スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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思い出と想いと

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 私は、完璧な姉を目指していたから。
 がんこが、思うように望むように生きられたら良いと思っていた。
 そのためなら、なんだってしようと思っていた。

 そこに私のエゴも欲も必要ない。
 がんちゃんが「善い」と思える人生を歩む。それがすべてだった。
 たとえその想いが、家族を否定し、私を拒絶するものであったとしても。
 

 理性ではいつもそう考えていた。
 だけど、そんな時いつも思い出すのは、幼かった日々。
 がんこと過ごした日々のことだった。


 一緒に川を見に行った。

 一緒に夏祭りも行った。花火も見た。

 一緒に公園で遅くまで遊んだ。

 一緒に桃鉄もやった。九十九年に挑戦しようとして、二十年で挫折した。

 一緒にシールも集めたし、夏休みに姉妹だけで祖父母の家に行く大冒険もした。

 チョコタルトを作った。しらたま団子も作った。卓球をやった。かわいい文房具を買いに行った。アイドルグループの歌を一緒に歌った。それなりにケンカもあった。近所の猫にこっそり餌をあげた。私の友達とがんちゃんの友達みんなでオリジナルの鬼ごっこをやった。滅多に降らない雪が積もったときは雪だるまと雪うさぎと雪いもむしを作った。

 スライドのように思い浮かぶ場面場面が次々と重なる。
 挙げていけばきりがないほどの想い出たち。
 湯水のように湧いて出てくる思い出と、思い出がつれてくる感傷を、まとめて理性で塗りつぶし、蓋をしてきたのだ。


 だけど。


 サンバとの出会いががんこの意識を少し変えてくれた。


 私を避けなくなったがんこ。
 同じ趣味を、同じサークルへの所属を、許容してくれたがんこ。
 今ではほづみとひいの姉妹のように、仲の良い姉妹と言える関係にまでなっている。


 私の理性の蓋なんて脆いものだった。

 がんちゃんと同じ趣味に取り組み、一緒に練習したり買い物に行ったりする日々のなんて幸せなことか。


 今が輝いていればいるほど、失われた数年間が泣きそうになる程口惜しい。

 今の輝きが眩しく煌めいているのがとても尊く、それを未来へと繋いでいけることが泣きそうになる程嬉しい。


 今を失うことなんて、もうできそうにない。
 たとえがんちゃんが望んでも。仮にその方ががんちゃんにとって良かったとしても。
 私は私のために、それを手放したくないと思ってしまうだろう。


 大丈夫。

 私は私に言い聞かせる。
 私ががんちゃんの人生にとって、益になれば良いのだ。永劫に。

 私にならできるよ。
 根拠のない自信だけれど、いつだって目標や夢に根拠なんてないものだ。
 それを計画と行動で根拠に仕上げていく。常日頃やっている得意分野ではないか。


 私はできる。


 ライフステージが進むに従い、生活が分たれることはあるだろう。
 それでも私は、ずっとがんちゃんにとって伴走、または伴奏の相手足る姉でいたい。


 いつしか生まれた新たな祈りをマレットに込めた。
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