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本章 計画と策動

慈杏の決意21

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 少し話は大きくなってしまうけれど、商店街の再生をテーマにして、父がもう一花咲かせる気になってくれれば、目下の問題は回避できそうだと慈杏は考えた。
 空き店舗にテナントを誘致するなんてことは簡単ではないし、そもそも父の仕事ではない。
 やはり一商店会員として商店街の発展や活気に寄与するのが近道に思えた。

 父たちが立ち上げた『サンスターまつり』が使いやすいと思った。
 父は今はやや一線から退いていて運営についてはアドバイザー的な立ち位置でしか関わらなくなっている。
 同じく父たちが立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、演者としてならどうか。
 あいにくこちらもここ最近はたまに息抜きがてら練習には参加するものの、母が体調を崩し辞めてからはイベントにはほとんど参加をしていない。


「慈杏もサンバのメンバーなんだ?」

 考えを巡らせている慈杏に、ミカは尋ねた。
 言葉としては聞きなれているが目の前の恋人と結びつかない「サンバ」のワードに少し戸惑いながら。

「んー、まあ」慈杏にしては珍しく歯切れが悪かった。

「あまり参加はしてないの?」

「最近は、そうね。お父さんと同じで、練習に出るくらい」

「そうか。モチベーション下がってるとか?」

「そういうことでもないんだ。就活時は一時休会してたし、新卒の頃も忙しくてなかなか参加できなかったけど、『リアライズ』が軌道に乗ってからは時間作りやすくなって、イベントなんかも結構出てたんだから」

「そうなんだ? 全然呼んでくれなかったね」

「いや、遠方のイベントに呼ばれてとかだったから」

「『サンスターまつり』は?」

「最近はたまたま仕事が重なっちゃって出れてなかったのよ」

「そっか。慈杏のダンス見たかったなぁ。子どもの頃も出てたんだよね?
俺も子どものころはその祭りには行っても出店に夢中だったからあまりパフォーマンスは観てなかったけど、一度くらい見かけていたかもしれないな」
 それはあったかもしれないと慈杏は思った。

「やっぱり露出とかすごいの?」

「うちは子どもは露出少ないよ。あの一般的なイメージのサンバダンサーの格好するのは成人してからって決まりがあるの。それに、わたしはあれじゃないんだ」

 
 ダンサーには種類がある。
 いわゆるサンバのイメージはビキニのような衣装に派手な羽根を背負ったスタイルだろう。
 羽根は『コステイロ』、ビキニは『タンガ』、頭飾りは『カベッサ』という。
 それらを身につけて踊るのが『パシスタ』や『ジスタッキ』と呼ばれるダンサーだ。

 ほかに民族衣装をモチーフにした大きなスカートのドレスで回るように踊る『バイアーナ』、チームの象徴となる旗、『バンデイラ』を持って踊る女性ダンサーの『ポルタ・バンデイラ』と、ポルタをエスコートする男性ダンサーの『メストリ・サラ』。
 その男女ペア『カザウ』と言う。『カザウ』はタキシードとドレスのような衣装で踊るのだ。タンガを着ないダンサーもいるのだと、慈杏は説明した。
 
「んで、わたしそのポルタなんだよね」

「え? ペアなの⁉︎ ……まあ、そう言うこともあるかぁ」
 ミカは驚いたような、困ったような、考えるような、なんとも言えない顔をしていた。

「でもチームの旗を持つ役割なんてすごいんじゃないの?」

「うん、自分で言うのも厚かましいけど、重要なポジションだよ」
 言いながら慈杏の表情がやや翳った。
「でも、実はペアの相手ダンサーが転勤になってしまってしばらく前に退会しちゃって。元々人数も少ないし新しい人も入らないしで、カザウとしての活動ができなくなっちゃったんだ」

 ミカは理解した。
 なんとなくサンバについての話がでた時の歯切れの悪さや、最近あまり活動していなかった理由がわかった。

「なるほどね。あらゆるな部分で、少しずつ斜陽化が目に見えはじめているのかも。
色々と方法は考えていくとして、目先出来ることは次の『サンスターまつり』をピーク時くらい盛り上げて、商店街活性化の起爆剤にすることを目指す。
慈杏はサンバチームをコアにした企画を作って、お父さんにも関わってもらえるようにしよう。俺も地元だし、乗ってくれそうなグループ探してみるよ。学生とかももっと巻き込んで、地域の街おこしくらいのムーブメントにして、プレスリリースもばんばん打ってさ、取材にも来てもらおう」

「うん、イメージはわかる。見物客だけじゃなく、参加者を増やせれば、来年以降にも繋げられるよね。
クラブやサークルとして参加してくれても良いし、うちのチームで一般参加枠を設けたりもできる」
 うん、うんとミカは頷いている。が、慈杏の声のトーンにはまだ高揚感は現れていなかった。

「ただ、チームの象徴たるバンデイラを扱うカザウはさすがに適当に用意するわけにはいかないし、カザウ無しってパターンも無くはないけど、創設メンバーのひとりであるお父さんの気持ちを高揚させながら、後年にも続く派手なイベントにするなら、やっぱり欠かせない」

 なるほど、まあ簡単にはいかないよね、とミカは背もたれに身体を預け、天井を仰ぎみた。
 

「だからミカ。メストリ・サラやってみない?」
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