スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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 エンサイオにはがんこと一緒に参加した。
 絶対安静中のがんこに練習場でできることはない。休んでもまったく問題はないが、手首を痛めた日にキョウさんから言われた、聴くだけでも意味はあるという言葉を真摯に捉えているのだろう。家にいてもいたたまれないという理由もあるかもしれない。

 がんこは気になるが、私も練習に集中しないと。
 サンバもスルドも初心者だ。
 打楽器経験はあるけど、それがサンバには合わないクセとなって現れてしまうかもしれない。そういう意味でも、基礎の反復は重要だ。


 チカの教えは丁寧で分かりやすい。
 少し複雑な叩き方も、単純で理解しやすい言葉による説明と、実演を交えて教えてくれるので、論理と感覚両方で把握することができた。

「いのりちゃん、理解早いー。何だかすぐに教えることなくなっちゃいそう」

 チカはそう言ってくれたが、そんな簡単なものではないことは、楽器経験者だからこそ承知している。
 基礎のリズムでさえ、追求すればするほど果ては遠のいていき、その道行きの遠大さに時に眩暈を覚え、時に気合いが湧いてくるのだ。


 チカはいろいろな叩き方を教えてくれ、形だけは一通り叩けるようになったが、今日は改めて基礎を徹底的にやろうと思った。
 基礎を固めないと高い建造物は建てられない。
 チカ自身も、それは大切だよねと、今日は基礎特化の1日として付き合ってくれると言ってくれた。

 基礎は単調な分集中力が要る。
 人間の集中力には限界がある。だから休憩時間とのメリハリが求められる。
 なので、休憩時間は一時スルドのことは忘れてしっかり休憩する。水分を摂り、軽く手首や肩を中心にストレッチをした。
 まだ時間はある。

 がんちゃんの様子を見に行った。
 見学しているだけなのだから、何か問題が起こるわけはないのだが、放ってはおけなかった。

「祷、様になってるね」

 私の練習の様子をずっと見ていたのだろう。
 そう言うがんこの表情は笑顔だが、その奥にもどかしさと焦りの色が見えた。
 それでも、我慢して絶対安静の指示は守り、音をよく聴くと言う練習に特化していたようだ。
 そのこと自体は肯定的に捉えているようで、思っていたほどには悲壮感は漂っていない。少し安心できた。

 これならこの後の合同練習も意味のある時間として過ごせるだろう。

「セッティングしてきちゃうね」

 合同練習はダンサーの練習場で行う。
 休憩時間中にスルドを持っていくため、その場を離れた。

 少し早めに移動して、やりたいこともあった。
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