スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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 ひとつ目の目的を果たした私たちは次の目的地へ。
 私たちがじっくり話したいときは、ファミリーレストランやカフェを利用することが多かった。時間がたくさんあって、話すことのボリュームが少ないときはカラオケで少し話して、あとは歌うみたいなこともたまにある。
 落ち合う場所も限られていたので、利用する店舗も自ずと大体決まっていた。
 今日は普段は使っていない店舗に行くことにしていた。




「いらっしゃいませぇ! ......えぇーっ⁉︎」


 狙って来たとはいえ、ピンポイントで当たるとは。


「がんちゃん、こんばんはー。がんばってるね!」

「がんちゃん。おつかれさま」


 接客も忘れて驚いているがんちゃんに、ほづみが笑顔で挨拶をした。私も続いて労いの言葉をかける。

 驚きは一瞬。まだ動揺は残しながらも接客モードに戻って私たちを席へと案内するがんちゃん。
 すっかり立派になって。


 がんちゃんが働いている店舗にいつかは行ってみたいと思っていた。
 今の関係性ならそこまで嫌がられはしないだろう。

 行きたいという私の欲求を満たす意図は、正直言えばある。
 だが、もうひとつ意図があった。

「ありがとう、がんちゃん。このまま注文しちゃって良いのかな?」

「あ、はい、お決まりでしたら」

 尋ねるほづみに店員モードで答えるがんちゃん。
 くぅー! ちゃんとしてるねー! かわいい!

「そんな畏まらなくて良いのに。って、そういうわけにもいかないのか。仕事中だもんね。身内だからってフランクな対応してるの偉い人に見られたら怒られちゃうよね」
 言いながらメニューを指して注文するほづみ。ほづみの笑顔につられるようにがんちゃんも笑顔をつくっていたが、まだ驚きが尾を引いているのか、笑顔が少々固い。


「実はほづみと打ち合わせたいことがあって、ファミレス行こーってなったの。それで、どうせならがんちゃんのお店に行ってみようと」

 もうひとつの意図は、慣らしだ。
 私とほづみが、何らかの動きをしていることをあらかじめがんちゃんには認識しておいてもらいたかった。
 次のフェーズへの移行をスムーズにするためにも。
 目的を果たした私は、「急に来てごめんね」と言いながらいくつかのメニューをオーダーした。

 ふたり合わせればまあまあの量だ。
 長居する意思が表れている。
 働くがんちゃんを眺めながらという最高のロケーションで進める打ち合わせは、きっと充実した内容となるだろう。

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