スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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スルドを買おう(LINK:primeira desejo 115)

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 先日のイベントの打ち上げで、スルドを買いたいというようなことを言っていたら、ブラジル楽器の専門店のことを教えてもらった。
 その場で買い物の予定を立てた私にほづみ、ひいの姉妹とみことが付き合ってくれることになった。
 がんちゃんは言わずもがな。最初から頭数に入れている。

 五人で入店した店内から圧迫感を感じたのは、こちらの人数が多かったせいだけではない。

 さほど広くない店内には、楽器が所狭しと並べられている。というより積み上げられている。


 売場の作り方や陳列の仕方に於ける「圧縮付加法」は、昔の駄菓子屋の陳列がわかりやすい。高級感や見やすさ、選びやすさは損なわれるが、賑やかさや楽しさが増し、購買意欲が増すのだ。

 厳密には売れる商品と売れない商品の見極め、優先順位を付与しての経営資源の投下判断に使うマーケティング手法だが、売り場の工夫による販促手法としても使用できる。
 単なる陳列方法としてのみ使う場合は、先述の駄菓子屋の他、古本屋や雑貨店など比較的規模の小さい個人店と相性の良いやり方だが、成功を積み上げ大手となったヴィレッジヴァンガードやドンキホーテも、圧縮付加法に近い陳列手法や、圧縮付加法を応用したような陳列手法を取り、成果をあげている。


 この楽器店が同様の論理で陳列を行っているかは不明だが、楽器の密林に迷い込んだ私の心は、まんまと浮足立っていた。

 まずは本命のスルド。

 声を掛けてくれた店長さんらしき方に、サンバのバテリアで、セグンダという用途を伝える。


 売り場面積のほとんどが商品で占められている店内には他の従業員は見当たらない。バックヤードまでは把握できないが、せっかく声をかけてくれたのだからしっかりと接客は受けさせてもらおう。

 四十代にも六十代にも見える年齢不詳の男性は、長髪にきつめのパーマをかけ引っ詰めたスタイルにやや色の入った丸メガネ。顎鬚には手入れが行き届いていることから、ざっくばらんな印象とは裏腹に、意外と肌理が細かいのかもしれない。そういう意味でも楽器を扱うに足るひとである可能性が高い。

 いかにも一癖も二癖もありそうだが、この類の店舗に於いては、個性的でマニアックな印象はむしろ安心材料だ。
 年齢的にも経験は豊富そうだし、専門店ならではの深い知識によるお薦めや提案は素直に聞いて良いだろう。

 個性的だがとっつきにくさはなく、むしろフレンドリーな笑顔に促されるまま、サンバのエスコーラがパレードやステージのセグンダとしての用途に適しているスルドをいくつか試させてもらった。

 音を鳴らすだけでなく、実際にパレードを想定し、肩にかけ歩いてみる。
 少しやってみただけでは正直なところよくわからない。長時間に及べば大きな影響が出るのかもしれないが、それはさすがに試せない。


 以前チカから教えてもらった情報も参考にしながら、その範疇にあるものならどれを選んでも大勢に影響なしと判断し、理由を言語化できない「なんとなく」良かったものを直感で選び購入した。

 色のついたメガネの奥の目が柔らかい笑顔の形を作っていて、「良い買い物をしたね」と言っているようだった。
 

 こうして私の「愛機」はあっさりと決まった。あっさりしすぎていて、買い物欲が満たされたとは言い難い。
 
 予め聞いていたスルドの価格帯の中で、高い方に合わせて予算を組んでいた。
「愛機」は真ん中くらいの価格だった。予算にはまだ余裕がある。

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