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口の虎は身を破る(LINK:primeira desejo71)
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がんちゃんは一見、何事も無かったように過ごしている。エンサイオも。
安静にするのは継続しているが、もう痛みもほとんどなくなっているため、軽く練習に復帰している。
何事も無かったかのように見えるのは、淡々と過ごしているから。淡々としていること自体が、何事も無いわけじゃないことの表れなのだが。
がんちゃんを気にしつつも、私も練習に集中する。
私はまだまだ初心者だ。一回一回の練習を疎かにはできない。ブラスバンド部の時もそうだったが、スタートの段階で密に身体に染み込ませることで、その後の伸び率や定着率が変わってくる。
それに、初心者時代が一番レベルアップを実感できて楽しい時期でもある。この時期を大切に過ごすことで、その取り組みが一過性で終わるか、一生共に歩めるかが分かれると思っている。
今なお続けている楽器と同様、スルドもずっと続けたいと思っていた。願わくは、がんちゃんと一緒に。
集中はしているつもりだが、どうしても意識のごく端の方ががんちゃんを捉えてしまう。
キョウさんと話しているがんちゃんの表情が、強張っているように見えた。
キョウさんとのやり取りでがんちゃんがあのような表情をしているのは珍しい。
そろそろ軽く給水しようと思っていたところだ。
がんちゃんに気付かれないようにしつつ、ちょっと様子をうかがおう。
がんちゃんが言ったなんらかの言葉に対し、キョウさんはすまなそうにしていた。
がんちゃんの表情は怒り。ではない。どちらかといえば不貞腐れた不機嫌な表情だろうか。その中に気まずさと後悔が見え隠れしている。
キョウさんからは謝罪の中に「そんなつもりは無かった」という言葉も混ざっている。
キョウさん側から得られた情報で考えれば、そんなつもりではない何かを言った結果、想定と異なる反応があって、詫びたという流れだ。
ふたりの関係性も加味すれば、キョウさんからは良かれと思っての何らかの言葉があったのだろう。
それががんちゃんの何かに障り、負の感情を露にした。名残の表情を見るに、負の感情の種類は悲しみよりは怒りに近いものだったのだろう。
おそらく脊髄反射であたりの強いことを言ったのか、嫌みな言い方でもしたのか。
キョウさんが申し訳なさそうにその場を去った跡を、茫然と眺めているがんちゃん。
虚無を映しているような目に宿る暗さが後悔の深さの表れだとするなら、少し根が深そうだ。
がんちゃんが言い放った言葉は、がんちゃんが尊敬し、懐いているキョウさんを傷つけ、がんちゃん自信をも傷つけてしまうような鋭いものだったのかもしれない。
思春期特有の後先を考えない鋭利な攻撃性の発露。
わかる、わかるけどがんちゃん。その道は進み過ぎてはいけない。
安静にするのは継続しているが、もう痛みもほとんどなくなっているため、軽く練習に復帰している。
何事も無かったかのように見えるのは、淡々と過ごしているから。淡々としていること自体が、何事も無いわけじゃないことの表れなのだが。
がんちゃんを気にしつつも、私も練習に集中する。
私はまだまだ初心者だ。一回一回の練習を疎かにはできない。ブラスバンド部の時もそうだったが、スタートの段階で密に身体に染み込ませることで、その後の伸び率や定着率が変わってくる。
それに、初心者時代が一番レベルアップを実感できて楽しい時期でもある。この時期を大切に過ごすことで、その取り組みが一過性で終わるか、一生共に歩めるかが分かれると思っている。
今なお続けている楽器と同様、スルドもずっと続けたいと思っていた。願わくは、がんちゃんと一緒に。
集中はしているつもりだが、どうしても意識のごく端の方ががんちゃんを捉えてしまう。
キョウさんと話しているがんちゃんの表情が、強張っているように見えた。
キョウさんとのやり取りでがんちゃんがあのような表情をしているのは珍しい。
そろそろ軽く給水しようと思っていたところだ。
がんちゃんに気付かれないようにしつつ、ちょっと様子をうかがおう。
がんちゃんが言ったなんらかの言葉に対し、キョウさんはすまなそうにしていた。
がんちゃんの表情は怒り。ではない。どちらかといえば不貞腐れた不機嫌な表情だろうか。その中に気まずさと後悔が見え隠れしている。
キョウさんからは謝罪の中に「そんなつもりは無かった」という言葉も混ざっている。
キョウさん側から得られた情報で考えれば、そんなつもりではない何かを言った結果、想定と異なる反応があって、詫びたという流れだ。
ふたりの関係性も加味すれば、キョウさんからは良かれと思っての何らかの言葉があったのだろう。
それががんちゃんの何かに障り、負の感情を露にした。名残の表情を見るに、負の感情の種類は悲しみよりは怒りに近いものだったのだろう。
おそらく脊髄反射であたりの強いことを言ったのか、嫌みな言い方でもしたのか。
キョウさんが申し訳なさそうにその場を去った跡を、茫然と眺めているがんちゃん。
虚無を映しているような目に宿る暗さが後悔の深さの表れだとするなら、少し根が深そうだ。
がんちゃんが言い放った言葉は、がんちゃんが尊敬し、懐いているキョウさんを傷つけ、がんちゃん自信をも傷つけてしまうような鋭いものだったのかもしれない。
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わかる、わかるけどがんちゃん。その道は進み過ぎてはいけない。
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