スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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幸福

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 木材に包まれた落ち着いた店内。
 店内で焼き上げているパンの香り。
 甘い食べ物。
 仲間たちの笑顔。

 おしゃべりは尽きない。


「ここの内装かわいくて良いよねー」

 私が言うと、ほづみは「マルガも連れてきたかったね」と、インテリアに興味を示しそうなメンバーに想いを馳せる。


「スイスって言えばさ、スウェーデンが『スイスではない! スウェーデンだ!』って外国人観光客向けのサイトをつくってたらしいよ」とみことが言えば、「じゃあスウェーデン出身のアリスンにも来てもらわないと」と、繋がっているようであまり繋がっていない論法でひいがまた別のメンバーの名前を出す。

 ここにいてもいなくても、みんなの心の中には常にメンバーが居るのだ。
 今この瞬間にも、別の場所では別のメンバー同士が話をしていて、例えば私やがんちゃんのことを話題に出してくれているのかもしれない。



「ホットドッグ来たときにひいも言ってたけど、スイスといえばチーズだよね」

 なんとなくメニューを眺めていたら、チーズフォンデュが目に入った。
 しかも、食後はリンツチョコレートのチョコレートフォンデュもある。

「今度は夜にごはん食べにきても良いかもね」


 私が言うと、みんな乗り気になってくれた。


 今回来れなかった、トークグループのメンバーも連れていこうと、満場一致で話はまとまった。



 やりたいことはたくさんある。
 やりたいことをひとつやると、そこから新たなやりたいことがでてくる。

 やりたいことをやって、やりたいことで日々を埋めていって。
 そうやって過ごしていけることは、きっとかけがえがない、貴重な時間なのだろう。

 そんな得難い日々を得られている幸福を、今は噛み締めよう。
 希少で貴重な、大切な日々を、大事に生きよう。



 帰り道。
 スルドの大きさは、その重さは、私が得たものの質量を表しているようで、持ち運びに掛かる負荷さえ心地良かった。


 専門店では各々戦利品を手に入れ、甘いものでお腹と心を満たした私たちは幸福感も抱いて家路へと向かう電車に乗った。

 五人の集団はそれなりに騒がしく、気を抜くとうるさくなりがちで、少しは気にしつつも、おしゃべりに花を咲かせて道行を楽しんだ。
 楽器店からほぼずっと、話し続けていたはずだが話題がまったく尽きない。

 途中興が乗ってしまったひいが、買ったばかりのガンザを出して音を出そうとしたので、みんなで押さえた。暴れ馬なのかな、この子は。

 さすがのほづみは手慣れたものだったが、がんちゃんもなんだかお姉さんのようで、普段はなかなかみることのできないレアがんちゃんを拝むことができ、思わぬボーナスがんちゃんに更に心を満たされながらの帰路となった。

 ああ。
 本当に。
 心の底から。
 スルドをはじめて良かった!
 
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