太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら

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北光羽龍

機変

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 夜風が肌に心地よい。
 多少は酔ったからか、或いは自分が思う以上に感情が昂っていたのかもしれない。

 傍らの同胞はどうだろうか。

 その感情は表情からは窺い知れない。
 楽しそうでは無いがもう怒っている様子もない。

 歳は取ったと思うが、あの頃の面影は残っている。
 明るく調子に乗りやすい、リーダー気質のある、だけど少し斜に構えた皮肉屋の側面を持った子どもだった幼馴染。

 俺たちは変わったのかな。
 それとも、変わっていないのかな。

 アキと計画を立て、計画に邁進した日々は楽しかった。昏い楽しみ方だったかもしれない。

 
 俺が通うことになった小学校は新設だったが、生徒の多数は地域のふたつの幼稚園から進学してきた者が多く、同じ出身者同士でゆるくコミュニティが出来つつあった。
 或いは同じくできたばかりのマンションの入居者同士というケースもあった。そんな雰囲気の中、小さなアパートに引っ越してきたばかりで見知った者のいなかった俺にてらいなく話しかけてくれたのがアキだった。

 別に孤立していたわけではない。
 ましていじめられていたわけでもない。それでも、特段脈絡もない場面でアキが声をかけてきた時は、一瞬戸惑いはしたものの妙に嬉しかったのを覚えている。

 アキはこの街の人を排他的と言うが、他所から引っ越してきた立場として、いわゆる物語なんかで田舎の住人が都会などからきた人間を他所者扱いするといった、あからさまな対応をされた記憶はない。
 それでも、僅かに感じるものはあった。境界に線が引かれているような明確なものではなく、なんとなく薄い霧のようなモヤでお互いが包まれていて、認識はできるけどはっきりとはわからない。近づけば入ることはできそうに思えるけど見えにくい其処へ入るにはなんとなく心理的な障害がある。そんな感じ。

 だから、簡単に越えてきたアキには驚いたし、越えてきてくれたことに嬉しさを覚えた。
 だから、排他的にならないようにしたかったし、そうであるとアキが断じた者と戦いたいと思った。
 一方で、人間が排他的になることは、もともと群れをなしていた生き物としての本能で、愉しいと感じられるようにできているのではと思ってもいた。
 俺自身、ガビとの日々やその後のアキとの計画は、内々でおこなわれていたこと自体に愉悦や興奮、或いは特別感などを感じてはいなかっただろうか。
 それを持ち続けてここまできた俺たちは、大人になりきれなかった子どもだったのかもしれない。

 外と内を分け、外部を入れずに内の仲間と何かを為す、または意識や思い、目標や楽しみを共有する。それ自体に善悪はないのだろう。

 仲間はずれや無視などのいじめに繋がれば良くないし、秘密基地やそれにまつわる冒険譚などはジュヴナイルでは肯定的に描かれることもある。
 いずれも、子ども時代特有の感覚かと思えば、大人になってもコミュニティの所属にまつわる選民意識や仲間はずれ、それこそ余所者を排する動きなども世の中から消えてはいない。
 だとすれば、子どもを大人にかえるのは、強い意志と自覚ではないだろうか。

 善悪はなかろうが、いつまでも内側だけ見ていても拡がりは得られないだろう。
 年齢ではなく、自らの意志で、外と繋がって行ける、そのために必要なあらゆる素養、例えば違いを認めることや妥協、または許容する心など、を身につけることが、大人になることだとするなら。

 俺にとっての、俺たちにとってのそれは、自分達よりも十歳近く若い若者に諭された今日なのではないだろうか。

 
 俺たちの計画は都市開発に乗じて新たな住民を呼び込み、新たな市場を拡大させるというもの。

 新たな住民のための都市デザインをおこない、旧来の住民の生活圏や市場はシフトする。
 自ずと既存の住宅街や商店街は本流から外れることになる。
 行政民間問わず、人、モノ、金の流れは本流に集中する。旧来のエリアからも資力や気力、野心のある者は新しいエリアに移り、今ある街は目に見えて形を変えるだろう。

 あの頃、アキと一緒に望んだ、旧態然とした思考がこびり付いたこんな街は住人ごと無くなって仕舞えば良いといった願いは、自ずと成就することになる。
 子どもが心に宿した、街や大人からもたらされた理不尽への言葉にできない怒り。
 それを二十年持ち続け、強靭な意志の力で全うした計画の着地地点はもう見えていた。
 手を伸ばせばもう届くほどの距離にまで寄せたまさにその時に、意志の源泉にあった根底をひっくり返されたような気分だった。

 今自分の中に宿っている感情は、虚しさだろうか。
 それとも、清々しさか。その答えはもうわかっていた。
 盗み見た隣を歩く幼馴染の横顔は、彼が同じ答えに辿り着いたように見えた。


 あの頃の面影が妙に色濃く見える横顔だった。

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