スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
213 / 215

白い日の幻の際(きわ) 来訪者 ほづみ

しおりを挟む
「いのり、来たよ」
 
 ほづみ?
 
「止まっちゃった計画、進めてるからね。今のところ順調だよ。安心してね。やー、でも、さすがいのりだよね。あれ、全部ひとりでやってたんだね。いのりの計画の中で目下進めていた分だけだけど、今はにーなとるいぷる、ジアンも手伝ってくれて、なんとか進めてるよ」
 
 そっか、ありがとう。
 
「……もっとさ、私のことも頼ってくれて良かったのに」
 
 ごめんね。
 
「……いのりはさ、ひとのために頑張りすぎだよ。ずっと、多分小さなころから、いのりはがんちゃんのために生きてなかった?」
 
 それが私の生きがいだったなら、それは「自分のため」だったと思うけど。
 
「私も柊がいるから、気持ちはよくわかる。未だに子どもっぽい柊に呆れることもイラっとすることもあるけど、やっぱりかわいいもん。喧嘩ばかりしてた時期もあるけど、それでも子どもの頃から「大事にしたい」、「護らなきゃ」って思いはあった」
 
 わかるよ、ほづみ。
 
「でもね、年齢が上がっていくと世界が広がるでしょ? 付き合うひとが増え、活動が増え、行ける場所が増え、使えるお金や時間も増えてくる。そうなってくるとさ、自ずと円グラフの内訳は変わってくるんだよ。
だけどいのりは、極端な言い方したら、ずっとがんちゃんが円グラフのほとんどを占めてたんじゃない?」
 
 だって、かわいいんだもん。
 
「持ち前の能力の高さで、強引に円の大きさ自体を大きくして、友だち付き合いやら勉強やら部活やらを周囲の人たちと同様以上に全うしていたのかもしれないけど、がんちゃんに割くエネルギーは減るどころか増えてたんじゃない?」
 
 だって、かわいいんだもん。
 
「無理はさ、たたるんだよ」
 
 だってぇ。
 
「出会った頃のいのりは知性と落ち着きを瞳に讃えたような素敵な女性だったね」
 
 急に褒めないで。照れる。
 
「でも、どこか達観しすぎというか、俯瞰で見ているというか、なんとなく距離……というのもちょっと違くて、居る階層が違うみたいな、そんな印象があったんだ」
 
 寂しそうな声。私も寂しくなる。そうさせたのは私なのだろうけど。
 
「だから、いのりが私との距離を詰めてくれたのは意外だったし、嬉しくもあった。それで、付き合っていけばいくほど、いのりの本当の姿が見えてきて。いのり美人さんなのにさ、考え方大人っぽいのにさ、中身すごい可愛らしいんだよ? 気付いてた?」
 
 私、完璧な姉を目指していたから。完璧な姉に可愛らしさも必要なら、それは持ち得ていても不思議じゃないよね。気付いてたって質問に素直に返すなら、気付いていない、というか意識したことなかったからよくわかんないんだけども。
 
「そんないのりが、がんちゃんのお姉さんとして頑張ってて、言っちゃあれだけど、無理してるように見えるときもあって。でも、がんちゃんと一緒にプレゼンとか取り組むようになってから、目に見えて仲良し姉妹になっていったじゃない? 同時にね、目に見えて、いのり一層可愛らしくなっちゃって。時にはがんちゃんの方がお姉さんに見えることすらあったくらいだよー」
 
 ほづみ、何を笑っているの。もしそんなことがあったのなら由々しきこと。笑い事じゃない。
 
「そんないのりを見るのが、本当に、心の底から、嬉しかったんだ。いのりがすっごく楽しそうで、幸せそうで」
 
 確かに、楽しかったし幸せを感じることは増えたかな。
 
「これから、この姉妹は、きっとお互いの良さで支え合って、笑い合って、並んで歩んでいくんだろうなって。私たち姉妹も見習って一緒に楽しく生きていこうって思えたんだよ」

 
 ほづみ。ごめんね、ほづみ。
 笑顔がよく似合う素敵なひとに、似合わない顔をさせてしまった。
 
 
 ほづみはただ、そこを見ていた。しばらくそうして、「また、来るね」と言葉といくばくかの心を残し、その場を去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

処理中です...