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想いと思惑
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ビオラとしても強くこだわっているわけではなく、理由にも一応納得がいったようで、今からなら変えられるし差換えてバンドとバテリアに打診し直そうかと言ってくれている。
「わがままいってすみません。ブラバン部のときTristezaやってて、思い入れもあって……」
最後に、個人的でわがままな理由も付け加えた。
「まあ、いのりは今回のイベントの功労者だからね。みんなの『あれやりたい』『これやりたい』なんて聞いていたらきりがないけど、いのりはプロデューサーだし、プロジェクトチームのメンバーでもあるし、多少のわがままくらい許されるよ。意見も尤もだから反対する理由もないし」
「ありがとう!」
「……他にも理由あったりする?」
鋭いな……。
理由として伝えた内容に偽りはない。
他にあるかと言われれば理由と言えるようなものは無い。
確かに、私が伝えた理由は理には適っているかもしれないが、決めかけていたものを変えさせるほどの理由かと言われれば、何とも言えない。
細部まで追及するという意味ではおかしくはないが、一方で理由として述べている内容の根拠は感覚に寄っている。その材料で下された判断で得られる効果はどの程度の信頼度で評価できるだろうか。
だから私は最後に個人的でわがままな理由を加えた。
本音ではあるが、強くはない理に適っている理由。それを感情的な理由を加えて補強する意図はあった。
それでも、他にも理由が無いかを問われている。
理由として足りていないと思ったのか、その理由だけで変更を打診したことに違和感があったのか。それとも単なる好奇心若しくは確認か。
まあもとより隠す意図はない。
むしろ話そうと思っていた動機がある。
ちらりとがんちゃんを見た。
がんちゃんは後発で買い出しに行っていて戻ってきた歌い手『カントーラ』のゆきえとアリスンにベビーカステラをあげ、ゆきえからりんご飴をもらって喜んでいる。
大きなリンゴが丸ごと、飴でコーティングされていて電灯の光を受けて輝いている。あれ、割と高いよね? ベビーカステラとじゃ割合わなくない?
がんちゃんはゆきえたちとのおしゃべりとりんご飴に夢中だ。
目線を戻し、私は口を開いた。
先述の個人的なわがままよりももっと理由にはなり得ない、動機。想いと思惑。
「…………そういうことなら、喜んで」
だけどそんな動機が、想いと思惑が、細かな戦術的な理由などよりもビオラの心を打ったようだった。
スマートフォンの画面上にびっしりと詰まっていた消すべき存在を一瞬で消し去った時ですらポーカーフェイスだったビオラが、頼もしい笑みを浮かべていた。
「わがままいってすみません。ブラバン部のときTristezaやってて、思い入れもあって……」
最後に、個人的でわがままな理由も付け加えた。
「まあ、いのりは今回のイベントの功労者だからね。みんなの『あれやりたい』『これやりたい』なんて聞いていたらきりがないけど、いのりはプロデューサーだし、プロジェクトチームのメンバーでもあるし、多少のわがままくらい許されるよ。意見も尤もだから反対する理由もないし」
「ありがとう!」
「……他にも理由あったりする?」
鋭いな……。
理由として伝えた内容に偽りはない。
他にあるかと言われれば理由と言えるようなものは無い。
確かに、私が伝えた理由は理には適っているかもしれないが、決めかけていたものを変えさせるほどの理由かと言われれば、何とも言えない。
細部まで追及するという意味ではおかしくはないが、一方で理由として述べている内容の根拠は感覚に寄っている。その材料で下された判断で得られる効果はどの程度の信頼度で評価できるだろうか。
だから私は最後に個人的でわがままな理由を加えた。
本音ではあるが、強くはない理に適っている理由。それを感情的な理由を加えて補強する意図はあった。
それでも、他にも理由が無いかを問われている。
理由として足りていないと思ったのか、その理由だけで変更を打診したことに違和感があったのか。それとも単なる好奇心若しくは確認か。
まあもとより隠す意図はない。
むしろ話そうと思っていた動機がある。
ちらりとがんちゃんを見た。
がんちゃんは後発で買い出しに行っていて戻ってきた歌い手『カントーラ』のゆきえとアリスンにベビーカステラをあげ、ゆきえからりんご飴をもらって喜んでいる。
大きなリンゴが丸ごと、飴でコーティングされていて電灯の光を受けて輝いている。あれ、割と高いよね? ベビーカステラとじゃ割合わなくない?
がんちゃんはゆきえたちとのおしゃべりとりんご飴に夢中だ。
目線を戻し、私は口を開いた。
先述の個人的なわがままよりももっと理由にはなり得ない、動機。想いと思惑。
「…………そういうことなら、喜んで」
だけどそんな動機が、想いと思惑が、細かな戦術的な理由などよりもビオラの心を打ったようだった。
スマートフォンの画面上にびっしりと詰まっていた消すべき存在を一瞬で消し去った時ですらポーカーフェイスだったビオラが、頼もしい笑みを浮かべていた。
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