スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
73 / 215

ほづみが心配してくれたのは...

しおりを挟む
 夜明け前、ルークはリーンを抱き抱え、魔女の城から出て、『魔女の森』の外に向かった。
 あの後、魔女王ソフィアによって『移植転移』をされたリーンの体調が悪くなり、熱を出して動けなくなったからだ。
 ソフィアいわく、体内の調整が出来ておらず、身体に馴染むまでしばらくかかるそうだ。
 だが、リーンをこのまま『魔女の森』に置いておくわけにいかず、森が閉じてしまう前に、軽量魔法を使ってリーンを抱き上げ、ソフィアが『魔女の抜け道』を作ってくれて、出入口付近まで連れてきてくれた。
「…よろしくね」
 ソフィアがルークに声をかけてきた。
 ルークは眠るリーンを抱えたまま、足を止め、ソフィアの方に振り向いた。
「…貴女は、ソレでいいのか?」
 気になっていたことを聞く。
「…うん?…子供の事?」
 ソフィアは微笑んで言う。
「リーンの事、信用してるから…。それに、私が育てるより、リーンの元で自由に選ばせてあげたいの」
 子供の未来を…か…。
 彼女にも何か思うことが有るのだろう。
 リーンと同じ様に長寿で、いつから魔女王として君臨しているのか分からないが、彼女には選ぶ事が出来なかったのかもしれない…。
「…俺の元に来ても、王族として逃れられない事も有るぞ」
「…それでも…」
 ソフィアは苦笑いしている。
 それでも、彼女の体内から外に出れず、命が消えるより…リーンの子供として、産まれてくることを望んでいる…か…。
 ルークはため息を付き、リーンを抱え直すとソフィアに背を向けて『魔女の森』を抜け、バラのアーチをくぐり、小川に掛かる橋を渡った。
 背中に視線を感じたが、ルークは振り向かず真っ直ぐに、アオとカズキが待つ馬車へと急いだ。


 森を抜け街道に近付くと、見慣れた馬車が道を塞ぐように停まっていた。
 見慣れた、ルークの屋敷の馬車だ。
 ルークが馬車に近付くと、こちらに気がついたガズキが馬車から降りてきた。
「…ルーク様!…リーンさん…」
「ルーク様!」
 アオも馬車から顔を覗かせ、降りてくる。
「リーンさんはどうしたんですか?」
「詳しい話は移動しながらだ」
 アオはすぐさま馬車内の座席に、毛布を何枚も敷いて横たわる場所を作り、丸めた毛布を枕代わりにすると、そこへルークが、眠るリーンをそっと横たえる。
 ガズキは準備しかけた朝食の食材を一旦終い、移動の準備を始め、日が昇り、辺りが明るくなって来る頃には、街道から馬車を動かし、少し先にある馬車の休憩所へむかった。


 休憩所には小さな小川が有り、馬車を並んで停車することができ、誰でも使用できるので、馬に水や食事を与えたり、自分達の食事も出きる場所だ。
 そこへ馬車を停車させ、ガズキは馬に水と食事を与え、アオが馬車の外でお湯を沸かして、朝食の準備を始めた。
 リーンは横たわったまま…。
 ルークはそんなリーンの髪を撫でる。
 朝食の準備が出きると、馬車の中に三人顔を見合わせて、朝食を食べながら、ルークが『魔女の森』であったことを話し始めた。
 アオもガズキも神妙な顔をして、頭を抱えながら、取りあえず口に食事を運んでいた。
「ルーク様はそれで良いんですか?」
 『魔女の森』での事が話し終わると、アオが聞いてくる。
 まあ、言われると思った。
「…リーンの子供だろ。俺にはソレだけで良い…」
 誰が何て言おうと、リーンの全てを守ると決めたのだ。
 例えソレが、魔女王との子供だとしても…。
「…ルーク様がそれで良いのなら、俺たちは全力で見守りますよ」
 アオとガズキは顔を見合せ頷いて、そう言って微笑んだ。
 良い仲間を持って俺は幸せだな…。
 ルークは眠るリーンをチラリと見て、残りの朝食を食べ始めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

処理中です...