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客席
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ステージ上ではすべての演者が、持つ力、気持ちのすべてを解き放っていた。
客席へと届けるように。
熱を浴び、受け取った観客もステージの進行と比例して熱気を帯びてゆく。
一曲目から盛り上がりを半ば強要するかのが如くの早く強いリズムの楽曲が続く。曲調にふさわしい激しさと艶やかさで踊るダンサーたちにも当てられた観客たちの興奮具合は、ステージ上からもよくわかった。
客席と近い分、ステージと客席の温度差がほぼ無い。
それは、客席から見えた両親も同様だった。
がんちゃんに目線を送ると、がんちゃんも目で返してきた。がんちゃんも両親の存在には気づいているようだ。
がんちゃんに少し気合いが入ったように感じたのは私の思い込みだが、きっと気のせいではない。
およそ、はしゃいだり盛り上がったりといった系統の感情の起伏を見せたりはしない両親が、音に合わせて身体を揺らしたり、周囲の観客と一緒に手拍子を打ったりしている。動画を撮ってくれてもいる。
父は姫田グループ本体の営業職だ。
新卒時も営業として配属され、派手さはないが堅実な営業スタイルで新規取引先の開拓のほか、既存の取引先の取引量の拡大など、着実で順当な成果の上げ方をし、同期の中ではキャリアアップは早い方だった。
都内ではあるが営業所勤務だった父は、若手ながらその営業所の中では常に上位の成績を収めていて、早々に本社への異動が決まる。
精鋭揃いの本社にあっても、地に足のついた営業手法は安定した成果をもたらした。
成果そのものに対しての評価も高かったが、何よりも安定感が大企業の基幹部門にとっては重宝されたようだ。
リーダークラスになり企画部門へと異動になったが、そこでも弛みなく緩みのない父のチームは盤石で、ややもすると面白みには欠けるが、会社の基軸となる事業の創出などにも携わっていた。
グループ化が加速し、優秀層の獲得に一層の力を割いていた姫田グループには、新進気鋭の新人が増え、ベンチャー思考のアイデアマンやクリエイターによる新たな取り組みがもてはやされ、功を奏してもいたが、だからこそ、一方で本筋の軸と土台を守る実質剛健な人材である父もまた重宝されていた。
簡単に言えば、みんな面白い方、派手な方へと行きたがる。そんな中で、地道で地味で、だけど大切な仕事を好んで全うできる優秀な人材は貴重だった。
新たな取り組みの萌芽は姫田グループが上場して以降の創業一族外の経営者に変わってから現れていて、以降基本的にはその流れは続いていた。
創業一族が経営についていた時の「基本に忠実」の考え方とは異なる方針である。
立ち上げ時、成長時、苦境時、拡大時、それぞれですべきことは異なるから、どちらが良いとか優れているとか、そういう話ではない。
事実、旧経営陣の成果で事業は拡大してきたし、新経営陣の成果で更なる発展も遂げている。
新経営陣の中にあっても一部創業一族の者も社内にはそれなりに残っていた。
当時の常務執行役もそのうちのひとりだ。
常務は一族外の経営者に協力的だったし、創業者一族であることを、むしろ意識させないように気を遣ってさえいた。
それでも、創業一家が運営してきた時のような価値観の持ち主の優秀な若手が目に入ると、「こんな若者もいるのか」と懐かしく心強い気持ちになったという。
順当にポジションを上げていく父は、管理職となって本社営業部に戻ってきた。
まだ若く、結婚をしていなかった管理職の立場の直属の部下となった父に、管理職クラスは家族を持っていた方が良いという少々古い価値観を持っていた常務が、親族の姪を紹介することになるまでさして月日は要らなかった。
客席へと届けるように。
熱を浴び、受け取った観客もステージの進行と比例して熱気を帯びてゆく。
一曲目から盛り上がりを半ば強要するかのが如くの早く強いリズムの楽曲が続く。曲調にふさわしい激しさと艶やかさで踊るダンサーたちにも当てられた観客たちの興奮具合は、ステージ上からもよくわかった。
客席と近い分、ステージと客席の温度差がほぼ無い。
それは、客席から見えた両親も同様だった。
がんちゃんに目線を送ると、がんちゃんも目で返してきた。がんちゃんも両親の存在には気づいているようだ。
がんちゃんに少し気合いが入ったように感じたのは私の思い込みだが、きっと気のせいではない。
およそ、はしゃいだり盛り上がったりといった系統の感情の起伏を見せたりはしない両親が、音に合わせて身体を揺らしたり、周囲の観客と一緒に手拍子を打ったりしている。動画を撮ってくれてもいる。
父は姫田グループ本体の営業職だ。
新卒時も営業として配属され、派手さはないが堅実な営業スタイルで新規取引先の開拓のほか、既存の取引先の取引量の拡大など、着実で順当な成果の上げ方をし、同期の中ではキャリアアップは早い方だった。
都内ではあるが営業所勤務だった父は、若手ながらその営業所の中では常に上位の成績を収めていて、早々に本社への異動が決まる。
精鋭揃いの本社にあっても、地に足のついた営業手法は安定した成果をもたらした。
成果そのものに対しての評価も高かったが、何よりも安定感が大企業の基幹部門にとっては重宝されたようだ。
リーダークラスになり企画部門へと異動になったが、そこでも弛みなく緩みのない父のチームは盤石で、ややもすると面白みには欠けるが、会社の基軸となる事業の創出などにも携わっていた。
グループ化が加速し、優秀層の獲得に一層の力を割いていた姫田グループには、新進気鋭の新人が増え、ベンチャー思考のアイデアマンやクリエイターによる新たな取り組みがもてはやされ、功を奏してもいたが、だからこそ、一方で本筋の軸と土台を守る実質剛健な人材である父もまた重宝されていた。
簡単に言えば、みんな面白い方、派手な方へと行きたがる。そんな中で、地道で地味で、だけど大切な仕事を好んで全うできる優秀な人材は貴重だった。
新たな取り組みの萌芽は姫田グループが上場して以降の創業一族外の経営者に変わってから現れていて、以降基本的にはその流れは続いていた。
創業一族が経営についていた時の「基本に忠実」の考え方とは異なる方針である。
立ち上げ時、成長時、苦境時、拡大時、それぞれですべきことは異なるから、どちらが良いとか優れているとか、そういう話ではない。
事実、旧経営陣の成果で事業は拡大してきたし、新経営陣の成果で更なる発展も遂げている。
新経営陣の中にあっても一部創業一族の者も社内にはそれなりに残っていた。
当時の常務執行役もそのうちのひとりだ。
常務は一族外の経営者に協力的だったし、創業者一族であることを、むしろ意識させないように気を遣ってさえいた。
それでも、創業一家が運営してきた時のような価値観の持ち主の優秀な若手が目に入ると、「こんな若者もいるのか」と懐かしく心強い気持ちになったという。
順当にポジションを上げていく父は、管理職となって本社営業部に戻ってきた。
まだ若く、結婚をしていなかった管理職の立場の直属の部下となった父に、管理職クラスは家族を持っていた方が良いという少々古い価値観を持っていた常務が、親族の姪を紹介することになるまでさして月日は要らなかった。
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