スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ほづみ

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 車中は心地良いリズムとメロディで満たされていた。
 サンバと言えば「騒がしい」「賑やか」「陽気」などのイメージがあるため、激しく派手な音や、原始的な打楽器による部族的なリズムを想像される場合もあるが、完成度の高いメロディと歌を持つ楽曲も多く、BGMとしても他ジャンルの音楽と遜色は無い。


 ほづみ。
 同じ性別で同じ年齢。同じ大学生という立場。同じ年齢の妹を持つ長女。


 彼女とはとても気が合う。
 複数の共通点。そのひとつひとつはさして珍しいとは言えない共通項。
 近しい環境が故の共通の話題が多いことは間違いはない。
 だが、さして時間をかけずに親密になれたのは、価値観や感性、考え方の近さや、相性の良さもあるのだと思った。

 ほづみとは最近は打ち合わせと称してファミレスやカフェで話すことが多い。
 打ち合わせはテンポ良く進む。お互いの言いたいことや考えが理解しやすいからだろう。これも心地良いが、決めることやまとめたいことを早々に終えた後の他愛のないおしゃべりもまた楽しくて、時間を忘れて話し込んでしまうこともしばしばあった。
 かと思えば、本を読んだりスマホをいじったりと、お互いにそれぞれ好き勝手な過ごし方をし、会話も無いみたいな時間も気まずくはならず、そしてまた何かのきっかけでおしゃべりの花が咲いたりする。
 勝手ながら、関係性としては理想的な在り方ではないかと思っていた。


 
 ほづみは同性の私から見ても容姿に恵まれた女性だと思う。
 その資質に増長することなく、穏やかさと人当たりの良さが同居した接しやすい人物で、芯には靭さも備えた人格者だ。

 人格的に優れている人物の周りには、相応の人物しかいないかと言われれば、なかなかそうはいかない。

 前向きで、誰に対しても分け隔てなく接し、明るく謙虚でひとのために働ける。
 そんなひとであっても、その容姿がために、当人が望んでいない評価を受けたり、筋違いな攻撃の対象になったりしたこともあっただろう。

 それはまだ幼かった心を傷つけ、打ちのめしたに違いない。
 それでも、その明るさは、謙虚さは、素直さは、損なわれることは無く、今も私の隣で花が綻んだように笑っている。
 その笑顔は、秋の日差しを受けて輝いていた。


 うん、今日も見惚れるくらいキレイだ。メイクも完璧。

 
 見た目の良い者はメイクに頼らなくて良い分、メイクの知識や技術が伴わないなんて説を聞いたことがあるが、ほづみに関しては当てはまらない。

 ダンサーなので舞台用のメイク技術の取得は必須ということもあるが、元々興味があるのか、普段のメイクも自身の特性をよく把握し、どう見せたいのかを理解し、適したメイクを実践しているように思えた。
 ひいのメイクをしょっちゅう手伝っているのを見るに、やはりメイクそのものが好きなのだろう。


 キョウさんが運転する前を走るハイエースに着いて行く。
 高速道路の案内標識が確認できた。カーナビが進路変更を促す。前のハイエースもウインカーを出し、車線を変えた。私もそれに倣う。

 車は高速道路に侵入していった。
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