スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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 スクロールには細かいギザギザに一定の間隔で針のような鋭角の山が現れていた。
 ぱっと見パターンは一定だ。

 出力されたスクロールを見た女性の担当の方も、それを受け取ったハルも、波形には目立った異常はなさそうとの評価をした。

「心電図の結果は専門医にも見てもらうが、おそらく問題はない。心臓に異常がないなら、とりあえずは心配はない。しばらくは経過観察だ。通り一遍の言い方になるが、無理はせず睡眠や休養はしっかりとるように」

 神妙に頷いた私に、ハルは爽やかな笑顔を見せ、「不必要に心配したり不安に思わなくて良いからな。物語なんかじゃ却ってフラグになりそうだが、そんなに劇的なことなどそう起こるものではない」と言いながら、約束の氷砂糖をくれた。五個のはずだったが、七個もあった。

「ああ、残り少なくてな。中途半端に残したくなかったから全部持ってきた」


 ハルは安心させようとしてくれているのがわかった。
 安心させようとしてるってことは? むしろ実際は悪いのでは? なんて邪推はしない。
 ハルは私の性質というか、考え方や在り方を理解してくれている大人だ。事実を包み隠さず、相手にとって最適な伝え方で伝えてくれることだろう。
 だから、本当に心配はいらないのだと思う。
 元より検査を必要などと思っていなかったわけだから、心配などしていなかったのだが、いざきちんと検査をするとなると、僅かながら、「もしかしたら悪い病気なんじゃ?」なんて思いももたげてくる。それが払拭できたのは良かった。

 ただ、

「姉妹揃ってお世話になっちゃいましたね」

 がんちゃんの怪我に続いて、私まで厄介になってしまったことが少し居た堪れなかった。


「そこは気にするところじゃない」

 チームメンバーとはいえ、病院にかかっている事実自体がひとによってはセンシティブな情報にもなり得るから細かくは言わなかったが、結構多くのメンバーがなんやかんやと東風クリニックを利用しているらしい。

「でしたら、私も気軽にお薬もらいにきますね!」

「うちは薬屋じゃないぞ。無闇な処方箋は出さないからな」



 考えてみれば、がんちゃんの例もそうだったが、ダンスも演奏も、怪我や痛みとは無縁とはいえない。
 外でやるパフォーマンスは予期せぬ怪我だってあり得る。

 それに老若男女揃うチームメンバーは、それぞれ色々な職業や趣味、事情などを抱えている。


 身近に医師という専門知識を運用できる人物と、クリニックという設備が使用できる環境があるのって、とても恵まれていて心強いことなのではと、改めてがんちゃんがえらんだ『ソルエス』というエスコーラを、多様なストロングポイントを持つ組織だなと思った。


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