スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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準備(LINK:primeira desejo 132)

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 入り時間はパフォーマンス開始時刻の遅くても二時間前には設定されることが多い。今日に関しては更に余裕がある。
 ダンサーほどには衣装やメイクに時間を要しないバテリアにとっては、空き時間の過ごし方もひとつの課題だが、どんなに時間に余裕があろうが、その時間は意外とあっという間に訪れるものだ。
 
 時間の経過と比例するように緊張感が高まっていく控室内。
 黙々と準備に集中するダンサーたちの邪魔にならぬよう、がんちゃんと一緒に今日やる楽曲をスマートフォンで小さめの音量で流し聴いていた。
 先に着替えてしまっても良いのだが、着替えは一瞬で終わる。本番をピークに持っていくなら、できれば直前に近い時間に準備を終え、心身ともに本番に挑むといった風情に整えたい。
 
 ほかのバテリア女性メンバーも、メイクをしたり帽子にファンキーなウィッグをつけたりと準備を進めている者も居る一方、まだのんびりとスタジアムで買った軽食を食べている者も居る。
 
 そうこうしているうちに準備を完全に終えた状態を指す「完スタ」まで一時間を切っていた。
 未だ余裕はある、が、せっかくだから舞台用にメイクを整えてみようか。
 
「がんちゃん、今日は舞台映えするメイクでいこう」
 
 がんちゃんにもメイクを促す。

「どうやるの?」というがんちゃんに、立体感を出すためのハイライトとシェーディングを自分の顔に入れてやり方を見せる。
 
 がんちゃんは通常のメイクセットしか持っていない。今使用した道具を貸すと、がんちゃんも私の顔と鏡の中の自分の顔を見比べながらメイクを始めた。
 少したどたどしさはあるもののうまく顔全体が引き締まるように陰影を出すことができた。
 続いて、ポイントを少し濃いめに仕上げる。アイブロウは長く濃く、アイラインはダブルで引く。

 今回のバテリアは深紫色を基調としたデザインのロングシャツに同色のリボンを巻いた中折れハットだ。
 いつもの明るく派手なTシャツと違い、クールでとがった印象となる。脱着時にメイクが付く心配のない前閉じのシャツというのもありがたい。

 軸となるカラーの深紫に合わせるようにパープルのアイラインを入れた。がんちゃんも同じカラーだ。
 続いて、血色がよく見えるチークを入れる。
 リップまでパープルはやりすぎだろう。ここは強めのレッドにしておく。がんちゃんはオレンジ系が似合うかな? と思ったが、ここはせっかくなのでアイライン同様に姉妹で揃えよう。うん、白い肌にレッドが良く映えていて美しい。

 がんちゃんの幼さの残る顔立ちに妙な妖艶さが漂って、これはこれでアリだね!
 
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