スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
113 / 215

実演(LINK:primeira desejo 101)

しおりを挟む
 さあ、演奏だ!

 安達さんの拍手の中、スルドの縁をマレットで叩きカウントを取る。

 カッ、カッ、カッ......。
 気持ちゆっくり目のカウント音が響く。

 その間にがんこも自分のスルドまで移動する。
 ほづみもひいを引っ張ってパフォーマンスのために空けられているスペースまで来てポーズを取り固まった。


 カッ、カッ、カッと、祷がマレットでスルドの縁を叩きカウントを取る。カウントはゆっくりだ。


 ダンっ!


 私がスルドを叩いた音を合図に、ほづみとひいが踊り出す。
 ほづみが身につけていた身体を隠す布を脱ぎ捨て、それがひらりと舞い落ちる様子も演出的だ。
 本当はひいも同じようにするはずだったが、勢いで出てきてしまったためか、布を身につけていなかった。一応、振りだけやっている。


 ドンっ!


 がんちゃんのスルドから大きい音が鳴る。


 まずは『バツカーダ』だ。
 メロディも歌もない、打楽器だけでの演奏だ。スローアップという、ゆっくりのリズムでしばらく演奏し、転換のポイントを打ってから、リズムが早くなるという構成を使う。
 スロー部分ではダンサーはゆっくりとした移動や演技を、アップでは激しいダンスや、高速のサンバ・ノ・ぺで魅せる。

 スルド二本による演奏となるので、私もがんこも、それぞれソロの技法も混ぜてリズムに厚みを持たせていた。



 デン、ドン、デン、ドン。


 ほづみとひいの、長い手足をしなやかに使ったスローなダンスは妖艶で美しい。
 腰も使っていてセクシーで、笑顔にも妖しい魅力が宿っている。



 デデッデ! ドンドン! デンドンデデドン!


 リズムはゆっくりのままだが、刻む音を入れて綾を出す。


 踊るふたりも、ゆっくりなリズムに合わせるようにゆったりとした優美な動きながら、細かい音にも目線や指先、時には揺れる髪などを使った表現で合わせていた。


 トカカカカッカッ!



 転調のキッカケのバリエーションが鳴らされると、ダンサーは一旦ポーズで止まる。


 ドドドドッ! デデンデン! ドゥカカカッドンドン! デデン! ドドン!


 早いリズムに変わり、ほづみとひいは激しく躍動感の溢れるダンスを踊った。
 嬌声をあげたり、手を叩いたりしながら、観客である安達さんを盛り上げる。

 フリーで踊っていたふたりが、どこで合図を交わしたのか、息を合わせてサンバ・ノ・ぺを踏んでいた。


 ダンサーに負けてはいられない。
 がんちゃんと私の呼と応のリズムの応酬も激しを増す。

 駆け抜けるようなアップテンポは、勢いはそのままにキメへと入る。

 ドゥカカカッドンドン! デン! ドン! デンッ‼︎


 音も動きも、ピタッと止まった。

 躍動感と音に包まれていたはずのこの場は、今は動くものも音もない静の空間のはずなのに、激しさの名残があるのは、この場にいる者の心に火を灯したからだろうか。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

処理中です...