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弧峰慈杏
観感1
しおりを挟む良かった!
ミカは本番に強いタイプだと思う!
練習でもかなり上達してきたと感じさせるパフォーマンスができていたけど、今日の出来が一番良かったのではと思えるほどだった。
初の路上でのパフォーマンスであることや、自身の出来に対しての反省点などを述べていたが、客観視できている点や不利な状況下であれだけやれていたのにまず反省点が出るのも、ポテンシャルを感じた。
なにより、次への意欲を持っているのが良い。
反省点の一部は経験によって解消できる。早速この後のステージで活かせるものもあるだろう。
パレードとステージの間には少し時間があった。
パレードを終えたメンバーは、各々準備や食事などで時間を使ってステージに備える。
わたしとミカは近隣のペッパーランチでささっとステーキを食べた。控室に戻ったわたしたちは、祭りの出店で買ったチーズハットクをつまみながら、衣装のチェックをした。
食べ過ぎ? いいえ。サンバは体力を使う。ましてカザウは衣装が重く、消耗が激しい。お肉を食べないとやってられない。
衣装に問題はなかった。特に補正などせずに済みそうだ。
まずはメイク直しをし、残り時間で衣装の着用を済ます。
カザウは、中でもポルタは、衣装を着るだけでも一苦労だ。
脱ぐのも難しいため、お手洗いなどのことも考えると、できるだけギリギリまでは着用を控えたい。
でも残り時間が短いと着用に間に合わない。
この辺のバランス感覚も重要だった。
ミカにとっては今日が初めての本番の日だったが、その辺のバランス感覚も完璧だった。
準備は完了。さあ、いざステージへ!
わたしたちの出番はマランドロショーの後だ。
三人のパフォーマンスが始まった。
ハルを中心に、両サイドをアキとウリちゃんに据えた構成で、まだ経験の浅いアキとウリちゃんのソロもある。
ミカよりもさらに練習期間は少ないながらも、ふたりとも様になっていた。
ポーズやゆっくり動く演技を取り入れ、技術不足を補うような構成となっている。
それでもむしろ格好良く見えるのはさすがハルの演出だ。
曲の中で最も盛り上がる場面は、三人揃った高速ノペだ。
早いのにバタバタした様子のない滑らかなハルのノペには見入ってしまうが、両サイドのふたりのノペも、速度についていっている。リズムも外してない。
下半身は高速でステップを踏んでいるのに上半身がぶれていないのも美しい。
短期間で良くここまで仕上がったものだ。
元々のポテンシャルが高かったのかもしれない。
ハルの教え方も良かったのかもしれない。
かつてのガビから授けられたイズムが残っていたのかもしれない。
しかし一番の彼らの強みは、子どもの頃に立てた誓いを、違わずブレさせず、一途に貫いたその精神力だと思う。それを以てすれば、この成果もなるほどと思えた。
ノペの後、フィナーレに向かい各々独自のトリックを繰り広げている。
高速ノペの影響か、両サイドのふたりの動きにはやや疲れが見え、精彩を欠く部分もあったが、経験者やよほど見慣れた人でなければ違和感のない、ミスと言えるほどのものではなかった。
拍手に包まれ、サラリと手を振りながら舞台袖へと履けてくる三人。
控えているわたしたちとハイタッチしながらすれ違ってゆく。
まだ余裕がありそうなハルはとは対照的に、アキとウリちゃんは肩で息をしていて、交わす言葉は無かったが、ミカとアキのハイタッチには込み上げるものがあった。
昨日のミカを思い出す。
本番前日である昨日は午前中に最後のリハーサルを終え、午後は久しぶりの仕事も練習もないオフとなっていた。
ステージで行うショーではドレスの衣装で出番がある類は衣装作成が完全に終わっていなく、使い慣れないグルーガンを片手に衣装にスパンコールを張り付ける作業をするそうだ。
類がひいひい言いながら悪戦苦闘している様子が思い浮かびつい吹き出しそうになった。デザイナーのわりに手先不器用だからな、あの子。
カザウのわたしたちは普段使用している衣装ということもあるが、もともとメンテナンスや補修は完璧だったから、この不意のオフをゆっくり過ごそうと決めたのだ。
商店街を食べ歩きして食事を済ませた後、カフェでケーキを食べた。
「食べてばかりじゃん」とミカが笑っていた。
ミカの提案で運動がてら散歩することになった。
こんなに毎日練習しているんだから、むしろもっと食べても良いんじゃないかと思っていたが、前にミカが連れていきたいと言っていた場所のことを思い出し、その提案に乗った。何となくそこに連れて行ってくれるのだという予感があった。
日中はまだ汗ばむような気温の日も多かったが、日が沈みかけたこの時間になると、昼間の熱気の名残はなくもう夏ではないのだと思い知らされる。
わたしの予感通りだった。
ミカが連れて行ってくれた場所は、この街で高台と呼ばれているエリアにあった。ミカにとって、思い入れのある場所なのだそうだ。
街はほとんどが平地で構成され、坂道の少ないところも住みやすさのアピールに使われていたが、高台は文字通り高地にあり、坂を上って行かなくてはならない場所だ。
お店があるわけでもなく、住んでいる者以外がわざわざ行くことは滅多になかった。
商店街周辺とも新駅周辺とも違い、特に開発の手が入ることもなく、ミカが子どもだった頃からすでに旧い家がまばらに建ち並んでいるエリアだった。
おそらくわたしは初めて立ち入ったそのエリアはイメージ通りで、なんとなくあの頃のこの街を思い出させた。
少し進むと、更に高い丘があった。丘の上に続く階段があったが、神社や公園のような公的な場所とは思えなかった。所有者や管理者のための階段だろうか。
ミカは気にせず入っていった。
公道から続いている階段は開放されており、何かを禁じたり注意を促したりするような表示もない。公道につながる私道など、原則は所有者の許可を得ないと通れないが、実質黙認されているケースも多い。
ここの所有者もそのような考え方なのかもしれない。
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