スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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 思いがけずに訪れそうな、がんちゃんの恋バナ。
 ここで我慢も堪らず飛びつくなど狩人としては三流以下。

 冷静に。
 頭を鋭利な日本刀のように研ぎ澄ませ。
 冷徹に。
 心を天空の鏡と名高いウユニ塩湖のようにさざなみひとつたてず。
 鋼の如き不動心を以てこの場に臨む。


 密かに深く呼吸をし、精神を整える。


 さて。
 昂りを消し、焦りを消し、逸りを消し、殺気を消し、衝動を消し、気配をも消して。
 獲物にすら気づかれぬうちに仕留めて見せようか。


「そういえばうちはあまりそういう話ししないよね。せっかくだから、話してみようか? ん?」


 がんちゃんが「えっ?」て顔でこっちを見ている。

 間違えたーっ‼︎
 露骨に促しちゃってる。
 そもそも私の体勢どうだった? 前のめりになってなかっただろうか。
 声は? 急かすようになってはいなかったか?

 シンプルに、がっついているように見えなかっただろうか。

 ここでのリアクションは、「柔らかい笑顔でただ微笑んでいるだけ」が正解だ。
 しくじった。


 しかしがんちゃんは、特に気にした様子もなく、
 
「んー、話すのは良いんだけど、話すことない。うちでも話さないというより、そもそも話すことないから」
 
 え? 要は恋人なんていないから、それにまつわる話は無く、好きなひとや気になっているひとすらまったくもっていない、ということ?
 そんな傾向は感づいてはいたけど、高校生にもなれば、家族に感知されない感情の動きの一つくらいはあるかもしれないと思った期待すら空振りするとは。
 
「えー、隠してない? 全然ないの?」
 
「ない」

 即答か! そんなにまでも、「何も」無いとは。
 
「じゃあどんなひとが好きなの? それくらいあるでしょ?」

 今度は長考か。そんなに考えることかなぁ。
 くー、それにしても、考え悩むがんちゃんもかわいいなぁ。

 
「価値観の合うひと?」

 
「百万人いるわ!」
「なんで疑問形なの」
「結婚相談所の担当者が悩むやつ!」
「趣味読書みたいな言い方止めて!」
「好みってそういうことじゃなくない?」
「がんちゃんかわいー」

 考え抜いた答えとしては、あまりにもひどい。
 堪らずに全員がいっぺんに突っ込んだせいで、誰が何を言っているのかは聞き取れなかったが、その言は一様に同じ方向性を示していたようだ。いや、アリスンだけ突っ込みではなかった気もするが、それも大枠で捉えるなら同じことを意味している。
 つまり、がんちゃんは未だ、恋愛をするという精神構造に至っていないのだ。
 それならそれで良い。慌てて成長する必要なんてないのだから。自然の流れで育っていく感覚だ。今は温かく見守ろう。
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