スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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運命との邂逅

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 近づいてくる音が大きくなってきて、合わせるように周囲の観客がざわめき出した。

 隣の友だちも、何が始まるんだろうね? と、興奮した様子でみことに話しかけた。みことも友だちや周りに釣られて、嫌が応にもテンションは上がりつつあった。

 歌の声がはっきりと聞こえるようになると、道路の左奥から軽妙な感じのパフォーマーが横一列になって踊りながら進んできた。
 ひとりひとりがアルファベットのパネルを持っている。チーム名だろうか?

 どうもポイント的に、止まらずあまりゆっくりも動かず、どちらかといえばスピーディーに通り過ぎていってしまう箇所のようだ。だから観覧できる空きができていたのかもしれない。
 チーム名らしきパネルを持った、隊を紹介する役割と思わしき集団が通り過ぎると、同い年くらいの子たちで編成されたダンサー集団が踊りながら過ぎていった。

 これ、パレードだ!

 みことは内心興奮した。

 少し前に、自らの心を掴んだパレード。
 世界有数のテーマパークの誇るプロ集団のパレードと比較すべきものではないのかもしれないが、パフォーマーの技術、衣装や山車の完成度には差はあるのだろう。
 しかし今、目の前を過ぎていくパレードもまた、次々現れる色々な姿形のパフォーマーと表現、そして彼らが表しているであろうなんらかのストーリーが織りなされていて。

 内容を左脳で理解していないみことであっても、その心は打たれたのだという。


 その後もパレードは続いた。
 そのチームが終わった後、少ししたら今度は別のチームのパレードが始まった。

 行こうと言った友だちの方が先に疲れてしまい、そろそろいちごのスイーツ食べに行こうよと言い出していた。
 自分から観たいと言ったくせにと思いながら時計を見たら、気づけば十五時を回っていた。
 名残惜しいがさすがに長居し過ぎている。
 それは、時間の経過に気づかないほどに夢中になっていたことを表してもいる。

 まだまだパレードは続きそうな雰囲気で、底知れなささえ感じながら、みことは友だちとその場を離れた。


 目当てのいちごのスイーツは、パフェとかき氷をシェアして食べた。
 美味しかったが、どこか上の空だったみことの心は、まだ沿道に残っていたのかもしれない。


 家に着いたみことは、浅草で見た出来事のことを調べた。


『浅草サンバカーニバル』

 年に一度行われる北半球最大規模のサンバカーニバル。


 規模や内容などを夢中になって調べたみことは、自宅の近くに参加チームのひとつ、『ソール・エ・エストレーラ』が存在することを知った。
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