スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ドライブと買い物

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 スムーズだがゆっくりと流れている平日日中の街道をのんびりと進む日産ノート。

 
「迎え、ありがとね。やっぱり車あると便利よね。私も考えようかなぁ」

 
 助手席のほづみは言いながら、「繋げるね」と、持参した音源データをBluetoothで接続した。
 カーステレオから軽快な曲が流れはじめた。普段は落としている音量を少し上げる。
 
「あ、これこの前練習でやったね」
 曲名は『PORTELA NA AVENIDA』。サンバの本場ブラジルはリオのカーニバルに出場している強豪エスコーラの中でも、″名門″と言われるポルテーラの曲だ。
 ドラマチックな構成で格好良い。
 
 ほづみが持って来てくれた音源データには、『ソルエス』が過去に使った『エンヘード』(毎年カーニバル用に製作するテーマに沿った楽曲)や、練習、イベントなどで使用するサンバやブラジルのエスコーラの過去エンヘードなどが入っていた。

 目的地までは近いがまだ少し早い。
 私たちはドライブがてら郊外型の大型リサイクルショップに寄ることにしていた。その店舗は楽器の買い取りに力を入れていて、民族楽器も充実しているそうだ。

 スルドがあるなら参考に見てみたいが、目的は別にあった。
 計画に必要な物資が揃えられたら良いのだが。


 大型のリサイクルショップは比較的整えられているチェーン店でもカオス感があって楽しい。
 目的のものは決まっていたが、関係のないアパレルや雑貨、家具なんかもほづみと一緒に眺めて回った。ショッピングモールやショッピングスポットでの買い物とはまた異なる趣がある。

 
 
 調達結果はまずまず。
 さすがにスルドは無かった。目当てのカバキーニョも無かったが、状態の良いウクレレが格安で売っていた。KALAは定価が安価だが品質は悪くなく、アメリカではシェアトップらしい。三千円なら良い買い物だったのではないだろうか。
 目当てのひとつだった直近のヒットソングが一通り乗っている楽譜も買えた。そんなにたくさんはいらないのだが、あって困るものでもないので三年前、二年前、一年前の計三冊を仕入れた。

 
『カバキーニョ』はウクレレに似たサイズの4弦の弦楽器だ。
 ウクレレがナイロンの弦で柔らかな音色を奏でるのに対し、カバキーニョはスチール弦で甲高い音を鳴らす。
 新品未開封のスチール弦も千円弱で売っていた。ウクレレにスチール弦を貼ればカバキーニョの音色に近くなるのではとも考えたが、素人が余計なことをしない方が良い。
 弦楽器に触ること自体、ブラスバンド部時代に覚えたコントラバス以外は無く、ブラスバンド部でも大編成時以外では弦楽器は登場しないので、管楽器や打楽器に較べると、弦楽器への理解は低いと言わざるを得ない。
 私が配信している動画チャンネルでは、コントラバスは見映えが良く、メロディーとリズム両方でも使えることなどから、バスドラムよりも登場回数は多いが、メンテナンスやカスタマイズの知識は豊富とは言えない。
 ウクレレの弦を変えるアイデアはいつか動画用のネタでチャレンジしても良いと思うが、今は目的に向け真っ直ぐ急ぐ必要がある。
 目的への到達のしやすさで考えれば、無理してリスクを負いウクレレを異なる楽器の音に近づけるのではなく、ウクレレ本来のサウンドの取り入れ方を工夫した方が近道な気がした。
 ウクレレ特有の優しくゆっくりとしたサウンドがややミスマッチなら、速度と手数、音の強さで補えるイメージがある。
 コントラバスは弓で演奏する。友人のギターを演奏させてもらったこともあるから、指を使った演奏経験はあるが、初心者同然だ。どうせ練習が必要になる。それなら、ウクレレを高音でチューニングしておき、早く強くはっきりした音を鳴らせるように練習すれば良い。
 時間はないが正味数分程度の演奏なら形にすることくらいはできる筈だ。
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