スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ありがちなトーク

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 淡々と事の顛末を語ったみことは、BARでグラスを傾ける良い女のようにモンスターエナジーをクイっと飲む。

 え? エナドリ? 寝る気ない? ノンカフェインでって言ったよね?


「ひいはどーなんよ?」

 ベッドとベッドの間のサイドテーブルにモンスターエナジーの缶を「トン」と音を立てながら置き、みことが切り返す。
 
「ぜんぜん」
 
「なにが?」
 
「ぜんぜんもてない」
 
「なんで? 仮にもほづみの妹でしょ? 少しは似てるとこあんじゃん」

 ほづみは他人事のようにカールを口に運んでいる。関東ではもう食べられなくなった名作お菓子だ。私も釣られて手を出した。
 ほづみにとっては、自身が異性にモテるという話題は日常的過ぎて、気心の知れた間柄の中にあっては、今さらいちいち否定したり謙遜したり照れたりする必要は無いのだろう。

 
「おねーちゃん紹介してはよく言われる。わたしはぜんぜんもてない」
 
「なんでちょっとカタコトみたいなってんの」
 
「ワタシ、ゼンゼンモテナイ」
 
「わざとやってんね」
 
「まあひいは性格がね」
 
「気性が粗くて食べてばっかとか?」
 
「それは悪口じゃん!」
 
「まあそれもあるけど、たぶん、男同士の友だちみたいになっちゃうんじゃないかなー」
 
「ああ、それわかるー」

「すぐふざけるし」
 
「そもそもひい自身、言うほどカレシ欲しいって思ってないでしょ?」
 
「まーねぇ、正直面倒っぽい」
 
 ひいは姉のほづみが面倒見が良いからか、姉妹では甘えているが、姉の元を離れると、ほづみの気質が受け継がれていて、意外と姉御肌なところがある。
 友だちの恋愛相談なんかも割と受けるらしい。
 友だちからの一方的な言い分だから、彼氏が悪く言われがちなのは仕方ないとして、それを多少差し引いてもひいの価値観からすると男子ってクズだなと思わせることが多かった。
 別の則面では、友だちとして付き合っている女子の、普段とは異なる考え方や状態に、それはそれで女ってなんて面倒な生き物なんだろうと思うこともあり、そうさせてしまう恋愛というものにのめり込もうという気にはなれなかった。

 好みのタイプはあるから、いつか気に入った人ができたら、持ち前の所突猛進でもぎりとってくるのだろう。
 尚、最近近所のコンビニに入った大学生くらいの店員が格好良かったらしく、「どんな⁉︎」と騒ぐみんなに、妙に照れながらスマートフォンで撮った写真を見せた。
 三分の一は「なるほどー」といった微妙なリアクション、三分の一が「どこが?」と言う辛辣なもの、残りが「隠し撮りやめとけ」と至極まっとうな意見だった。
 
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