139 / 215
パレードスタート(LINK:primeira desejo 111)
しおりを挟む
パレード開始位置に着くと、演者たちは隊列を展開していく。
先頭は先導役の主催側スタッフとパレードの進行を管理する『ソルエス』側スタッフの『アルモニア』に続き、男性ダンサー『マランドロ』三人。
その後『パシスタ』、『バイアーナ』、『カザウ』とダンサーが続き、バテリアの女王の名を持つダンサー『ハイーニャ』、指揮者の『ヂレトール』、最後方に『バテリア』が陣取る。
隊列の展開に合わせ、主催側のスタッフが隊をトラロープで囲んでいく。
まだスタート前だが、今のうちに一通り給水に回る。私は隊の前半だ。
先導とアルモニア、ハルが話をしている。
ハルに呼ばれた。
行ってみると、言付けを頼まれた。
お祭りの進行は主催側の領域だ。スタートの判断は先導が担う。パレードの進行の管理はアルモニアだ。チーム全体の意思決定はハルが行う。
ただ、そんな三人が揃っても、演奏の口火を切れるのは指揮者の『ヂレトール』だけだ。
私はヂレトールに、ヂレトールのタイミングで初めて良いことを伝える役割を担った。
ヂレはその伝令を待っていることだろう。私は長い隊列の後方に控えるヂレに伝えるべく走った。
隊列の中盤の給水を担うがんちゃんに、「はじまるよ!」と声をかけながらヂレの元へと急いだ。
伝言を伝えると、ヂレは力強く頷き、近くのハイーニャと、バテリア隊の前方にいるバテリアリーダーに何かを伝える動きをした。
もうほとんど間をおかずに演奏が始まるのだろう。
私は私の持ち場へと急いで戻るべく踵を返した。
前へと戻る私の背から、今は遠くなった遥か後方にいるヂレのカウントの声が私を追い抜いていった。
空気が震えた。
がんこと私は、イベントに参加するのはこれが初めてだが、私にとってはサンバパレードを体感するのも初めてだ。
練習で。室内でバテリアの轟音は体験済みだが、外で離れた位置から届くバテリアの音は、また別の迫力がある。
音量のみで言えば室内で近距離で聴かされる音の方が遥かに大きいが、これだけ離れていても心臓を物理的に掴み掛かってくるが如くの質量さえ感じる音の厚みは、単なる「大きな音」を超える力がある。
音が鳴るとダンサーたちも動き出す。
まだパレードの移動は始まっていない。
ウォーミングアップ的な、若干緩い動きだが、これから始まる「なにか」を予感させる胎動のように感じた。
手を叩き、叫びをあげ、周囲の観客を煽り始める。
先導が動き始めた。
いよいよパレードが動き始める。
パレードは長い身体を持つひとつの命のように、ステージというゴールに向かってゆっくりと進む。
ハルはタンバリンのような形状の『パンデイロ』と言う打楽器をジャグリングしてパフォーマーの先頭を切っていた。
なんとなくの持ち場は決めてあっても、出演者に対して給水の人数は限定的だ。
なるべく行ったり来たりしながら全メンバー間を網羅する。
衣装の羽根が落ちたら拾うったり、突発的な怪我や体調不良にもすぐに対応したりしなくてはならない。
まだ始まったばかりだから給水を含めイレギュラーの発生率は低いが、スタッフも観客を盛り上げるなど役割はいくらだってある。
ダンサーとハイタッチをしたり、一緒になって踊っているような、とりわけ盛り上がってくれている観客を中心にリーフレットも渡していく。
スタッフはある意味最も自由に隊列間を移動できる立場だ。これはこれで貴重な体験になる。
隊列の各所の状況を体感することができるのだ。
それにしても、パレード隊が通った後は笑顔の花なんて表現では足らない、固形燃料に着火したかのように、燃え盛る観客を生み出しては後方に置き去りにし、沿道に並び立つ観客を順に焚き付けていく。
適切な表現が思い浮かばないが、幸せな興奮を無差別に撒き散らすテロリストのようだ。
観客の中には、置き去りにされない猛者もあった。
密集する観客を掻き分け、パレードを追いかけてきてくれるひとたちも何組か。
その中に、幼い娘を連れた母娘もいて、微笑ましい。これに関しては演者の方が心を温かくさせられたようで、ダンサーはかわるがわる女の子の前にいっては、しゃがんでハイタッチしたり、目の前で踊ったりしていた。
もちろん、私もその子のところにいき、母親にリーフレットを配った。
先頭は先導役の主催側スタッフとパレードの進行を管理する『ソルエス』側スタッフの『アルモニア』に続き、男性ダンサー『マランドロ』三人。
その後『パシスタ』、『バイアーナ』、『カザウ』とダンサーが続き、バテリアの女王の名を持つダンサー『ハイーニャ』、指揮者の『ヂレトール』、最後方に『バテリア』が陣取る。
隊列の展開に合わせ、主催側のスタッフが隊をトラロープで囲んでいく。
まだスタート前だが、今のうちに一通り給水に回る。私は隊の前半だ。
先導とアルモニア、ハルが話をしている。
ハルに呼ばれた。
行ってみると、言付けを頼まれた。
お祭りの進行は主催側の領域だ。スタートの判断は先導が担う。パレードの進行の管理はアルモニアだ。チーム全体の意思決定はハルが行う。
ただ、そんな三人が揃っても、演奏の口火を切れるのは指揮者の『ヂレトール』だけだ。
私はヂレトールに、ヂレトールのタイミングで初めて良いことを伝える役割を担った。
ヂレはその伝令を待っていることだろう。私は長い隊列の後方に控えるヂレに伝えるべく走った。
隊列の中盤の給水を担うがんちゃんに、「はじまるよ!」と声をかけながらヂレの元へと急いだ。
伝言を伝えると、ヂレは力強く頷き、近くのハイーニャと、バテリア隊の前方にいるバテリアリーダーに何かを伝える動きをした。
もうほとんど間をおかずに演奏が始まるのだろう。
私は私の持ち場へと急いで戻るべく踵を返した。
前へと戻る私の背から、今は遠くなった遥か後方にいるヂレのカウントの声が私を追い抜いていった。
空気が震えた。
がんこと私は、イベントに参加するのはこれが初めてだが、私にとってはサンバパレードを体感するのも初めてだ。
練習で。室内でバテリアの轟音は体験済みだが、外で離れた位置から届くバテリアの音は、また別の迫力がある。
音量のみで言えば室内で近距離で聴かされる音の方が遥かに大きいが、これだけ離れていても心臓を物理的に掴み掛かってくるが如くの質量さえ感じる音の厚みは、単なる「大きな音」を超える力がある。
音が鳴るとダンサーたちも動き出す。
まだパレードの移動は始まっていない。
ウォーミングアップ的な、若干緩い動きだが、これから始まる「なにか」を予感させる胎動のように感じた。
手を叩き、叫びをあげ、周囲の観客を煽り始める。
先導が動き始めた。
いよいよパレードが動き始める。
パレードは長い身体を持つひとつの命のように、ステージというゴールに向かってゆっくりと進む。
ハルはタンバリンのような形状の『パンデイロ』と言う打楽器をジャグリングしてパフォーマーの先頭を切っていた。
なんとなくの持ち場は決めてあっても、出演者に対して給水の人数は限定的だ。
なるべく行ったり来たりしながら全メンバー間を網羅する。
衣装の羽根が落ちたら拾うったり、突発的な怪我や体調不良にもすぐに対応したりしなくてはならない。
まだ始まったばかりだから給水を含めイレギュラーの発生率は低いが、スタッフも観客を盛り上げるなど役割はいくらだってある。
ダンサーとハイタッチをしたり、一緒になって踊っているような、とりわけ盛り上がってくれている観客を中心にリーフレットも渡していく。
スタッフはある意味最も自由に隊列間を移動できる立場だ。これはこれで貴重な体験になる。
隊列の各所の状況を体感することができるのだ。
それにしても、パレード隊が通った後は笑顔の花なんて表現では足らない、固形燃料に着火したかのように、燃え盛る観客を生み出しては後方に置き去りにし、沿道に並び立つ観客を順に焚き付けていく。
適切な表現が思い浮かばないが、幸せな興奮を無差別に撒き散らすテロリストのようだ。
観客の中には、置き去りにされない猛者もあった。
密集する観客を掻き分け、パレードを追いかけてきてくれるひとたちも何組か。
その中に、幼い娘を連れた母娘もいて、微笑ましい。これに関しては演者の方が心を温かくさせられたようで、ダンサーはかわるがわる女の子の前にいっては、しゃがんでハイタッチしたり、目の前で踊ったりしていた。
もちろん、私もその子のところにいき、母親にリーフレットを配った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる