スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
174 / 215

やり切った

しおりを挟む
 初めての観客に向けての演奏。
 盛り上がってくれた観客のおかげもあって、演者側の方も充分な満足感を得られていた。

 上気した表情のダンサー姉妹は、身体を冷やさぬようすぐに着替えていた。着替え終えても演技中の熱と高揚感をすこし引き連れてきているように感じた。ややテンションが平時よりも高い。
 それは、打楽器奏者姉妹の私たちも同様だった。
 さすがに舞台慣れしているキョウさんは何事もなかったように楽器を車にしまっていたが。


「祷! すごかったね! 楽しかったー。ごめん、ちょっとテンポ走っちゃった」

 がんちゃん。
 ちょっとテンション高い。
 すごく嬉しそう。

「あまり気にならなかったよ。私はズレてなかった?」

「うん、全然! セグンダが安定してるから叩きやすかった! 本当はプリメイラが軸にならなきゃダメなのにね」

「がんちゃんのプリメイラ、しっかりとベースになってたよ! 私の音がブレなかったのはベースの音のおかげだよ」

「そう? 良かったー」


 帰り支度を進めながら、お互いにその日の感想、と言うよりは、高揚感を吐き出す。
 その場に着替えを終えたダンサー姉妹と、魂を戻したがんちゃんの同級生たち三人も加わる。


「いのり、がんちゃん! おつかれー」
「楽しかったねー」


 三人はキョウさんを手伝いラゲッジスペースを整理し、空いた箇所に姉妹は衣装ケースを入れながら、口々に今日のパフォーマンスのことを話していた。

 余韻冷めやらぬ若者たちに、キョウさんは会場に来ていたピンクとホワイトで彩られたアイスクリームのキッチンカーでアイスクリームをご馳走してくれた。しかもダブルの大盤振る舞いだ。
 フレーバーも選べたので、黒蜜きなことティラミスにした。

 主催者のスーパーの店長さんからは、ブラジル食材をたくさんいただいた。
キョウさんの車に積まれた大きなクーラーボックスいっぱいの食材。姫田家はアサイーとザクロのスムージー、ポンジーニョというフランスパン、リングイッサ。冷蔵の必要のないフライドエッグフレーバーのポテトチップスとブラジルコーヒーの粉もいただいた。

 家庭でもブラジルが楽しめる。嬉しい。



 準備を終えた。挨拶とお礼も済ませた。
 遠足は家に着くまで、だ。最後まで気は抜けない。
 帰路も往路と同じ編成だ。


 解散する駅まで、私はほづみを載せて車を運転する。帰りもサンバの楽曲を流し、歌いながら。

 出演前にサンバを聴き、サンバイベントに出演し、帰りにもサンバを聴く。そして、考えることもサンバに関する割合が増えた。
 こんなにもサンバ漬けになるとはサンバを始めるまで思っても居なかった。


 それだけサンバには力がある。やはり広く伝えたいなと思った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

処理中です...