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本章 計画と策動
会合1
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携帯電話が振動で着信を知らせていた。暁は表示も見ずに電話に出た。
「ああ、烏我さんか。いや、申し訳ない。引き伸ばしているわけではありませんよ。ちょうど今日、関係者と会合を予定しています。ええ、どちらに転んでも、結論は今日中に出します。電話は遅い時間でも構いませんね? はい、終わり次第連絡します」
二、三のやりとりを端的な言葉で済ませ、電話を切った。
目の前には目的地のスペインバルの店があった。まだ明るさが残る時間帯だったが、店内は既に盛況のようだった。扉を開けると喧騒が身を包んだ。
入り口で待ち合わせであるとを伝えていると、奥の席で羽龍が立ち上がって手を振っていた。
「お待たせ。なんだ、俺が最後か。ハイランドクーラーを」
暁はジャケットをかけながら、席までアテンドをしてくれたウェイターにファーストドリンクのオーダーを済ませ席に着いた。
「アキにいおそーい!」
「おまえ、色んな意味でまだ早い」
グラスを振り上げ大声を上げる渡会を百合が嗜めている。
「うん、まず自己紹介しよ」慈杏が場を整えようと立ち上がった。
「ってことでおにいさん、ウリちゃん、改めてわたしたちの紹介をさせてください」
「頼む。俺たちも改めて挨拶させてもらうよ」
(あれ、ウリちゃんさんからウリちゃんになってる……)と疑問を感じた羽龍をよそに、自己紹介が始まった。
名前と仕事、その場の誰かとの関係性程度の簡単な自己紹介をひととおり終えた頃、暁が頼んだドリンクが届いた。
「自己紹介しあったらんだからもう大親友よね。アキにい、イエー! かんぱー!」
渡会が勝手に乾杯の音頭をとる。釣られるように全員がグラスを掲げた。
「……何時からやってるんだ?」
隣でげらげら笑っている渡会に聞こえないように、暁は逆隣の百合とグラスを合わせながら尋ねた。
「始まったのはほぼ時間通りです。あれ、ほぼ素面です」
「そうか」
言いながら暁はカクテルに口をつけた。
「ウリ、席替わるか?」
「替わらない!」
カクテルをゆっくりテーブルに置き、おもむろに右隣に座っている羽龍に席を譲ろうとする暁に、羽龍は即答で断りを入れた。隣の類はまだげらげら笑っている。
「はは、元気だよね」
暁の正面に座っていた美嘉が少し困ったような笑顔を見せた。
「渡会さんはいつもあんな感じなのか?」
兄弟の久しぶりの会話は渡会の話題となった。
「俺も実際会ったのはこの前が初めてだったんだけど、いきなりミカちゃんだったから、きっとそうなんだと思う」
「同僚として詫びます。すんません」
兄弟の話に百合が加わった。
「あれはおおよそあんな感じです。クライアント先やプレゼンではまともな言葉遣いもしますが、距離の詰めかたはそう変わらんですね。ボクも出会ってすぐ先輩に対してとは思えない呼び方で呼ばれましたよ。昔飼ってた犬の名前だそうで」
同僚として、フォロー半分愚痴半分で言った。
「百合くんもなかなかな目に遭ってるんだね」
羽龍はにこにこと笑いながら言う。
「あの子が個性的なのは良いとして、なんで俺に対してはみんなあの子みたいなスタンスなの?」
羽龍はようやく訊くことができた。
冒頭の慈杏の言葉から既にウリちゃんと呼ばれていたことに、羽龍はにこにこしながらずっと疑問符を抱えていたのだ。
「慈杏のお父さんが言うには、ウリちゃんには接しやすい雰囲気があるみたいだよ」
少しバツが悪そうにしていた百合に代わり、美嘉が答えた。
「親しみ持たれるのは良いことだと思っておくよ」
ここ以外の場でも似たようなケースがあるのか、羽龍はすんなりと諦めたようにグラスワインを呷った。
「ちょっとちょっと! メンズだけでなにをごちゃごちゃやってんの。
渡会さんなんて他人行儀な言い方悲しいなー。るいぴーって呼んだら良いのに!
あー、アキにいグラス空じゃん! 何飲みます? テキーラ? 俺とお前と大五郎?」
「気は、利くんだな。ウイスキーをお願いするよ。バランタインをロックで」
「よろこんでー」
言うが早いか、渡会は近くを通ったウェイターをとっ捕まえて、暁のドリンクをオーダーした。美味しくなーる魔法をかけておくようになどと、メイド喫茶のようなサービスを強要している。
「しかしまー、なんですなー……」
一通りウェイターに絡み終えた渡会は席に戻りグラスをちびりとやりながら呟いた。
暁をしげしげと見つめながらカシスショットをもうひと口含む。
「ぐぼぉ‼︎」
渡会は含んだ一口を吹き出した。
「おい⁉︎」
「ちょっと、大丈夫⁉︎」
えげえげ言っている渡会をフォローする百合と慈杏。
渡会の正面にいた慈杏と、暁を挟んで座っていた百合はすぐに渡会のところまで行き、慈杏は背中をさすり百合はテーブルに散ったカシスショットの残骸をおしぼりで拭いた。
ここぞと言う時のチームワークの良さを暁たちに垣間見せていた。
「黒ぉ! って言おうとしたら炭酸が変なとこ入って咽せた……あとこのカシショ、テキーラ濃いぃ」
涙目で咽せながら、落ち着くまで喋らなくても良いのに余計なことを言い始める渡会。
「おいっ、黒とか言うな」
渡会と暁の間に入ってテーブルを拭きながら百合は渡会の口を止めようとするが、
「ふーんふーんふーん、ふふふーんふふふーん」
渡会は止まらない。重厚感のあるテーマミュージックを軽いハミングで口ずさむ。
「やめとけて‼︎」
幸い慈杏が暁に飛沫などが掛かってないか気を使い、暁は問題ないと答えるといったやりとりをしていたおかげで、渡会がなにやら機嫌良くハミングしているのは認識していたが、百合との小声のやり取りまでは聞き取れなかった。
「ああ、烏我さんか。いや、申し訳ない。引き伸ばしているわけではありませんよ。ちょうど今日、関係者と会合を予定しています。ええ、どちらに転んでも、結論は今日中に出します。電話は遅い時間でも構いませんね? はい、終わり次第連絡します」
二、三のやりとりを端的な言葉で済ませ、電話を切った。
目の前には目的地のスペインバルの店があった。まだ明るさが残る時間帯だったが、店内は既に盛況のようだった。扉を開けると喧騒が身を包んだ。
入り口で待ち合わせであるとを伝えていると、奥の席で羽龍が立ち上がって手を振っていた。
「お待たせ。なんだ、俺が最後か。ハイランドクーラーを」
暁はジャケットをかけながら、席までアテンドをしてくれたウェイターにファーストドリンクのオーダーを済ませ席に着いた。
「アキにいおそーい!」
「おまえ、色んな意味でまだ早い」
グラスを振り上げ大声を上げる渡会を百合が嗜めている。
「うん、まず自己紹介しよ」慈杏が場を整えようと立ち上がった。
「ってことでおにいさん、ウリちゃん、改めてわたしたちの紹介をさせてください」
「頼む。俺たちも改めて挨拶させてもらうよ」
(あれ、ウリちゃんさんからウリちゃんになってる……)と疑問を感じた羽龍をよそに、自己紹介が始まった。
名前と仕事、その場の誰かとの関係性程度の簡単な自己紹介をひととおり終えた頃、暁が頼んだドリンクが届いた。
「自己紹介しあったらんだからもう大親友よね。アキにい、イエー! かんぱー!」
渡会が勝手に乾杯の音頭をとる。釣られるように全員がグラスを掲げた。
「……何時からやってるんだ?」
隣でげらげら笑っている渡会に聞こえないように、暁は逆隣の百合とグラスを合わせながら尋ねた。
「始まったのはほぼ時間通りです。あれ、ほぼ素面です」
「そうか」
言いながら暁はカクテルに口をつけた。
「ウリ、席替わるか?」
「替わらない!」
カクテルをゆっくりテーブルに置き、おもむろに右隣に座っている羽龍に席を譲ろうとする暁に、羽龍は即答で断りを入れた。隣の類はまだげらげら笑っている。
「はは、元気だよね」
暁の正面に座っていた美嘉が少し困ったような笑顔を見せた。
「渡会さんはいつもあんな感じなのか?」
兄弟の久しぶりの会話は渡会の話題となった。
「俺も実際会ったのはこの前が初めてだったんだけど、いきなりミカちゃんだったから、きっとそうなんだと思う」
「同僚として詫びます。すんません」
兄弟の話に百合が加わった。
「あれはおおよそあんな感じです。クライアント先やプレゼンではまともな言葉遣いもしますが、距離の詰めかたはそう変わらんですね。ボクも出会ってすぐ先輩に対してとは思えない呼び方で呼ばれましたよ。昔飼ってた犬の名前だそうで」
同僚として、フォロー半分愚痴半分で言った。
「百合くんもなかなかな目に遭ってるんだね」
羽龍はにこにこと笑いながら言う。
「あの子が個性的なのは良いとして、なんで俺に対してはみんなあの子みたいなスタンスなの?」
羽龍はようやく訊くことができた。
冒頭の慈杏の言葉から既にウリちゃんと呼ばれていたことに、羽龍はにこにこしながらずっと疑問符を抱えていたのだ。
「慈杏のお父さんが言うには、ウリちゃんには接しやすい雰囲気があるみたいだよ」
少しバツが悪そうにしていた百合に代わり、美嘉が答えた。
「親しみ持たれるのは良いことだと思っておくよ」
ここ以外の場でも似たようなケースがあるのか、羽龍はすんなりと諦めたようにグラスワインを呷った。
「ちょっとちょっと! メンズだけでなにをごちゃごちゃやってんの。
渡会さんなんて他人行儀な言い方悲しいなー。るいぴーって呼んだら良いのに!
あー、アキにいグラス空じゃん! 何飲みます? テキーラ? 俺とお前と大五郎?」
「気は、利くんだな。ウイスキーをお願いするよ。バランタインをロックで」
「よろこんでー」
言うが早いか、渡会は近くを通ったウェイターをとっ捕まえて、暁のドリンクをオーダーした。美味しくなーる魔法をかけておくようになどと、メイド喫茶のようなサービスを強要している。
「しかしまー、なんですなー……」
一通りウェイターに絡み終えた渡会は席に戻りグラスをちびりとやりながら呟いた。
暁をしげしげと見つめながらカシスショットをもうひと口含む。
「ぐぼぉ‼︎」
渡会は含んだ一口を吹き出した。
「おい⁉︎」
「ちょっと、大丈夫⁉︎」
えげえげ言っている渡会をフォローする百合と慈杏。
渡会の正面にいた慈杏と、暁を挟んで座っていた百合はすぐに渡会のところまで行き、慈杏は背中をさすり百合はテーブルに散ったカシスショットの残骸をおしぼりで拭いた。
ここぞと言う時のチームワークの良さを暁たちに垣間見せていた。
「黒ぉ! って言おうとしたら炭酸が変なとこ入って咽せた……あとこのカシショ、テキーラ濃いぃ」
涙目で咽せながら、落ち着くまで喋らなくても良いのに余計なことを言い始める渡会。
「おいっ、黒とか言うな」
渡会と暁の間に入ってテーブルを拭きながら百合は渡会の口を止めようとするが、
「ふーんふーんふーん、ふふふーんふふふーん」
渡会は止まらない。重厚感のあるテーマミュージックを軽いハミングで口ずさむ。
「やめとけて‼︎」
幸い慈杏が暁に飛沫などが掛かってないか気を使い、暁は問題ないと答えるといったやりとりをしていたおかげで、渡会がなにやら機嫌良くハミングしているのは認識していたが、百合との小声のやり取りまでは聞き取れなかった。
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