……」
だから屋敷に出入りしているのか…。
何故、公爵家に出入りしているのかは分からないが、きっとこれには大きな闇があるとしか思えない。
ダルジャス公爵夫人は国王の侍女長で信頼も厚い。息子の公爵は手広く商売をしており、才能ある若者への支援も惜しみなく続けている。国王からの信頼もあり、裏切るとは思えない。公爵夫人の孫は執事見習いをしているが、クリスティーヌ王女の婿候補だ。何かスキャンダルがあれば王位継承権を持つ王女の婿候補ではいられない。
大きな闇が表に出た時、困るのは公爵家の人間だ。そんなリスクを公爵家が負うだろうか?
「あ…あの、姫様……」
使用人が遠慮気味に声をかけてきた。手にはレターセットを持っている。
「あ…あら、ごめんなさい。ありがとう」
使用人からレターセットを受け取ると、それを宝石箱の隣に置いた。
「これでよろしいかしら」
「ありがとうございます、姉上」
エテ王子はインクの入った瓶の蓋を開け、何を思ったのか宝石の部分を摘み、輪の部分を瓶の中に付けた。
「エ…エテ!?」
「何をなさいます!?」
驚くセリーヌ王女や侍女たちを余所に、エテ王子はインクが付いた輪の部分に紙を押し当てた。
ぐるっと一周紙を押し当てると、なんと紙に数字と文字が浮かび上がったのだ。
「これは…」
「どういう仕掛けなのでしょう?」
見た目はただの装飾に過ぎない。なのに、インクを付け、紙に押し当てると文字が浮かぶ。不思議な光景にセリーヌ王女も侍女も目も丸くした驚いた。
エテ王子の指輪に装飾した使用人の男は鏡文字を綺麗に彫れる職人なのだ。彼が住んでいた村は、第三世界に密偵として働いていた末裔が沢山住んでいた。秘密の文書交換に、このようにアクセサリーなどに鏡文字を装飾し、敵の目を欺いていたようだ。使用人の男の実家は今でもこのような鏡文字を装飾する職人で、需要が無くなり、仕事も減ってきたため、王宮に出稼ぎにきている。エテ王子が王室を離れた時は、一家全員ゲンが引き取ってくれるそうだ。
エテ王子はコロリスに渡したはずの指輪が、ここにある事の方が疑問に思う。
まだ彼女からアクセサリーが無くなったという報告はない。ましてや、コロリスとダルジャス公爵夫人の接点は全くなく、孫との接点もない。唯一、彼女と接点があるのはコロリスの私室にも入り、セリーヌ王女の私室にも入っている宝石商と仕立て屋だけだ。
これは探りを入れなくては…。
エテ王子は無くなったセリーヌ王女のブローチの捜索と共に、静かに動き出した。
<つづく>
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