スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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私トーク

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「じゃ、いよいよ残るはいのりだね。いのりもいっぱいありそー」

 ほづみが興味深そうにこちらを見ている。
 ほづみとはふたりで会い、話すことも多い。お互いの恋愛事情なんかも話題に登ったことくらいはあったが、具体的なことを話したことも聴いたこともほとんどなかった。
 ほづみに気になっているひとがいたことも先ほどの話で初めて知ったくらいだ。
 それくらい、ほづみにとっても、私にとっても、恋愛ごとの優先順位は今の時点では高いとは言えないのだろう。


「ね。いのりももてそー」

 アリスンが無邪気に笑っている。片手にラーティアオを持って。
 ラーティアオはチュロスのような形状に辛味のある中華のお菓子、らしい。もはや驚きはしない。どこで買ったの? とは思うが。

 他の面々も、先ほどの笑いは引いていて、いつの間にか期待に溢れた目でこちらを見ている。

 
 来たか。しかし、トリになるとは。
 恋愛ごとに対して優先順位が高いとは言えない私の手札で、この場の期待にどう応えようか。

 話なんてどうにでもなる。体験談があればそれを言っても良いし、無ければ話のひとつふたつ、つくったって良い。
 まあみんな同じエスコーラで同じ目的をもってサンバを楽しむ仲間だ。仲良くさせてもらっている友だちでもある。誠意ある話をするのがふさわしいだろう。私のことを知ってもらいつつ、場が盛り上がる話が良いだろうか。

 わたしは体験に基づきつつ、自分の恋愛観から人生観、死生観に至るまで、語って聴かせた。

 
「いのり、なんか、すご」
「ふぇー、やっぱわたしには手に負えーん。恋愛はしばらくは良いや」
「ねー。なんか細かいとこで好きだのなんだの言ってるのがどうでも良くなる」
「うつつ軍団とか言ってたのが恥ずかしいっ」
「そういう気持ちは未だ残っていたんだ?」
「うっさい!」
「がんちゃん? 無みたいになってるけど大丈夫?」
「あ、いや、祷のそういう話、聞いたことなかったから、なんかちょっとびっくりしちゃって」
「いのりってなんか達観してるというか、視座が高いと思ってたけど、人生何週目?」

「あれ? でもよくよく考えたら......」
 
「あはは、あまり面白い話じゃなかったかなぁ?」

 がんちゃんが何か言いかけていたが被せておいた。
 意外と鋭く俯瞰でものを見られるがんちゃんが何を言おうとしていたのか、予想はできるが実際のところはわからない。だが、あの入りで始まる話は大概前提に関するクリティカルシンキングだ。
 例えば、「そもそも祷の恋愛の話、してなくない?」とか。
 憂の芽は潰しておくに越したことはない。


 話し終えてのいちごポッキーは甘さが染みる。そんなつもりはなかったが、熱のこもったトークになっていたのかもしれない。
 
「面白い面白くないは、うん、そういう次元じゃない話だった。勉強になったと言えば良いのか、参考にしたら良いのか、何を参考にすれば良いのか、ちょっとよくわかんなくなっちゃったけど」

 
 それなりになんとかなった、かな。凌いだと言っても良いかもしれない。
 最後は多少力技も使ったが、差し出したいちごポッキーをぽりぽり齧っているがんちゃんを見るに、本人の関心ももう他所に移っているのだろう。
 
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