スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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到着

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 ルイの想いや考え。歩んできたこの数年間。
 そんな話をしていたら、あっという間に徳島に着いていた。


 空港に降り立つと、東京よりもやや肌寒いように感じた。


 明日は現地サンビスタとの顔合わせ兼、初且つ唯一の生音で合わせられる機会だ。
 大事な日ではあるがそこまで朝早いというわけではない。
 取ったホテルもみんな同じだ。寝たい者、疲れた者に強制はしないが、できれば長い夜をおしゃべりに興じたい。

 
 まずは腹ごしらえだ。

 
 徳島はご当地ラーメンがある。
 メンバーでごはんに行くと、なんとなくらーめん率が高い気がするが多分たまたまだ。


 飛行機に乗る前から、本日の夜ごはんをどうするかはおおいに論じられた。
 機内で済ますという選択肢も一瞬持ち上がったが、やはり、どうせなら、現地でご当地物を食べたい。
 しかし、地方の夜は早い。
 到着の時刻では、多くのお店は閉まっているだろうから、遅くまで開いている印象のあるらーめん屋にしようと協議していたのだ。
 ところが、予想に反し個人店のらーめん屋も閉まっていた。
 協議中、徳島のご当地グルメをグルメサイトで調べたはずだ。そこで徳島らーめんの存在を知り、いくつかの店舗に目星もつけていた。
 にも関わらず、閉店時間については見逃していたというのか。浮かれすぎていたかもしれない。

 至急調べ直し、まだ開いているお店を探す。
 結局私たちはチェーン店に入ることになった。
 チェーン店と言っても、近隣エリアから関西くらいまでに展開しているフランチャイザーで、関東では食べられないのだから、そこにしようということになった。
 地方でせっかくいくのなら、チェーン店より個人店の方がという思いもなくはないが、それこそ思い込みというやつだろう。
 ドミナントで展開しているローカルのチェーン店は、元々は個人店で、人気が故に拡大した背景を持つところが多い。
 味の継承についてはオーナーの考え方次第で、店舗ごとに個性を許しているところもあるが、この店舗は公式ホームページで統一のメニューを提示していることから、クオリティコントロールはなされているだろう。とはいえ、大規模チェーン店ほど工業化はされていないはずで、地方のご当地グルメを楽しめる店舗としては問題ないと思えた。

 時間的にもみんなお腹が空いているようで、駅から徒歩五分ほどのその店舗に、みんな早く行こうと大荷物を引きながらも少し小走りだった。
 空腹と寒さが重なると、震えが止まらなくなることがある。早く温かいスープを身体に入れたかった。

 
 徳島らーめんは茶系、白系、黄系とスープの色味で三種類にわけられる。
 私たちが入ったお店は茶系のお店だ。各系列は発祥地名で呼ばれることもある。茶系は徳島系とも呼ばれている。
 徳島らーめんは濃厚なとんこつが特徴だ。
 徳島には古くからハムの工場があり、豚骨が安く仕入れられたことが発端と言われている。


 温かな夕食で、身も心も満たされた私たちは、駅前のホテルへ。
 チェックインを済ませそれぞれの部屋で荷物を置いてから、温泉が引かれている最上階の大浴場で集まった。
 大浴場は二十四時に閉じてしまう。
 大浴場に身体を浸し、身体をほぐし心を解放する。旅の疲れを取ることはできたが、少々忙しなく、十一階からの展望を楽しみながらゆっくりできなかったのは心残りだった。朝は六時から開いているようだから、朝食前に朝風呂も良いなと思った。


 お風呂上がり。誰ともなく、「どうする?」との声が上がる。
 濃厚なとんこつラーメンを食べたばかりだ。
 やはりすぐに寝るのは身体に良くない。おしゃべりして腹ごなししよう、とほぼ全メンバーが私の部屋に集まった。
 マルガだけは、肌のことを考えもう寝るとのこと。娘が、その同世代とトークする場に親が参加することを遠慮したのかもしれない。
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