スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ルイの気持ちが込められたもの

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 ルイは微笑みながらじゃがりこを齧っていた。

 ルイが超えてきたものを思うと、かつて関係が冷えようとしていた同輩が、プレゼントした物を未だに身に着けていることに対して零れた先ほどの笑顔の意味が、特別なものであると理解できた。

 
 尚、余ったキーホルダーのうちいくつかは、その時、特に助けられた女性ダンサーに渡したらしい。

 ひとつは、その時期メインして使っていた瑠璃色の衣装をオーダーで製作してくれた、日頃お世話になっているフリーのサンビスタ。

 ひとつは、ルイと同じく創設メンバーの娘で、子どもの頃からダンサーとして『ソルエス』に所属し、ルイとは姉妹のように過ごしていたジアン。
 彼女は今はチームの旗である『バンデイラ』を司る『ポルタ・バンデイラ』という重要な立ち位置のダンサーだ。
 ポジションが変わっても、姉妹のような関係性は変わらず、ある日通話口で、泣いていることを悟られないようただ無言でいたルイに、ジアンは何も言わず、通話を切らず、ただ無言で付き合ってくれたのだという。

 ひとつは、成り行きと流れで結果として悩みの相談に乗ってくれたルイと同じ名を持つるいぷる。
 ジアンの職場の後輩であるるいぷるはジアンによく懐いていて、妹的立場を自認しているルイにとっては複雑な心境になる相手だった。
 誰に対しても垣根なく次々と仲良くなっていく姿に、同世代との関係作りもうまくいかなかったルイはコンプレックスを刺激され、正直言えば苦手意識を持っていた。
 だから、悩みの相談なんて、するはずはなかった。
 けれど、いつのまにかお互いの境遇を話すに至り、双方が相手のために涙するというよくわからない状況になったのだそう。
 その後、ある練習時に、るいぷるのちょっとした話題の振りにて、ぎすぎすした空気なんかなかったように、ルイはひいやみことと世間話に興じ、年少組三人やほづみも加わって和気藹々とした雰囲気を作ることができた。
 学生メンバー同士の関係性は、それをきっかけに明確に良くなった。
 ルイは密かに、るいぷるの作戦だったと思っていた。そのお礼として、渡したのだそうだ。


 当時ルイが仲間たちに配ったものの話を、隣の隣で聴いていたアリスンは羨ましそうな顔をしていた。

 
「その頃はいのりもがんちゃんも、アリスンも有働うどうくんと名波ななみくんも居なかったから。次行くときはみんなの分も買ってくるね」
 ルイは今では『ソルエス』のバンドメンバーでもあるタロとKHOを、サンバネームではなく学校での呼び方で呼んでいた。アリスンを含めた四人は、学校では軽音部で同じバンドのメンバーなのだ。


 
 もう二年経っている。同じシリーズのキーチェーンがまだ販売されているのかはわからないがその気持ちが嬉しかった。

 
「それは嬉しいなぁ。でも、ディズニーならみんなで行くって手もあるよね」

 
「あ、それ良い! 受験始まる前に行きたいなぁ!」

「行きたい! 実はあんまいったことないの」とアリスンも乗り気だ。ディズニープリンセスにもいそうなアリスンだが、彼女ならいつか、ハリーポッターのテーマパークでもできたら、すごく似合いそうだ。

 
 大人数になればなるほど、予定を合わせるのは大変だ。
 まして、学生は行事が多すぎる。加えて、定期的に人生の大事がやってくる。
 高校受験が視野に入ってくる中学生組、大学受験が控える高校生組、就活が始まる大学生組。学生と言う範囲でくくるなら、さらに下に小学生組もいる。
 幸い、それぞれの層の年齢がある程度揃っているため、最重要な進学や就職に関するイベントに動き始めるのはもう少しだけ先のこと。やるなら近い内だ。
 
 こうやってまたひとつ、やりたいことが増えてゆく。


 
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