スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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あまいもの

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 スイスの山にあるようなログハウスはハーブガーデンに囲まれていて、東京下町の一角にスイスが現れたようだった。

 木を基調にした落ち着いた店内にはスイスの風景を写した写真や、スイスの雑貨が並べられていて、見ているだけでも楽しい。

 メニューを眺めているみんなは、多彩なラインナップにあれも良い、これも食べたいと騒いでいた。


 お礼なので全額出すつもりで、「好きなのを選んで」と言うと、それは負担を掛け過ぎだというほづみが折れてくれず、結局年長者同士で折半することになった。

 本来はそれぞれで出せば良いのだから、ほづみが負担増になる流れに巻き込んでしまったら申し訳ないなと思ったが、ほづみは率先してフレンチトーストにチョコレートドリンクを選び、ひいにも勧めているところから、金額はあまり気にして無さそうで安心した。

 私も好きなのを選んで、誰も遠慮なんてしないようにしよう。

 まずは「クップデンマーク」
 アイスクリームと凍ったベリーに温かいチョコレートをかけていただくスイスでお馴染みのスイーツだ。
 せっかくスイスをテーマにしているカフェなので、これはみんなにも食べてもらいたい。ほづみも、「あ、それも頼もー」と、オーダーに追加し、みんなも便乗してきた。


 このクップデンマークや、ほづみが頼もうとしているチョコレートドリンクもだが、この店で出されるチョコレートはスイスのリンツチョコレートを使用している。

 一方、このお店はスイスと強く関係していないメニューも豊富だ。
 私はもうひとつ、モンブランも頼むことにした。ここのモンブランはタルト生地に乗っていて、栗のペーストの中にクリームが入っているらしく美味しそうだった。

 ドリンクはペパーミントティー。

 私とほづみが複数のフードを頼んでいるを見て、ひいを筆頭にみんなも遠慮なく好きなものを頼んでいる。


 注文した料理の量が多かったからか、ひとつひとつの料理を丁寧に仕上げているからか、多分その両方だからだろうが、料理が出てくるまでに少し待たされたが、待たされた分、提供された料理はどれも輝いて見えた。

 モンブランをスプーンで削り取り、口へと運ぶ。
 下の上に届けられたペーストから栗の風味が口内いっぱいに広がる。

「わ、おいしー」
「え? うまーっ」
「んーっ」

 思わず声が漏れた。
 生地はサクッとしていて、ひかえめな甘さがゆっくりとひろがってゆく。
 粉の軽さと食感、油脂の重めの濃厚感が絶妙に溶け合い、栗の風味に厚みと深みを加えていた。


「これもおいしい!」


 私の言葉に答えるようにみことからも感嘆の声があがる。


 甘いものは人を幸せにするよね。
 スプーンやフォークを口へと運んでいるみんなはとても幸せそうだった。
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