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序章 ガビと少年
少年と冒険
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俺は早くおろしたての5号のサッカーボールを蹴りたくてうずうずしていた。
サッカー部には入らない等と突っ張っては見たものの、素直にサッカー部に入ったメンバーたちは今も練習している。こうしている間に差がついてしまうのは明らかで、正直に言えば焦りを感じていた。
部活動組よりも、少しでも先に繋がる効果的な練習がしたいと、中学校から使用することになる、小学生高学年用のボールより大きいボールで練習しようと考えていた。
少なくともここでこうしていても何も始まらない。かと言って混み合っていることが明らかにわかっている森公園にダメ元で向かうのも、何もしないよりはマシなだけで、賢いとはいえない。
俺たちは開拓者になる必要があった。新天地の。
「練習試合するわけじゃないし、公園とか以外でどこか練習できる場所探してみようか?誰も来ないような場所見つけて、俺たち専用の練習場にしようぜ」
「良いね、秘密基地みたいだ」
「壁打ちもしたいな。必殺シュート編み出そう」
決めたらあとは早かった。特になんの根拠も確信もあったわけではないが、俺たちは俺たちだけの新天地を求めて歩き始めていた。
俺たちは土手沿いの道を川上に向かって歩いた。
どれくらい歩いただろうか、たまにサッカークラブのランニングで長距離走る時のコースも超えて、今まで足を踏み入れたことのない地域にまで来ていた。
「お!」
羽龍が自動販売機を見つけ、駆け寄った。
「アキちゃんほら! 見たことない炭酸売ってる!」
初夏の日差しは思いのほか強く、俺たちは乾いていた。
河川敷では水道水を直接飲んでいたのでドリンクは用意していなかったのだ。
「うめー!」
初めて見るメーカーのよくわからない炭酸飲料は、なんらかのキャンペーンなのか「+150ml!」などと印字されていて、500mlでも350mlと同じ値段で販売していた。
迷わずそれを選び、味もよくわからなかったが、とにかく水分を欲していた俺たちはそれを喉に流し込んだ。強い炭酸に一気飲みを妨げられながらも、得難い爽快感にあおられその場で飲み干してしまった。
この後の探索と、練習中に飲み物を得られない可能性を考え、もう1本ずつ補充してその場を後にする。現時点で最高評価を得ている炭酸飲料が、後程ぬるくなった時、飲み干すにも苦労する難物に成り果てるとも知らずに。
「道、無くなっちゃったね」
道はいつの間にか舗装されてないけもの道のようになっていて、道幅が段々と細くなってきていたので怪しい予感はしていたが、ついに予感は現実として目の前に立ちはだかってきた。
道の途切れた先は背の高い雑草が生い茂っていて、細長い葉は力強く、強行突破したら露出している肌が細かい傷だらけになるだろうと容易に想像できた。別のルートは無いかと目線を変えると、道は無く雑草も生えているが、正面ほど高くなく茂り方もまばらで、その先には大きな建物が見えた。
「ウリ! あれ!」
思わず指をさしたその建物は、背面側だったため全容は不明、遠目からの判断に何の根拠もないが、直感的に思った。
「廃墟だ!」
俺たちは葉で肌を切らないよう、根本を踏んで雑草を折るようにしながら建物に向かって進んでいった。
もしあれが本当に廃墟なら、芝生が無いのは気になるが、壁を使ってシュート練習ができる。
屋根もあるので雨の日も練習できる。(ここに来るまで大変だけど)
うまく電気がつけば夜間も練習できる。(夜になって帰ったらさすがに親に怒られそうだけど)
何よりグラウンドの獲得競争から抜けられる。
一番良いのはまさに秘密基地といった風体! (もはや目的が違うけど)
建物付近までたどり着き、周囲をまわって入り口を探す。
やはり人のいる気配はない。どうやら工場だったようだが、機械が稼働しているような音もしない。
当たり前だが正面は道路に面しており、生活道路の方からくれば雑草を踏み分けて入る必要は無かった。
正面に回っても、看板等は外されていたので、休業ではなく廃業していることに確信を持った。
作業場は半分オープンで、外からでも入れた。機械や設備はほとんど残されていなかった。仮にここが廃業ではなく開業前で動いていないのだとしても、しばらくは業務を行えるような状態にはならないと思えた。
道路から工場内に自動車を入れられる造りだったので、自動車の整備などを行う工場だったのかなと思った。
サッカー部には入らない等と突っ張っては見たものの、素直にサッカー部に入ったメンバーたちは今も練習している。こうしている間に差がついてしまうのは明らかで、正直に言えば焦りを感じていた。
部活動組よりも、少しでも先に繋がる効果的な練習がしたいと、中学校から使用することになる、小学生高学年用のボールより大きいボールで練習しようと考えていた。
少なくともここでこうしていても何も始まらない。かと言って混み合っていることが明らかにわかっている森公園にダメ元で向かうのも、何もしないよりはマシなだけで、賢いとはいえない。
俺たちは開拓者になる必要があった。新天地の。
「練習試合するわけじゃないし、公園とか以外でどこか練習できる場所探してみようか?誰も来ないような場所見つけて、俺たち専用の練習場にしようぜ」
「良いね、秘密基地みたいだ」
「壁打ちもしたいな。必殺シュート編み出そう」
決めたらあとは早かった。特になんの根拠も確信もあったわけではないが、俺たちは俺たちだけの新天地を求めて歩き始めていた。
俺たちは土手沿いの道を川上に向かって歩いた。
どれくらい歩いただろうか、たまにサッカークラブのランニングで長距離走る時のコースも超えて、今まで足を踏み入れたことのない地域にまで来ていた。
「お!」
羽龍が自動販売機を見つけ、駆け寄った。
「アキちゃんほら! 見たことない炭酸売ってる!」
初夏の日差しは思いのほか強く、俺たちは乾いていた。
河川敷では水道水を直接飲んでいたのでドリンクは用意していなかったのだ。
「うめー!」
初めて見るメーカーのよくわからない炭酸飲料は、なんらかのキャンペーンなのか「+150ml!」などと印字されていて、500mlでも350mlと同じ値段で販売していた。
迷わずそれを選び、味もよくわからなかったが、とにかく水分を欲していた俺たちはそれを喉に流し込んだ。強い炭酸に一気飲みを妨げられながらも、得難い爽快感にあおられその場で飲み干してしまった。
この後の探索と、練習中に飲み物を得られない可能性を考え、もう1本ずつ補充してその場を後にする。現時点で最高評価を得ている炭酸飲料が、後程ぬるくなった時、飲み干すにも苦労する難物に成り果てるとも知らずに。
「道、無くなっちゃったね」
道はいつの間にか舗装されてないけもの道のようになっていて、道幅が段々と細くなってきていたので怪しい予感はしていたが、ついに予感は現実として目の前に立ちはだかってきた。
道の途切れた先は背の高い雑草が生い茂っていて、細長い葉は力強く、強行突破したら露出している肌が細かい傷だらけになるだろうと容易に想像できた。別のルートは無いかと目線を変えると、道は無く雑草も生えているが、正面ほど高くなく茂り方もまばらで、その先には大きな建物が見えた。
「ウリ! あれ!」
思わず指をさしたその建物は、背面側だったため全容は不明、遠目からの判断に何の根拠もないが、直感的に思った。
「廃墟だ!」
俺たちは葉で肌を切らないよう、根本を踏んで雑草を折るようにしながら建物に向かって進んでいった。
もしあれが本当に廃墟なら、芝生が無いのは気になるが、壁を使ってシュート練習ができる。
屋根もあるので雨の日も練習できる。(ここに来るまで大変だけど)
うまく電気がつけば夜間も練習できる。(夜になって帰ったらさすがに親に怒られそうだけど)
何よりグラウンドの獲得競争から抜けられる。
一番良いのはまさに秘密基地といった風体! (もはや目的が違うけど)
建物付近までたどり着き、周囲をまわって入り口を探す。
やはり人のいる気配はない。どうやら工場だったようだが、機械が稼働しているような音もしない。
当たり前だが正面は道路に面しており、生活道路の方からくれば雑草を踏み分けて入る必要は無かった。
正面に回っても、看板等は外されていたので、休業ではなく廃業していることに確信を持った。
作業場は半分オープンで、外からでも入れた。機械や設備はほとんど残されていなかった。仮にここが廃業ではなく開業前で動いていないのだとしても、しばらくは業務を行えるような状態にはならないと思えた。
道路から工場内に自動車を入れられる造りだったので、自動車の整備などを行う工場だったのかなと思った。
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