スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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準備万全!(LINK:primeira desejo 133)

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 メイクが出来上がり、テンションが上がってきた。そのままの勢いで着替えも終わらせてしまおう。
 倣うようにがんちゃんも着替えに入る。
 
「着替えちゃうと、いよいよ本番って感じだねー」
 
 私が言うと、がんちゃんは祷は緊張しないのかと問うてきた。
 確かに、がんちゃんには血色がよく見えるメイクが施されているはずなのに、心なしか血の気が引いているように見える。


 緊張しているのかな? 怯える小動物みたいでかわいい。が、このままにはしておけない。


 デビューがまさかの収容人数二万人弱のスタジアムでという大舞台だ。
 勿論、キャパいっぱいに観客が入っているという環境ではないが、会場の持つ威容は演者を呑むこともあるだろう。

 
 私はがんちゃんの頭にそっと手を載せる。
 掛ける言葉ががんちゃんの耳から脳を通って理解のフィルターを経て心へと届くように。
 撫でる手の温かさと感触が髪と頭から浸透し心を解きほぐすように。

 
 緊張は、認識すればするほど自己主張を始めるものだ。
 消そうなんて思った時点で緊張に捉われてしまうことになる。
 消せないのなら、在るものとして受け入れれば良い。
 そのための考え方のコツのようなものを、手から伝わる温かさと一緒にじんわりと伝わるよう、ゆっくりと語って聴かせた。そして、がんちゃんと一緒に、深い呼吸を数回繰り返す。

 具合を尋ねると、大丈夫そうだとの答えが。
 血の気も戻っているようだし、心配はないだろう。

 
 準備を終えたひいとほづみがやってきた。
 がんちゃんのメイクを褒めていたひいだが、ひいも、そしてほづみも、ダンサーだけありメイクの仕上がりはさすがだった。瞼にはラメ、目元にはスパンコールがついている。

 四人できゃーきゃー言いあい、出陣前の写真などを撮っているうち、がんちゃんの緊張は完全にほぐれたようだった。

 それは私も同様だった。

 私だって、人並みに緊張くらいする。
 緊張はうまく使えばパフォーマンスの向上にもつながるから、コントロール下に置くようにしているに過ぎない。メンタル面のことだから、それが言うほど簡単ではないことも理解している。
 だから、場の空気が緊張をほぐしてくれるのはありがたい。
 このチームでは人間関係の良さによる効果が、きっと各所で発揮されているのだろう。
 
 練習による技術面。準備による環境面。仲間による精神面。
 すべてに於いて、十全だ。後はこの恵まれた状況を充分に活かし、実演するのみ。
 周囲のメンバーもそれぞれ、仕上がったような表情で待機場へと向かっていった。
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