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当日(LINK:primeira desejo 132)
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昨日はよく眠れた。晴れ渡る空と少し張り詰めたひんやりした空気が心地良い。
昨日の居酒屋では比較的早く解散した学生メンバーはそれぞれスッキリとした顔をしていた。ひいがやや眠そうにしているが、寝付けなかったといった感じではない。
夜が深そうだった居酒屋に残った組の大人たちも、お酒の影響もほとんど感じさせず、なんなら学生メンバーよりも元気そうだった。
さすがだなぁ。
チームで集合し、集団で移動した私たちは、スタジアム前で『阿波ゼルコーバ』担当の井村さんに出迎えられた。
ハルとのやり取りを一通り終えた井村さんは、全員に向かって快活な挨拶をし、続いてプレゼンメンバーの私たちの元へとやってきた。
「改めて、ようこそ徳島へ! 長旅だったでしょう? お疲れ様です」
「お招きいただきありがとうございます! 徳島、素敵なところですね。一昨日の到着した日から堪能させてもらってます」
徳島らーめんや鳴門の大渦を見に行ったことなどを話す。
井村さんも程よい徳島自慢を交えながら話題を広げてくれた。大渦で取った集合写真を見せると、「いやあ、皆さん、さすが! ただ者ではない何者かに見えますねー!」とよくわからない褒め方をしてくれた。
「今日のサンバも楽しみで! プレゼンもモニター越しながら感動しちゃってねぇ。がんこちゃんと祷ちゃんの太鼓の迫力! あまり体格のことを取沙汰するのは良くないのかもしれませんが、小柄だったり細身だったりふるおふたりが、あれだけの重い音を響かせている姿は心震えたし、穂積ちゃんと柊ちゃんの十代とは思えない妖艶さがありながら、十代ならではの躍動感たっぷりのダンスには心つかまれ、興奮させられましたよ!」
モニター越しとは言え何度かやり取りをするうちに、井村さんは私たちをちゃん付で呼ぶようになっていた。
それは距離感と親近感の表れで、常に敬意のある言い方をしてくれる。
実は同様の褒められ方は既に何回かされていたが、直接会ったのは初めてだからか、改めて熱く語ってくれるのがすこしくすぐったかった。
「四人で、モニター越しで、あの感動! 今日は団体で、目の前で、サンバの神髄を見せていただけるものと期待のあまり、眠れないんじゃないかと思ってましたよ」
ってことは、眠れたんだね。
井村さんは本当に興奮しているのだろう。快活でしゃべり慣れている印象だったが、やや文章が取っ散らかっていた。
「いやー、がんこちゃんの太鼓、楽しみなんだぁ」
がんちゃんに絡み始めた。まあ爽やかだし、本気で褒めてくれているのだし、良いだろう。
「あ、ありがとうございます!」
「娘にもみんなの映像見てもらってねぇ。娘、三歳なんだけど、『おねえちゃんたち格好良い!』って」
娘さんがいるのか。子煩悩そうだな。
「『おねえちゃんたちやる!』って騒いでいるから踊るのかなって見ていたら、太鼓の真似事が始まっちゃって」
え、それは光栄だなぁ。
「うちの娘はすっかり祷ちゃんとがんちゃんに憧れちゃってるみたいでさ。今日を楽しみにしていたんだ」
「ありがとうございます、嬉しいです! 娘さんなんてお名前ですか?」
がんちゃんも嬉しそう。
井村さんが娘さんの名前を答え、がんちゃんは「かわいい名前! 葵ちゃんに喜んでもらえるようがんばります!」と気合を入れれば、井村さんは一層相好を崩すといった平和なやり取りが繰り広げられていた。
井村さんが特権を使ったのかどうかはわからないが、子連れで今日の場に臨むようだ。親子で本当にこの日を楽しみにしてくれているのがわかった。
語り足りないのか少々名残惜しそうな井村さんとのやり取りをハルはうまく切り上げ、先方のスタッフさんと連れ立ってチームを控室へと先導した。
昨日の居酒屋では比較的早く解散した学生メンバーはそれぞれスッキリとした顔をしていた。ひいがやや眠そうにしているが、寝付けなかったといった感じではない。
夜が深そうだった居酒屋に残った組の大人たちも、お酒の影響もほとんど感じさせず、なんなら学生メンバーよりも元気そうだった。
さすがだなぁ。
チームで集合し、集団で移動した私たちは、スタジアム前で『阿波ゼルコーバ』担当の井村さんに出迎えられた。
ハルとのやり取りを一通り終えた井村さんは、全員に向かって快活な挨拶をし、続いてプレゼンメンバーの私たちの元へとやってきた。
「改めて、ようこそ徳島へ! 長旅だったでしょう? お疲れ様です」
「お招きいただきありがとうございます! 徳島、素敵なところですね。一昨日の到着した日から堪能させてもらってます」
徳島らーめんや鳴門の大渦を見に行ったことなどを話す。
井村さんも程よい徳島自慢を交えながら話題を広げてくれた。大渦で取った集合写真を見せると、「いやあ、皆さん、さすが! ただ者ではない何者かに見えますねー!」とよくわからない褒め方をしてくれた。
「今日のサンバも楽しみで! プレゼンもモニター越しながら感動しちゃってねぇ。がんこちゃんと祷ちゃんの太鼓の迫力! あまり体格のことを取沙汰するのは良くないのかもしれませんが、小柄だったり細身だったりふるおふたりが、あれだけの重い音を響かせている姿は心震えたし、穂積ちゃんと柊ちゃんの十代とは思えない妖艶さがありながら、十代ならではの躍動感たっぷりのダンスには心つかまれ、興奮させられましたよ!」
モニター越しとは言え何度かやり取りをするうちに、井村さんは私たちをちゃん付で呼ぶようになっていた。
それは距離感と親近感の表れで、常に敬意のある言い方をしてくれる。
実は同様の褒められ方は既に何回かされていたが、直接会ったのは初めてだからか、改めて熱く語ってくれるのがすこしくすぐったかった。
「四人で、モニター越しで、あの感動! 今日は団体で、目の前で、サンバの神髄を見せていただけるものと期待のあまり、眠れないんじゃないかと思ってましたよ」
ってことは、眠れたんだね。
井村さんは本当に興奮しているのだろう。快活でしゃべり慣れている印象だったが、やや文章が取っ散らかっていた。
「いやー、がんこちゃんの太鼓、楽しみなんだぁ」
がんちゃんに絡み始めた。まあ爽やかだし、本気で褒めてくれているのだし、良いだろう。
「あ、ありがとうございます!」
「娘にもみんなの映像見てもらってねぇ。娘、三歳なんだけど、『おねえちゃんたち格好良い!』って」
娘さんがいるのか。子煩悩そうだな。
「『おねえちゃんたちやる!』って騒いでいるから踊るのかなって見ていたら、太鼓の真似事が始まっちゃって」
え、それは光栄だなぁ。
「うちの娘はすっかり祷ちゃんとがんちゃんに憧れちゃってるみたいでさ。今日を楽しみにしていたんだ」
「ありがとうございます、嬉しいです! 娘さんなんてお名前ですか?」
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井村さんが特権を使ったのかどうかはわからないが、子連れで今日の場に臨むようだ。親子で本当にこの日を楽しみにしてくれているのがわかった。
語り足りないのか少々名残惜しそうな井村さんとのやり取りをハルはうまく切り上げ、先方のスタッフさんと連れ立ってチームを控室へと先導した。
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