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日が落ち星が隠れたとしても
進む準備
しおりを挟むポスターとリーフレットができあがった。
多色遣いで派手なB6サイズのリーフレットは220kgのマットコート紙でチラシとしてはかなりの厚みだ。
カラフルな背景にキャッチコピーと日時場所のみが記されていて、裏面に詳細情報へのアクセス先が記載されていた。サンバのイベント告知にふさわしく、明るく賑やかでキャッチーに仕上がっていた。
ポスターは打って変わり、『ソルエス』のチームカラーであるゴールドとブラックの配色のダンサー(『ソルエス』のハイーニャである百済菫、サンバネームはビオラ)が大きく写され、画像に少しかかるようにコピーが配置されている。ただし、カラーはゴールド部分のみを残し、他はモノトーンで処理されていた。
敢えての無彩色の採用は画全体をグッと格式高く引き締め、却ってダンサーを浮かび上がらせて見せた。
一般的には派手で賑やかなイメージのサンバダンサーだが、このポスターでは荘厳さを感じさせた。
デザインは更にコピーをも際立たせていた。渡会の普段のイメージとは異なるいぶし銀の技巧に一同は舌を巻いた。
クリエイティブを作るなら当事者にならないと! と、渡会はダンサーとして『ソルエス』に入会していた。
ルイだと瑠衣と被るため、サンバネームはるいぷるで登録した。
瑠衣と仲良くなってルイとるいぷるでルイの大洪水を起こすのだと慈杏に興奮気味で語っていたときは、本来の目的忘れてないかなと慈杏を心配させたが、演者としても楽しみを見出していた渡会はかなり気合を入れてデザインを起こしていて、慈杏を驚かせ、喜ばせた。
美嘉と渡会は『サンスターまつり』がイベントデビューとなる。
美嘉の衣装は前任のメストリ・サラが使っていた衣装をメンテナンスして使う。
美嘉は普段あまりやらない作業だけに苦戦していたようだったが、既に大方を終えているようだ。
一方、渡会は新調の衣装だ。
サンバの衣装は街中のショップに売っているというようなものではない。
羽飾りやビキニのような衣装は、専門に造っているアトリエや個人などにオーダーするか、先輩の中古を売ってもらって、それを調整して拵える。
今回の渡会の衣装は、いわゆるサンバダンサーの衣装ではなく、ドレス系の衣装だ。
こちらもまた、その辺で売っているものではない。というより、ショップやネットショップなどで、舞台映えするような華やかな衣装を購入し、それをさらにスパンコールや宝石のような素材、刺繍のような布、リボンなどの装飾品を、グルーガンや裁縫で取り付け、パフォーマンス用の衣装に仕立て上げるのだ。
渡会はこの作業が手に負えず、早くも泣きが入っていた。
それでも慈杏に発破を掛けられながら、なんとか七割弱くらいまでは進捗していた。
着々と進む準備に、『ソルエス』メンバーや関係者の高揚感と緊張感は高まっていった。
練習にも熱が入る。通常平日のエンサイオは二十二時まで行われるが、出入りは自由である。
尚、日中に行われる土日のエンサイオもあるが、抽選のため必ず設定できるわけではなく、主となるエンサイオは平日に行われるのが常だった。
学生や女性は早い時間に練習場を出ることが多いが、祭りの本番が迫る最近は最後まで残る者が増えていた。
ある日のミーティングで、治樹は注意を換気する言葉をメンバーに告げていた。
「最近商店街から、夜中のアーケードや駅周辺で騒いでいる輩が出没しているので気をつけるようにとの通達があった。
落書きや喧嘩など、警察沙汰になるケースも散見されているらしい。そう言われると確かにそんな雰囲気の連中が何をするでもなく集まってだべっているのを見かけるようになった気がするな。
ここから駅までは少し歩くし時間も遅いから、できるだけ一人で帰らないように」
メンバーには地元の者が多い。地元の参加者は車利用者や、車で迎えに来てもらう者が大半で、徒歩や自転車で帰るものもいるが駅方面には向かわない。
しかし地元以外から参加している者もそれなりにはいて、駅を利用していた。若い女性や学生もいるため、治樹は殊更注意を促したのだった。
慈杏や美嘉、渡会も電車利用者だ。
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