47 / 123
本章 計画と策動
邂逅2
しおりを挟む
若人の冷静な答えを、暁は表情もなく聞いていた。
「なるほど」
無表情で若人に答えた暁。目だけは冷たい光を宿していた。
「にいちゃんたちは都市開発事業なんだよね? この商店街もかつては地域の主要な市場であり顔でもあったんだし、新開発のエリアと連携とった企画とかやれないかな?」
暁は美嘉の方は見ずに若人に言った。
「市は開発エリアに資源を集中させる方向で舵を切っています。この方針は決定事項です。
憚られる言い方をしますが、既存の駅周辺は切り捨てる考えです。それでもお考えは変わりませんか」
「商工会議所でも、そのようなニュアンスの話は前からあったよ。
切り捨てると言う表現が適切かはわからないが、積極的に人や資金を投入する気がないのは仰る通りだろう。広報なんかはより露骨に新規エリア中心、一辺倒になっているのが良くわかるよ」
だからこそ、行政に頼らず自助努力でなんとかしないとならないなと言う思いが強くなったと若人は答えた。
「私の店だけ新エリアになんてことは考えられません」強い意志の宿った目だった。
「よく分かりました。交渉や検討の余地は無いようですね」
暁はやや表情を和らげた。
作られた薄い笑みの形をしているが、他人行儀で慇懃無礼な言葉遣いも相俟って、酷薄で皮肉な色が浮かび上がっている。
「我々の仕事は誘致をして終わりではありません。市が想定する、新たな市の中心部として、市の想定を超えて機能させる使命があります。
申し訳ありませんが商店街とはある種競合として対立関係にならざるを得ません。有体に言えば、市場を奪うつもりでいます。どうかご承知おきの程を」
一方的で、言い切るような言い方だった。
「あ、あの! おにいさん!
改めまして、弧峰慈杏です。若人の娘です。ミカにはいつも公私にわたって助けてもらっています」
決裂の気配を感じた慈杏は、慌てた様子で言葉を挟んだ。
「おにいさんにとってもここは故郷なんですよね? それとウリちゃんさん……?」
「ああ、申し遅れました。北光羽龍です。システムコンサルタントです。さっきのやりとりで気付いたと思うけど、暁、美嘉兄弟とは幼馴染です」
羽龍は代表取締役の名刺を弧峰親子に渡す。
「高天の都市開発事業とアライアンスを組み、主に情報化戦略の立案、構築、導入部分に携わっています。
まだ独立したてで、その他なんでもしなくちゃならないんで、情報と名のつく分野全般の便利屋みたいなこともやらせてもらっています。情報発信って意味では広報や広告なんかもね」
羽龍は暁とは対照的に、終始柔和な表情は崩さずに話した。
「ミカは代理店だよね? 同期ってことは慈杏さんも同業かな? 本業の方を前に恥ずかしいけど、アキの会社の広宣チームと一緒にキャッチコピーやポスターを作り、展開の戦略やプレスリリースにも関わっているよ」
若人が先ほど述べた、市が新駅周りに特化した「露骨な広報」に、羽龍が、もっと言えば暁と羽龍の計画が関わっていると言うことだった。
「なるほど」
無表情で若人に答えた暁。目だけは冷たい光を宿していた。
「にいちゃんたちは都市開発事業なんだよね? この商店街もかつては地域の主要な市場であり顔でもあったんだし、新開発のエリアと連携とった企画とかやれないかな?」
暁は美嘉の方は見ずに若人に言った。
「市は開発エリアに資源を集中させる方向で舵を切っています。この方針は決定事項です。
憚られる言い方をしますが、既存の駅周辺は切り捨てる考えです。それでもお考えは変わりませんか」
「商工会議所でも、そのようなニュアンスの話は前からあったよ。
切り捨てると言う表現が適切かはわからないが、積極的に人や資金を投入する気がないのは仰る通りだろう。広報なんかはより露骨に新規エリア中心、一辺倒になっているのが良くわかるよ」
だからこそ、行政に頼らず自助努力でなんとかしないとならないなと言う思いが強くなったと若人は答えた。
「私の店だけ新エリアになんてことは考えられません」強い意志の宿った目だった。
「よく分かりました。交渉や検討の余地は無いようですね」
暁はやや表情を和らげた。
作られた薄い笑みの形をしているが、他人行儀で慇懃無礼な言葉遣いも相俟って、酷薄で皮肉な色が浮かび上がっている。
「我々の仕事は誘致をして終わりではありません。市が想定する、新たな市の中心部として、市の想定を超えて機能させる使命があります。
申し訳ありませんが商店街とはある種競合として対立関係にならざるを得ません。有体に言えば、市場を奪うつもりでいます。どうかご承知おきの程を」
一方的で、言い切るような言い方だった。
「あ、あの! おにいさん!
改めまして、弧峰慈杏です。若人の娘です。ミカにはいつも公私にわたって助けてもらっています」
決裂の気配を感じた慈杏は、慌てた様子で言葉を挟んだ。
「おにいさんにとってもここは故郷なんですよね? それとウリちゃんさん……?」
「ああ、申し遅れました。北光羽龍です。システムコンサルタントです。さっきのやりとりで気付いたと思うけど、暁、美嘉兄弟とは幼馴染です」
羽龍は代表取締役の名刺を弧峰親子に渡す。
「高天の都市開発事業とアライアンスを組み、主に情報化戦略の立案、構築、導入部分に携わっています。
まだ独立したてで、その他なんでもしなくちゃならないんで、情報と名のつく分野全般の便利屋みたいなこともやらせてもらっています。情報発信って意味では広報や広告なんかもね」
羽龍は暁とは対照的に、終始柔和な表情は崩さずに話した。
「ミカは代理店だよね? 同期ってことは慈杏さんも同業かな? 本業の方を前に恥ずかしいけど、アキの会社の広宣チームと一緒にキャッチコピーやポスターを作り、展開の戦略やプレスリリースにも関わっているよ」
若人が先ほど述べた、市が新駅周りに特化した「露骨な広報」に、羽龍が、もっと言えば暁と羽龍の計画が関わっていると言うことだった。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
キャラ文芸
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる