スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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井村さん(LINK:primeira desejo 116)

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「ええと、入船さんのご姉妹が、踊られていたおふたり? こうして見ると、本当に学生さんって感じですねぇ。いやいや、もちろん姫田さんのご姉妹もですが、フレッシュで爽やかだ!」

 井村さんはもはや興奮を隠すつもりはないようだ。

「踊られていたシーンはしっかりメイクをされていて、幼さと妖艶さが同居する倒錯した魅力がありましたが、個人的な感想を言わせてもらいますと、それは表面的な魅力で、いざパフォーマンスが始まると、容姿それ自体よりも、表情に引力を感じました。そうして引き込んでからの、圧巻のダンス! こちらも、技術の高さ、完成度の高さによる美しさはもちろん高評価を得るべき内容だと思いますが、立ち上がらんばかりの情熱が、画面越しからも伝わってくるようでした!」

 
 あれは画面越しで見るには惜しい。直接観るべきものだと井村さんの興奮は覚めやらない。
 その内に井村さんから、サッカーの観方に関する持論が展開され始めた頃、安達さんにやんわりと軌道修正されていた。

 
「失礼! どうもね、良いものを見てしまうと。良いものはよりよく観たいと思いますし、世の中にもよりよく観てもらいたいという想いが強いもので」

 
 照れて頭を搔くという、マンガのようなリアクションをしている井村さん。

 なんとなく傾向が見えてきた。
 といっても人物を見極める観察眼が私にあるなんて話ではなく、要は見た目通りのひとなのだろう。見た目とは、簡単に言えば体育会系の営業マンといったところか。

 
「それは、姫田さんのおふたりの演奏にも言えます。データ化され、端末のスピーカーでもあの迫力だ。しかもたったふたりで。二曲目に至っては歌とメロディがひとり、打楽器がひとり。それでも少なからず心が震えました。
あれを大編成で、生の音で聴けるとしたら、どんなことになってしまうのか……。
これはもう、実際に体験する以外で確認しようがありません。
これまた個人的なことばかりで恐縮ですが、だから今から楽しみでならんのですよ。皆さんがスタジアムでパフォーマンスされることが」

 
 井村さんはプレゼンの内容にも触れ、これまた大仰に褒めそやした。

 勢いがあり、しかも褒めまくるものだから、がんちゃんやらひいやらは圧倒されつつしきりに照れていて、ほづみは笑顔と返事のみで井村さんの起こす波を上手く乗りこなしていた。

 ハルは代表として、私たちメンバーを誇ってくれながらも、決断してくれた姫田グループと、使ってくれる阿波ゼルコーバへ最大級の感謝と、その懐の深さへの賛辞の言葉を送り、会社とチーム、観客、そして個人としても楽しみにしてくれている井村さんに、期待以上の感動を与えることを強く約束していた。

 そういうところ、やっぱり代表だよなぁ。頼もしいな。
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