81 / 215
ドライブと買い物
しおりを挟むスムーズだがゆっくりと流れている平日日中の街道をのんびりと進む日産ノート。
「迎え、ありがとね。やっぱり車あると便利よね。私も考えようかなぁ」
助手席のほづみは言いながら、「繋げるね」と、持参した音源データをBluetoothで接続した。
カーステレオから軽快な曲が流れはじめた。普段は落としている音量を少し上げる。
「あ、これこの前練習でやったね」
曲名は『PORTELA NA AVENIDA』。サンバの本場ブラジルはリオのカーニバルに出場している強豪エスコーラの中でも、″名門″と言われるポルテーラの曲だ。
ドラマチックな構成で格好良い。
ほづみが持って来てくれた音源データには、『ソルエス』が過去に使った『エンヘード』(毎年カーニバル用に製作するテーマに沿った楽曲)や、練習、イベントなどで使用するサンバやブラジルのエスコーラの過去エンヘードなどが入っていた。
目的地までは近いがまだ少し早い。
私たちはドライブがてら郊外型の大型リサイクルショップに寄ることにしていた。その店舗は楽器の買い取りに力を入れていて、民族楽器も充実しているそうだ。
スルドがあるなら参考に見てみたいが、目的は別にあった。
計画に必要な物資が揃えられたら良いのだが。
大型のリサイクルショップは比較的整えられているチェーン店でもカオス感があって楽しい。
目的のものは決まっていたが、関係のないアパレルや雑貨、家具なんかもほづみと一緒に眺めて回った。ショッピングモールやショッピングスポットでの買い物とはまた異なる趣がある。
調達結果はまずまず。
さすがにスルドは無かった。目当てのカバキーニョも無かったが、状態の良いウクレレが格安で売っていた。KALAは定価が安価だが品質は悪くなく、アメリカではシェアトップらしい。三千円なら良い買い物だったのではないだろうか。
目当てのひとつだった直近のヒットソングが一通り乗っている楽譜も買えた。そんなにたくさんはいらないのだが、あって困るものでもないので三年前、二年前、一年前の計三冊を仕入れた。
『カバキーニョ』はウクレレに似たサイズの4弦の弦楽器だ。
ウクレレがナイロンの弦で柔らかな音色を奏でるのに対し、カバキーニョはスチール弦で甲高い音を鳴らす。
新品未開封のスチール弦も千円弱で売っていた。ウクレレにスチール弦を貼ればカバキーニョの音色に近くなるのではとも考えたが、素人が余計なことをしない方が良い。
弦楽器に触ること自体、ブラスバンド部時代に覚えたコントラバス以外は無く、ブラスバンド部でも大編成時以外では弦楽器は登場しないので、管楽器や打楽器に較べると、弦楽器への理解は低いと言わざるを得ない。
私が配信している動画チャンネルでは、コントラバスは見映えが良く、メロディーとリズム両方でも使えることなどから、バスドラムよりも登場回数は多いが、メンテナンスやカスタマイズの知識は豊富とは言えない。
ウクレレの弦を変えるアイデアはいつか動画用のネタでチャレンジしても良いと思うが、今は目的に向け真っ直ぐ急ぐ必要がある。
目的への到達のしやすさで考えれば、無理してリスクを負いウクレレを異なる楽器の音に近づけるのではなく、ウクレレ本来のサウンドの取り入れ方を工夫した方が近道な気がした。
ウクレレ特有の優しくゆっくりとしたサウンドがややミスマッチなら、速度と手数、音の強さで補えるイメージがある。
コントラバスは弓で演奏する。友人のギターを演奏させてもらったこともあるから、指を使った演奏経験はあるが、初心者同然だ。どうせ練習が必要になる。それなら、ウクレレを高音でチューニングしておき、早く強くはっきりした音を鳴らせるように練習すれば良い。
時間はないが正味数分程度の演奏なら形にすることくらいはできる筈だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。



隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる