スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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近づく運命

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 浅草に降り立ったみことたちは、その人の多さに驚いた。

 これまでも浅草に来たことはある。夏休みの期間だし暦上の休日でもある日だ。日本有数の観光地でもある浅草に人出が多いことくらいは容易に想像していた。想像できていた。が、少し違和感があった。
 人の多さに加え、人の流れと騒がしさ。どうも交通規制が敷かれているようだ。お祭りでもやっているのだろうか?

 みことは友だちとそんな話をしながら、あてもなく街を歩いた。
 祭りならそのうちそれっぽい人の動きや場所に出くわすだろう。出店のあるタイプのお祭りならそこで食べ歩きしても良い。

 なんて思いながら歩いていたが、美味しそうな唐揚げ専門店を見つけたので、そこで唐揚げを買ってしまった。ふたりで三種類を四つずつ購入した。ひとつあたりが意外と大きくて、唐揚げだけでお腹いっぱいになってしまったふたりは、炎天下の散策もしんどくなり、ドンキやロックスで買い物をして過ごした。

 まだ十三時を少し過ぎたあたり。
 室内で過ごしたため、身体はクールダウンできていた。
 おやつには少し早い。
 いちごスイーツのお店に向かいながらゆっくり街を歩こうと決めたみことたちは建物から出た。

 やっぱり、なんとなく街全体から喧騒を感じる。なんだろうか。


 よく耳を澄ますと、歌うような声と打楽器のような音が聞こえた。

 みことたちは特に意識をしていたわけではなかったが、すこしずつ喧騒のする方向に移動していた。

「ちょっと行ってみようか?」

 言ったのはみことの友だちの方だった。
 明らかになんらかの催しが行われていることを認識でき、興味を持ったようだ。

 みこととしては、興味がないわけではなかったが、ただでさえ暑いのに人混みに入っていくのが本当は少し嫌だった。
 ただ、どうしても嫌というほどではなく、興味がないわけでもないので、友だちが観たいというなら、どうせ時間もあるのだからまあそれも良いかという程度のモチベーションで友だちについて行ったみこと。

 催しは、道路をいっぱいに使って行われているようだった。
 沿道には異常なほどの人だかり。音は遠く、道路ではまだ何も行われていないようだ。にも関わらず、人の壁が幾重にも重なっている。みことは小学生にしては背が高い方だったが、道路をはっきり見ることができなかった。
 せっかく来たのだからと、友だちと一緒に空きスペースを探していたら、奇跡的に道路まで遮られずに見られるポイントを発見した。
 よく聞くと、音は遠ざかっているように聞こえたが、別の音が少しずつ近づいてきているようだった。
 多分ここで待っていれば、近づく音の方がここまでくるかもしれない。

 みことは友だちとそこに陣取り音の主が来るのを待った。







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