太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
55 / 123
本章 計画と策動

サンバ計画5

しおりを挟む
「うちのルイの動き見てみて?」

 紗杜が場の雰囲気を切り替えるように、話題を変えた。もう一度瑠衣を見た紗杜に、ふたりも倣った。

「あれがサンバの基本ステップ、『サンバ・ノ・ペ』。この後はガンザでサンバのリズムに触れてみて、『サンバ・ノ・ペ』やいくつかの楽器を体験しよう」

 紗杜に教えられながらガンザでリズムの基礎を学んだふたりは、ノペに挑戦していた。紗杜が半分のスピードでノペを踏む。
 その足の動きを見ながら同じようにステップを踏んでいる。

「いち、にぃ、さん! しぃ、いち、にぃ、さん! しぃ……」

 基本は四拍子で、三にアクセントがあるのだと言いながら三の時に大袈裟に足を上げてステップの踏み方を見せる紗杜。

「ひー、足がごちゃごちゃする!」

「難しなこれ」

 悪戦苦闘しながらも見よう見まねでノペを踏むふたり。なんとなく形にはなっていた。

「いやいや、ふたりとも筋良いよ! 楽器やダンスの経験はあるの?」

「ピアノとヴァイオリンとバレエ習ってました!」ノペを踏みながら答える渡会。

「お嬢やんけ!」ノペを踏みながら突っ込む百合。

「小中は新体操部で高校では仲間とストリートでブレイキンやってました!」

「ギャップえぐ! フジヤマくらい高低差あるやん!」

 ふたりのやりとりは続く。ノペを踏みながら。

「もー、うるさいなぁ。ボケてないのにツッコむノリ、いやー、引くー。関西アピールかなんか? そんなキャラ付け必死になってないでジルさんのご質問に答えてくださいよー」

「おまえ生き様が大ボケやねん。誰がキャラ立ち狙て必死や!
ええと、ボクはギターちょっと弾けるくらいです。特に習ってとかはありません。ダンスも未経験です」

(余裕あるな……)思った紗杜はにこやかな笑顔を浮かべ、
「そかそか、類ちゃんは色々経験してるだけあってさすがだけど、藍司さんもリズム乗れてますよー! じゃあ倍速いってみよう!」

「ひぃぃぃぃ!」

「あかん、無理や!」

 ふたりとも崩れ落ちた。速度についていけなくなったのもあるが、見た目通り、もしかしたら見た目以上に激しい体力の消耗とふくらはぎの筋肉疲労でノペを続けられなくなってしまった。

「さて、少し休みましょうか」紗杜は余裕の表情だ。

 ふたりは座り込み息も絶え絶えになりながら水分を補給し、汗を拭っていた。

「このままノペの練習続けても良いし、やってみたい楽器あったら体験してみましょう!」

「わたしはもう少しこのステップ練習したいです!」

「うん、良いね!」

 ぜえぜえしながらも前向きな度会に、紗杜は笑顔で返した。

「ボクはあの、タンボリンってのちょっとやってみたいです」

「オッケー」

 そういうと紗杜は体験用の楽器置き場からタンボリンを取って戻り、百合に渡した。基本的な叩き方を教え、百合も実際にやってみる。

「よし、では音楽に合わせて鳴らしてみましょう。テンポはやいよー! 複雑なパターンはやらなくて良いので、わたしと同じように叩いてみて!」

 カカカカッ! カカカカッ! カカカカカカカカカカッ!

 小さな楽器は意外な音量の高音を練習場に響かせた。
 同じように叩き、なんとかついていく百合。

「うん、できてるできてる! じゃあ、藍司さんが叩くタンボリンに合わせて類ちゃんノペ踏んでみようか」

「よっしゃ、ちゃきちゃき踊れよー?」

 必死さの中に歩的な笑みを浮かべてタンボリンを叩く百合。

「ランちゃんこそリズム狂わないでよ⁉︎
適当こいたら蹴りくれてやる!」

「おい、ボク先輩やぞ⁉︎」

 カカカカッ! カカカカッ! カカカカカカカカカカッ!

「おー! ふたりとも良い感じ!」

 ダンスと打楽器の異種バトルが白熱していた練習場に、パンパンと手を叩く音が響いた。

「さて! 十五分休憩しようか! しっかり給水して、汗をかいた人は身体冷やさないように!」

 治樹は休憩を告げた。ダンサーとバテリアが別々の練習場でおこなっているパート練習を区切る合図でもあった。

「よし、休憩にしましょう! 休憩後はバテリアと合同の練習になるので音に合わせて今日最初にやったガンザを振ってみよう!」
 この合同で行う練習を、『エンサイオ』と呼ぶ。

「はーい、ランちゃん、楽しいね⁉︎」

「うん、まあ、確かに楽しな」

 サンバ体験を楽しんでいるふたりを見ながら、紗杜は満足そうに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
現代文学
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...